調合、合成、錬金で異世界スローライフ

あるみひさく

死んだら幼女居た

 家に無人のタンクローリーが突っ込んで来たと思ったら大爆発して炎上した。

 俺は為す術もなく死んだみたいだ。

 その時は自分の部屋で眠っていたのでまるで覚えていないけど、そう言う事らしい。


 どうやら俺は死後の世界って所に居るみたいだ。

 自分の死に際を映像で見せられてしまったら納得するしかあるまい。

 にしても、小さな宇宙ゴミが人工衛星に衝突して位置情報がバグってAIが家を道路と勘違いして衝突なんてどんな確率だよ。


「それでは天国か地獄、もしくは転生をお選び下さい」


 空中に浮かぶタッチパネルに天国行き、地獄行き、転生行きと表示されているのでどれかを選ばないといけないみたいだ。

 行き先を自分で選べるのは良いが閻魔様や神様的な存在は居ないのか?

 先程から聞こえてくる声は音声ガイドみたいな声色で機械的だし、死後の世界でも働き方改革などがなされているのだろうか?

 とにかくどれかを選ばなければ、この何も無い空間にずっと居続ける事になってしまう。

 さて、どれを選ぼうか?


「天国か転生か、あるいは地獄ってのも見てみたい気もするが……ん?」


 よく見るとパネルの隅っこの方に小さく異世界転生行きと書かれているのを発見してしまった。


「異世界転生って何だよ」


 異世界転生ぐらいは知っているが、どういう物なのか知りたく音声ガイドに聞いてみるが無反応。

 異世界って事は勇者とか魔王が居たり、魔法とかスキルがあったり、獣人やエルフやドワーフが居たりする、あの異世界の事、だよな?

 それとも男女比逆転世界か貞操観念逆転世界とか?


 気になる。

 気になってしまう。

 一度気になってしまったらもう他の選択肢なんて有り得ない。


「異世界転生してみたいよな……男の子だもん」


 という事でポチッと、する前に更に何か隠されているものは無いかパネルを隅々まで隈無く探して、他に選択肢が無い事を確認してからいざ異世界転生!

 の、前にこの何も無い空間も探索してみた。


「狭いな、六畳ぐらいか」


 だだっ広いと思っていた空間は見えない壁で覆われており、それ以上は進めないようになっていた。


 隠し扉とか隠し操作パネルが無いかあちこち叩いて回ってみたが何も無さそうだ。


「あと調べていないのは……」


 死して尚ある自分の肉体ぐらいか。


 試しにほっぺをつねってみたが全く痛みを感じなかった。

 指をかじってみるも血は出ず、潰れた肉も直ぐに元に戻った。

 面白い。


 その後も自分の肉体を気が済むまで弄び、一人遊びなどにも励んだが特に立つような事も無かった。


「あと一週間ぐらいはここで遊んでいられる気がするわ」


 そんなくだらない事を呟いた瞬間ビー、ビー、と突然警告音が鳴り出し、世界が文字通りひっくり返った。


「ぐえっ!?」


 頭から落ちて悲鳴が漏れたが特に痛みは無い。


「たまに居るんじゃよねぇ、お前さんみたいな子」


 声のした方へ視線を向けると白い布を羽織った幼女が呆れ顔でこちらを見ていた。

 可愛い、お持ち帰りしたい。


「お巡りさーん! この人です!」


 おっと、変な目で見てしまった。

 言っておくが俺はロリコンでは無い。

 この幼女があまりにも神々しく、美し過ぎて、ついそう思ってしまっただけである。


「もしかして神様的なお方で?」

「そうじゃよ。そしてお前さんは余計な仕事を増やしてくれたゴミクズ引きニートじゃ」


 辛辣な神様だ。

 可愛い声で罵倒されるのも悪くない。


「キモッ。さっさと転生してくれんかね? 異世界転生したいんじゃなかったのかの?」

「思考が読めるタイプの神様でしたか。いえ、異世界転生はしてみたいのですがどういう異世界なのか分からず二の足を踏んでいました。申し訳ない」

「なんじゃ、引きニートのくせにしっかりと話せるではないか?」

「引きニートなので敬語でしか他者と会話出来ないだけです。所謂コミュ障というものでございます」


 何だか憐れむような目で見られている気がするが、きっと気のせいだろう。


「……どれ、頭を撫でてやろう。近う寄れ」


 幼女神に言われるままに近付くと、俺の頭を撫で易いように空中に浮かび上がり優しくナデナデしてくれました。

 気のせいじゃ無かったか。辛い。


「間が悪かった。運も無かった。意味を与えられぬ生を与えてしまった、すまぬな我が子よ」

「これがバブみか……」


 感情が溢れて大号泣である。自分でも訳が分からずうわんうわん泣き出してしまったよ。ぐすん。


「泣け泣け。お前さんの魂は淀み過ぎじゃ、ここで全部洗い流そう」


 幼女神の柔らかな胸に抱き付きながら泣きじゃくってしまった三十歳童貞引きニート。

 自分が泣き終わる頃には足元に水溜りが出来るほどであった。


「うむ、全部出し切れたようじゃな。それではもう一度問おう。天国か地獄、あるいは転生。そして異世界転生。お前さんはどれを選ぶ?」


 そんなの決まっている。


「俺の母親になってください!」

「元よりこの世の生命、全てが我が子である。というかいい加減離れんか、キモい」

「ヒドイ! あんなに優しくしてくれたのに!」

「ふむ、異世界転生じゃな。それでは良き人生を送れるように祈ってやろう」


 急にめんどくさくなった様な顔を幼女神に向けられてしまった。

 というか異世界転生決定なんですね。


「あ、う……?」


 急に意識が……。

 せめてチートスキルとか魔法をください……。


「それは転生してからのお楽しみじゃ、では達者での」

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