Once every four years

晞栂

閏日

「今日、閏日らしいよ〜」

目の前に座っている少女、奈緒がストローを噛みながら思い出したかのように言った。

「そういえば、今年は閏年だったね。でも、うちらに関係なくない?」

今年は確かに四年に一度、調整のために二月が一日多くなる。それに合わせて世間ではいろんな記念日があったり、催し物をしたりするが、はっきり言ってそんなのあってもいつもと変わらない。ただ、一年が一日多くて、何もすることの無い日が増えただけなのだ。

しかも、現在学期末テストの期間中。遊ぶわけにも行かず、こうして友人とファミレスに集まって(といっても二人だけ)ぐだぐだとしていたのだ。


「あ〜、今日はもう終わりにしない?どうせテストなくなっちゃったんだし」

とうとう、奈緒はテーブルに倒れ込むようにして、うつ伏せになった。

「言わないでよ。せっかくやってた勉強が水の泡になった現実をみたくなかったのに」

私もペンを持つ気力すらなくし、氷が溶け、味の薄くなったジュースをストローだけくわえて飲んだ。

「まじで、こんな時に限ってウイルスのせいで学校なくなったのがムカつく。テストできなきゃ成績が危ういのに」

誰に言うでもなく、とりあえず、愚痴をこぼす。

それに釣られてか、奈緒はゆっくりと顔を上げながら言った。

「いや、それなら私のほうがやばいよ。休みまくってたせいで今学期は一回も休まないぞ!って気合い入れてたのに、出席足りなくなっちゃうよ〜。進級すら怪しいんだけど」


二人揃ってため息をつく。いつもなら喜べるはずの休日がまるでお通夜のようだ。


「気分転換に遊びに行こっか」


「学校が休みになるの来週からだしね」


なんにも考えないでとりあえず、いつもなら頼まないデザートを頼むことにした。

「期間限定だって」

奈緒がメニューを指差しながら言った。

ラズベリーのチーズケーキのようだ。写真がとても美味しそうで、少し高めだがいいかもしれない。


「今日は閏日だし」


「四年に一度しか無いしね」


言い訳みたいなことを言って、もうちょっと調子に乗ってみる。

「じゃあ、もう一個頼む。」

わたしはティラミスの写真を指差しながら奈緒に決めたか確認する。


「私もおんなじの頼む」


「二つも?」


「二つも」


それからは店員さんに注文して、運ばれてきたデザートを見て、やっぱ頼みすぎたかもなんて思って。

でも、食べたらチーズのほんのりとした甘さとベリーの甘酸っぱさが美味しくて。

奈緒は写真を取ってからちょっとずつ食べてた。

「たまにはいいかもね」

味の確認なんてしなかった。言わなくても、いつもより美味しく感じているのはわかったから。


ティラミスはほろ苦くて、大人の味がした。それでも甘くてふわっとした食感が口の中でとろけていった。初めて食べるだけあった、ココアパウダーの多い場所では二人してむせてしまって、互いに笑った。


「このあとどこ行こっか」


「どこでもいいんじゃない」


「なにもなくても?」


「知らない場所か、いいね」


てきとうな話をしながら、制服のまま目的もなくぶらぶら歩く。

たまに道を行ったり来たりして、ちょっと恥ずかしくなったり、話題がふと消えて無言になったりもした。いつもなら買い物だなんだとお店の中しか見ないが、散歩もいいかもしれない。疲れるけど、健康にいいし、のんびりしているのに時間を無駄にしていない気がする。最近めったに来なくなった公園を見つけた。

疲れたし、人いないし、なんていって久しぶりにブランコに座った。

勢い良く漕ぐなんてしないけど、休憩だけじゃもったいなくて、少し地面を蹴って揺れる。


「寒くなってきたね」

奈緒が暗くなって来た空を見上げた。

「昼は暖かかったけど、コートは必要だったかもね」

わたしもつられて見上げた。電灯がすこし目に痛くて、星の見えない空を見た。


「いつもとおんなじように過ごしたみたいだけど、なんか違うかも」

奈緒がそんなこと言うから私もいつもと比べてみる。

「そりゃ、こんなに歩かないし、公園に行かないし、デザートを二つも頼んだりしないじゃん」

「そだね。やってることは普通だけどね」


ほんと、いつもと変わらない。

どっか映画とか遊園地に行くでもない。

珍しいことをしたわけでもない。

いつもの日々が過ぎていくだけのはずが、特別な日に感じてくる。

きっと昨日とは違う。たぶん四年前の今日よりも特別だった。


「四年後の今日は何してると思う?」

そう言ったら、奈緒が笑って、

「それよりも明日とか今後の勉強会について決めよう。どうせ、四年後の閏日もいつもと違う日常を過ごしてるよ」


「そうだね。とりあえず、週二回にしとく?」


いつもと違うのは当たり前だ。

だって四年に一度しか無いんだから、なにもなくても閏日ってだけで私たちは楽しむんだろう。



今日は特別な日だから帰り道はいつも使う方じゃなくて遠回りもいいかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Once every four years 晞栂 @8901sakuya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ