卒業を迎える私たちへ

mio

卒業式

「諸君、卒業おめでとう!

中年学校を卒業する君たちは、高年学校へと進学する。

また1から作り上げていく信頼に緊張をする子もいるかもしれないが、強く生きてくれ。

国も君たちに期待している」


冷え切った体育館に響くのはハキハキとした校長先生の声。後ろでは後輩達の泣き声がしている。今日は私たち中年学校4年生の卒業の日なのだ。


長く感じる校長先生の話が終わると、耳に埋め込まれているICチップに機械が当てられてピッと音がする。ああ、これで私のICチップには取り消し不可能な情報が書きたされてしまった。ぐれにぐれた中年学校の成績が。やさぐれた私とは裏腹にピッと音がする度に後ろから拍手の音が聞こえてきていた。


これが終われば卒業式が終わりだ。50人ほどしかいないから、こんなのすぐに終わる。もともとは100人ほどいたはずなのに、ね。



「あーー、ようやく終わった!

ねえ、夏南はどこの学校だっけ?」


「終わったねぇ。

私はA-4高年学校だよぉ」


「やっぱり夏南はすごいね!

私なんてH-2だわ!」


ふふふ、と上品に笑う夏南。彼女と出会えたことがこの学校生活最大の幸運だよね。おっとりとした性格は話し方にも行動にも現れていて、一緒にいて和むのだ。小年学校はもちろんのこと、幼稚舎でも被らなかったのにまるでずっと前から一緒にいたみたいな安らぎがある。


「それにしても、4年なんてあっという間だよねぇ」


「そうだね。

あああ、それにしてももう夏南と会えないなんて……」


「しょうがないよぉ。

4年ごとに進学して、今までの同級生とはもう同じ学校には行かない、幼稚舎で教えこまれたものねぇ。

それに高年学校の成績が最終的な進路を決めるともぉ」


幼稚舎。もう思い出したくもないや。たくさんの子供が集められて、耳に一生国に管理されるためのICチップを埋められて、国のために働くことを教えこまれた場所。小年学校、中年学校、高年学校と成績ごとに振り分けされていって、いかに国に役立つかを判断されていくのは正直気持ち悪い。


これから行くH-2高年学校は決していい学校ではない。A-3であったこの中年学校よりも格段にレベルが下がるよね。これが決まった時の先生方の顔と言ったら! 睥睨するような目、絶対先生がするやつじゃない。


「ねぇ、朝比、私たち卒業しても友達だよねぇ?」


「もちろんだよ!

たとえもう会えなくても……」


じゃあ、と夏南はおもむろに髪をひと房ナイフで切り取る。それを見て私も同じように髪をひと房切り取った。

自由のない、繋がりを保持できない私たちに唯一許された絆。それがこのひと房の髪。お互いに交換したそれを大切にペンダントにいれる。


夏南の遺伝子が含まれたこの髪は、最期の時に1人だけ会いたい人に会えるという制度のために必要なもの。これがなければ再会もままならないなんて……。


「これできっとまた会えるね」


「うん……。

ねぇ、朝比。

大人になるってどういう感じなのかなぁ」


大人。私達は大人といえば先生しかしらない。先生にならない大人は、何なるんだろう。

……、私達は一体どう生まれてきたんだろう。


そんな不安から荒れましたとも、ええ。まともに授業受けなくてもいいのでは? と思ったり、色んな先生を観察したり。まあ、それでも成績落ちなかったのはさすがと言うべきだと思うけれど。幼稚舎の先生いわく、私の遺伝子は特別らしいのだ。


「わからないや……」


「あのねぇ、私中年学校に進学することが、大人に近ずかことが、本当に怖かったのぉ。

でも、ここで朝比と出会ってぇ、恐れる必要はないかなっておもえたのぉ」


にこり、夏南は綺麗に笑う。無理にではない自然な笑みに、つい見惚れてしまった。美少女の笑みってそれだけで価値あるよね。


「 本当にありがとう。

朝比は自由に生きてねぇ。

朝比は、私たちの希望だよぉ」


ぽつりと呟かれた声にはっとする。いつの間にかクラス中の人が私の事を見ていた。何かを訴えるように。


ああ、ここにいる人はまだあやつり人形なんかじゃない。まだ、自分の意志をもっている仲間だ。


「うん、自由に生きてみせるよ。

絶対にまた会おう、みんな!!」


不可能を可能にしてみせる。まずは私たちを隙なく管理するこのICチップをどうにかする方法を探して見せよう、そう決意して私達はA-3中年学校を卒業した。

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