特別な肉の日の奇怪な出来事

明石竜 

第1話


四年に一度のうるう年2月29日。特別な肉の日を記念して、

シビエ料理フルコースが通常価格の29%オフ、二千二十九円で食べられる

キャンペーンをやってるってことで、大学のサークル仲間達数人で丹波篠山に佇む、

とある料亭へやって来た。

 藁ぶき屋根で、昔ながらの日本家屋って感じの外観である。

 店内は老若男女たくさんのお客さん達で賑わっていた。

 内装も囲炉裏などがあり江戸時代からありそうな感じの雰囲気ではあるが、

フリーWi-Fi完備。PayPay、LINEPay、クレカとかのキャッシュレス決済も可

という最先端の設備が充実している。

 食べログで5点満点中4.76点の高評価なだけはあるのだ。

 キャンペーン対象のメニューを注文すると、ぼたん鍋やシカ肉のステーキ、

雉肉入りの蕎麦なんかが付いて来た。

「今夜は貴重な、きつね肉もご用意してありますよ」

 店員さんは笑顔でおっしゃる。

「マジで!!」

「きつねの肉も食えるんっすか?」

「はい。特独の臭みも抜いて、とっても美味しくこしらえていますよ。

こちらでございます」

 大きめのお皿に、醤油で味付けされたかに思われる、きつね肉の切り身がどっさり。

 彼らはスマホで写真撮影して、メニューにはなかったきつね肉が出た、とかと書いて

 自慢げにSNSに投稿する。

 そして、恐る恐る食してみる。

「きつね肉、けっこう美味いじゃん」

「せやな。ネットには不味いって書いてあるけど」

「これをうどんに入れたらリアルきつねうどんになるな」

 食べてみての感想もSNSに自慢げに投稿した。

「そういや、昔『ごんぎつね』の話があったよな。小学四年の時に一度だけ

読んだことあるわ~。確か爺さんが狐にウナギ盗られて困ってて、最後に

火縄銃でゴンぶっ殺すんだよな」

「小四の時、学習発表会の劇でもやったわ~。懐かしい」

「なんとなく覚えとる。ゴン、おまえだったのかって台詞で終わるやつやろ。

あの爺さんあのあと絶対ゴンの肉喰ってるやろ」

「ああ。こんな美味いし」

 楽しい会話を弾ませながら食事会を済ませ、

「PayPayで」

 仲間の一人が代表して今流行りのキャッシュレス決済で支払いを済ませ、


「ごちそうさまでしたーっ!」

「めっちゃ美味しかった♪ また来るわ~。キャンペーンやってない時でも」

「喜んでいただけて光栄です。またのご利用、お待ちしております」

 ご満悦で意気揚々と店をあとにする。

 駐車場に向かっていく途中、

「あっ! スマホ置き忘れた来た。ちょっと取って来るわ~」

 仲間の一人がそのことに気付いて店に戻ろうとしたら、

 「あれ? あの料理屋消えてるやん」

 奇怪な現象が--あの建物が跡形もなく、葉っぱの山で埋め尽くされていたのだ。

「ひょっとして俺ら、きつねに化かされてた?」

「あの店は、幻だったのか……」

「あり得へん……マジあり得へん」

「うわっ! さっきまであったあの店のHPも無くなっとるやん!」


 彼らにとって、四年に一度どころか一生に一度だけだろう超レアな体験となったことだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

特別な肉の日の奇怪な出来事 明石竜  @Akashiryu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ