第25話 仲間



 出立の日。あいにく夜明け前の空はどんよりと曇ってすっきりしない模様。雨が降っていないだけマシだが旅をするには向かない天気だ。

 世話になった主人に礼を言って宿を出た。主人にとっても金払いの良い客が居なくなるのは寂しいものらしい。三日分の保存食は少し良いものを用意してくれた。

 街の中は既に職人や露天商が仕事の準備を始めている。彼等を尻目に四人は早々と街の外に来た。

 西へ一時間程度歩いて朝食の休憩をとってから、いよいよ本格的に次の場所を目指す。

 ヤトとカイルが周囲を観測して人目が無いのを確認してからクシナが服を脱いで全裸になる。ヤトが朝に選んでくれたバレッタも外してロスタに渡した。

 クシナは一瞬のうちに元の白銀の鱗を持つ巨大な片腕の竜へと姿を変える。この光景にはゴーレムのロスタも目を見開いて驚くしぐさをした。


「カイル様のお話を疑う気は微塵も無かったのですが、いざ目の前で事実を突き付けられると驚きを禁じえません」


 自律ゴーレムはマスターの言葉を疑わないと言われている。例えどんな下手な嘘だろうと主から発せられる言葉は全て肯定するのがゴーレムである。しかし彼女は疑っていないと言いつつも驚いたと言った。これはロスタに人の言葉の中に嘘が潜んでいないか判断する能力が備わっている証拠だった。

 やはり彼女は特別製のゴーレムなのだとカイルは確信する。だからと言って売ったり見せびらかすような真似をする気はサッパリ無いのでそれだけだが。

 ロスタは既に仲間だ。盗賊ギルド員は人から物や金を盗んでも仲間を売ったりはしない。それも裏切る事の無い仲間なら尚更だ。

 クシナの背に乗るのはヤトが最初、次にカイルだ。彼女は後にヤトが乗るのを嫌がる。カイルはそれを繊細な女心と思っていた。そして今は最後にロスタが背に乗った。

 全員が乗ったのを確認したクシナはふわりと空に舞い上がる。竜の翼はどんな鳥よりも強靭で空高く飛べた。

 遥かな空の上でカイルはこれからの事を話す。


「エルフの村ってどんな場所だろうね」


「あなたのように弓に秀でて強い人達ばかりのいる所でしょう」


「いや、そこはのどかな場所とか、常春で冬でもあったかい場所とかそういうのを想像しない?」


「???場所がどこでも同じじゃないですか。違うのは人となりだけですよ」


 カイルは相変わらず致命的にズレてる野郎だと内心悪態を吐く。しかしそんな変な奴でも強さは超一流だし、金を稼ぐ能力も恐ろしく高い。おまけに散財しないから安心して財布を預けていられるので仲間として申し分無い。


「それはさておき、もしあなたのご両親がその村に居たら旅はそこで終わりですか?」


「あーどうだろう?しばらく村に留まるのは確かだけど、ずっとそこで暮らすのはまだ遠慮したいかな。まだまだ世の中を見聞きしたいし、母さんにも報告したい」


「アポロンに行ってモニカさんにも会わないといけませんね。朝早く手紙を郵便屋に出してましたし」


 カイルはその言葉に脂汗が出る。ばれないようにこっそり出発前に宿を出たのに見られていたのか。

 手紙は城にいるままではモニカも退屈だろうと思って、アポロンの王都を発ってから遺跡探索までに起きた出来事を綴った物だ。その手紙を遺跡で見つけたミスリルの小箱に入れて郵便屋に届けてもらうように頼んだのだ。


「別に恥ずかしがることは無いと思いますよ。僕だって自分に素直に生きているからクシナさんを奥さんにしたんですから」


 ヤトの言葉で激しく揺れた。多分話を聞いたクシナが嬉しくて身体が動いたのだろう。


「まあなんにせよ、明日には実際に身内かもしれないエルフに会えるんですから楽しみにしていましょう」


 その言葉にカイルは、やっぱりこいつ《ヤト》は変だけど良い奴だと思った。ただし、戦が絡まない時だけだ。




 第二章 了


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