第7章 第16話

翌日は夕方の集合を決め、一度解散する。

俺も一度ログアウトし用事を済ませると、ゲーム内で寝るために再びログイン。

ViertenSpielerとして宿に出現すると、ErsterSpielerがまだ部屋に残っていた。


「やぁ、おかえり。」

『あれ?エアスタさん、まだ宿にいたんですね。』

「戻ってきた君と話したくてね。迷惑だったかな?」

『いや迷惑だなんて、全然そんなことないですよ。どうせ寝るだけですし。

 修学旅行を思い出した気分で夜更かしするのも悪くないですよ。』

「やったね、ありがとう。」



「こんな夜も遅い時間に、寝るためだけにダンスにログインしてるのなんて、君とあたしくらいだろうね。」

『そうでしょうね。ゲームに縛られずに休めるなら、その方がよっぽど良いですよ。』

「そういう意味では、この感覚を共有できるのはこの世で君だけなんだな。

 もっともダンスの存在意義は大きく違ってるとは思うけどね。」


『俺にとっては、これまでの日常を断ち切った存在。

 でもエアスタさんにとっては、日常と繋いでくれる存在ですよね。』

「繋いでくれるというより、日常を与えてくれた存在、日常そのものかな。

 ダンスが無ければ、あたしは何のために生きてるのかすら分からなかったよ。」


「でもそのせいで、あたしにとってのリアルは、切り離すべきものだったんだよ。

 ただ生きてるだけで周りの人に迷惑をかけてしまう。

 劣等感、疎外感、罪悪感、虚無感。そんな感情の集まる環境だったんだ。

 それは今でも消えることは無い。

 それでも今は、医療の進歩のためあたしから集まるデータが役に立つのだと、

 そう言ってもらえるおかげで、少し和らいでいる。」


ErsterSpielerの独白は続く。

「そうやってかろうじて折り合いが付けられたリアルと

 こうして皆と同じように過ごすことのできるこの世界。

 どうしても比べちゃうし、皆のリアルやゲーム世界とも比べてしまう。

 みんながあたしのリアルを知って、離れていってしまうかもしれないのが怖かった。

 だから切り離した。やっと見つけた居心地のいい場所を失いたくなかった。」


「そこに君が現れた。

 最初は、本当に対戦がしたかっただけなんだよ。

 でも、この世界で初めてあたしのリアルを知った存在になり、

 それでも変わらずに接してくれる。

 さらに、同じように接してくれる知り合いをたくさん作ってくれた。」

『俺やセレやリッピー、ニード。それに他のプレイヤーにしたって、

 エアスタさんのリアルを知って力になりたいとは思っても、

 離れていくことなんて無いと思いますよ。』


「そんな事は無いよ。あたしも散々色んなプレイヤーを見てきてるからね。

 やっぱりリアルと切り離された環境だと、人の悪意が剥き出しになる場面は多い。

 うかつに自分のリアルをさらけ出した事で、その悪意を浴びて

 この世界を離れていったプレイヤーだって山ほどいるんだ。」

『そうなんですか…』

俺がダンスに捕らわれてからも、他のプレイヤーと接する時間は短かった。

俺が見てきていない面は多いのだろう。

ErsterSpielerの諦めたような表情が物語っている。


「それで、君には感謝してもしきれないんだけどさ。」

顔を上げ俺を見つめながら、思いつめたような顔で話しかけるErsterSpieler。


「あの…あたしが一番大事だと思っているのは正美さんなんだ。」

『ええ、もちろん知ってます。』

「君の一番大事な存在はSeregranceさんだろ?」

『ええ、それも合ってます。』


ErsterSpielerの目が急に泳ぎだす。

「その…リアルでの事は一切考えてもらわなくていいんだけどさ…」

声まで小さくなった。


『エアスタさん?』

「お互い2番目同士でいいから、あたしとダンスで結婚してくれないかっ!」



『えっ…はっ?』

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