パンツ穿いてなかった
「きて……なさい……はやく……きなさいよ」
「ん……?」
「そう……よ……ええ……るわ……」
なんだか話し声が聞こえますが、相手の声は聞こえて来ません。独り言でしょうか?
というかまだ眠たいので眠りましょう。そうしましょう。zzZ。
「スゥ……スゥ……」
「……ふふ、可愛い寝顔」
「スピー……スピー……」
「このままどこにも行かないで、ずっと私のそばに居てね?」
今の発言で私の耳がピクリと反応して脳が冴え渡りました。
私が失踪してからざっと数週間。その間ずっと森の中を彷徨い探し続けて、朝起きたら突然目の前に探し続けていた子が現れたら、私ならもう二度と失わないように一時もそばを離れたく無いですし、なんなら物理的に縛り付けますね。衣食住全て揃えてどんな我儘にも応えてあげて、一生離れられないようにします。
自分の誤った行動で失踪させてしまった罪悪感からなら尚更です。
「柔らかい……」
私の頬をぷにぷにと指でつついてきて、起きるタイミングを完全に失ってしまった私は、太ももやらお尻やらお腹などなどをぷにぷにと好き放題弄ばれ、そのまま擽ったさを耐えながらしばらく寝たふりを続けていると、ドアをノックする音が聞こえ、ンルヴァが玄関へ出迎えに行く気配がしたので、薄目を開けて見守っていると、もう一人の下手人たる冒険者ギルドの受付嬢、確か名前はステアだかスフィアだがと言いましたか、その人がやって来たのが見えました。
「ちゃんと生きてるの!?」
「落ち着いてスティア、今はぐっすり眠っているけど、お尻が腫れている以外はどこにも怪我は無いし、むしろ出会った時よりだいぶ健康的な身体付きになっているわ」
「そう……はぁ……良かった……」
スティアでしたね。訂正してもお詫びはしません。
あと、パンツを穿いていなかったのを思い出しました。
生尻を見られたって恥ずかしくないもん! ……ないもん。
「んん……ふぁああ……」
起きるならこのタイミングが良いかと思い、うるささで目覚めてしまったていを装って起き上がりました。
「あ」
目を開けた瞬間、スティアと目が合ってしまい、一瞬思考が止まったタイミングで瞬間移動でもされたかと思うほどの素早さで抱き付かれ、そのままの勢いでベッドに押し倒されてしまいました。
「ぐえぇっ!?」
「本当に生きてた! 生きてた生きてた! やったー! やったー! 無事に生きててありがとー!」
感極まるとはこの事ですね。
抱き締められるわ、高い高いされるわ、顔中にキスされるわ、まるで久し振りに帰って来た愛しのご主人様を出迎えた犬です。
以前に猫の物真似をさせた事がありますが、犬の物真似の方が10倍上手いと思います。
「落ち着いてスティア、寝起きにそんな乱暴にしては頭がおかしくなってしまうわよ」
「あ、ごめん! でも本当に生きてて良かった!」
この世界の女性はロトルルの視点から見ても美人さんだらけで、スティアも御多分に洩れず美人さんなので、抱き付かれたりキスされたりするのは大変喜ばしい事なのですが、なにぶん、私をモンスターの大群に襲わせたもう1人の下手人な訳で、私としましては何かこう、仕返ししてやりたい気持ちでいっぱいな訳でありまして、無事で良かったとか言われましても「それ、マッチポンプですよね」という話なのですよ。
「ンルヴァ、スティアにも私の言う事をなんでも聞いてくれる契約魔法を掛けなさい」
「イエス、ユア、マイ、マスター」
「え? え?」
双方同意の上での契約では無かったせいか、契約主が破棄するまで50年間執行され続ける契約内容になりましたが、それでも長いなぁと思いました。エルフ族の魔法ってみんなこうなのかな?
前回と同じように右手の小指に赤いリング状の痣が現れて、前回のと合わせて二重線になっています。ちょっとダサいかも。
「じゃあスティア、全裸になってその場で3回まわってニャンと言いなさい」
「は? はい!!」
一瞬「何言ってるのこの子?」という表情をしましたが、魔法の強制力が働いたのか慌てて服を脱ぎ始めました。
「ニャン! ……は? え?」
スティアが全裸で3回まわってニャンと言い終わると、今し方、自分がした変態行為に唖然となって、だんだんと顔を赤く染め上げていき、ものすごく恥ずかしそうにその場にしゃがみ込んでしまいました。可愛いにゃあ。
「わた、私何してるの!?」
「ふむふむ、私のお願いならどんな変態行為でも出来るみたいですね」
「ええ、マスターが望むのなら死すら厭いません」
「あ、二人とも私のお願いでも絶対に死なないでね。これが最上位のお願いだから、うっかり私が死んでと言っても絶対に死んじゃダメだからね?」
「イエス、ユア、マイ、マスター」
「了解であります!」
前世で見た魔女と契約して強制命令の力を手に入れた天才軍師の話を思い出しましたが、力を手に入れたばかりの主人公と同じ気分を味わえて大変満足です。まぁ、その物語では話が進むにつれて力の暴走とか、悲惨な末路を辿っていってしまうので、私もそうならないようにしっかりと予防線を張っておきます。
「それと、嫌だな、やりたくないな、と思うお願いはやらなくて良いです。やっても構わないお願いだけ聞いてください。これは最上位から次ぐらいのお願いです」
「イエス、ユア、マイ、マスター」
「了解であります!」
まぁ、このぐらいで許してあげましょうか。あんまりやり過ぎても私の良心が痛むのでね。
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