またはりぬ・ちんだら・かぬしゃまよ

五十川マワル

1.或る日の哲学

 いつの時代の言い回しなのかは知ったことでは無いが、「臭いものに蓋をする」という言葉のどこに非があるのか分からなかった。

一刻も早く無かったことにしたい類の記憶には蓋をして、新たな記憶を上書きした方が、それだけ頭の容量を無駄に割かなくても済む。

人はその気になればいつだって自己をリセットし、生まれ変わることが出来る。少なくとも自分にはその権利があると信じている。


 川を隔ててこちら側からあの掃き溜めのようにきらめく繁華街を眺めていれば、その思いは日ごとに増していくように感じていた。

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