第24話 義理堅き者
ヘスティによる突然の侵攻はアポロニアの王城を震撼させた。
ある者は万を超える軍勢が今すぐにでも王都を陥落させようと進軍していると思い込んで慌てふためく。またある者はただの誤報と思って気にしない。別の者は竜騎兵が空を飛んで襲い掛かってくると思い、荷物を纏めようとしていた。
誰もが真実を求めつつも、誰も真実にたどり着けない。
混沌とした城はその実、一日程度で落ち着きを取り戻した。
翌日には伝書ハトによって続報が次々寄せられて、詳細が情報が手に入ったからだ。
ヘスティの一軍がアポロン国内に侵攻したのは間違いない。攻め入った場所は国内東端、ヘスティとの国境にあるワイアルド湖と呼ばれる小さな湖のある土地だ。そこに建てられた砦に一千程度のヘスティ兵が駐留しているらしい。
僅か千の兵と聞いて場内は安堵の空気が流れる一方で、多少でも軍事に明るい者は、これが只の先触れの軍でしかないと予測していた。
そして、たとえ千だろうが隣国の兵が許可も無しに自国に踏み入った事実は変わらない。よって、こちらも早急に兵を動かして敵を排除せねば王の、国の面子が立たない。
問題は今すぐ動かせる兵が城の騎士団や守備兵ぐらいしか居ない事だ。サラを捕らえたダイアラスや奴隷市を開いたゲースの事もあり、王の近辺や都を空には出来ない。
既に国中の諸侯に動員をかけているが、彼等が兵を率いて駆け付けるには、まだ幾ばくかの時間を要する。
騎士と従者、それに傭兵をかき集めて何とか三百。それでどうにかするしかなかった。
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王都の外では急いで兵を整えて行軍の準備を済ませた先遣隊三百五十名の指揮官として選ばれた騎士団指南役のモードレッド。彼は鬱々とした内心を悟られないように、即席の軍の前で兵を鼓舞した。
その行為がどれほど役に立ったかは分からないが、ともかく先遣隊は無事に出立した。
隊は着々と東へ進む。通常傭兵の行軍は徒歩だが、今回は速さと疲労を考慮して全員が馬車移動だった。
馬車の一つの中ではヤトとカイル、他に何名かの亜人傭兵と思わしき連中が乗り込んでいた。
その中の戦斧を持ったドワーフが唐突にヤトに話しかけた。
「アンタには世話になった。礼を言わせてくれ」
「僕が何かしましたか?」
「儂は奴隷市に商品として出されておった。それをアンタは助けた」
そこまで言われてようやくヤトは理解した。ドワーフに見覚えは無いが、彼からすれば虜囚として屈辱を受けていたのを自分に助けられた形になる。
ゾルと名乗ったドワーフ以外にも、同じ馬車に乗っていた女エルフの弓兵ヤーンや隻眼の人狼ゼクシがこぞってヤトに感謝を述べた。彼等もヤトや盗賊ギルドに助けられた面々だった。
実は今回の先遣隊に参加した傭兵の中には、奴隷として囚われていた者が三十名程いる。他にも二十名程盗賊ギルドから参加していた。集まった兵の数が予想より多いのにはそうした理由があった。
「私はこの国の貴族が許せないけど、助けてくれた貴方や盗賊ギルドの人達に少しでも恩返しがしたかったの」
「俺も今度はアンタ達と肩を並べて一緒に戦いたい。よろしく頼む」
「分かりました。共にヘスティと戦いましょう」
正直ヤトは誰と共に戦おうがさして興味は無いが、わざわざそんな事を言って相手の不興を買ったり興を削いだ所で面倒が増えるだけなので、自分の邪魔をしない分には程々に好意的に接した。
彼等はヤトの内心を知る由を知る術が無いので、言葉通りに受け取り大きく士気を上げた。
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