第5章 第4話

『さて、これで気は済んだかな?』



あれから2日。

時間を調整し、19時に宿屋の入口にログインすると、

HoneySwordと物騒な仲間たちが勢ぞろいしていた。


「なんでまだインしてんだ。」

「運営は何やってるんだ。」

取り巻きがざわつきだす。


「マスター、俺もう一度通報してきます!」

HoneySwordのすぐ隣にいた男がそう言ってメニューを操作しようとすると

「…いや、無駄でしょう。やめておきましょう。」

HoneySwordが苦々しい顔で、口を開いた。


「運営から回答がありました。ViertenSpielerに不正は無いと。」


『わざわざ俺のところまで連絡が来たよ。

 同様の問い合わせが多いから、過去に遡り精査を行ったが、

 不正は無いことを確認しているとさ。

 ただ、無駄に煽るような言動を謹んでくれ、ともあったけどな。』


「だから言ったでしょう!」

プンプンという表現がピタリ当てはまる様子でSeregranceが一歩前に出る。

「彼は不正なんてやってません!そもそも」


ポンッ


話し始めたSeregranceの肩に手を置き、首を振る。

『なぁ。あんたが気に喰わないのは、俺のチートみたいな強さか?

 それともエアスタさんと似た、この名前か?』


「・・・」

無言のHoneySword。しかたなく話を続ける。


『ひとまず、チート疑惑については晴れたと思う。

 理屈が分からなきゃ疑われるのもしょうがないとは思うけど、

 俺は間違いなく真っ当なゲームのルール内でプレイしているよ。』


そしてこの先を話すかどうか若干悩んだ結果、一拍置いて続ける。

『それと。これは言ってもしょうがないとは思うけど、

 俺のこの名前は自分で付けてるわけじゃないんだ。

 おっと、別に誰かのアカウントを譲渡されたという訳でもないよ。

 チュートリアルから全部自分で始めてるのは間違いないんだが、

 ちょっとした事情で、名前が決められた状態から

 無理やりプレイを始めさせられた感じかな。』


HoneySwordの睨みつけるような視線に、若干困惑の色が混じる。

何も事情を知らずに聞けば、何言ってるんだコイツ、と思うだろう。


『だから、実は俺もエアスタさんの事は気になっていたんだ。

 単純に名前が似ている程度の理由ではあるんだけどね。

 ただ、名前が決められた状態から始めている以上、全くと言って良い程手がかりがない。

 そんな中で彼は、俺がダンスを始めざるを得なかった状況を理解してもらえる、

 数少ない人物の可能性がある。

 そして、そこから繋がる、俺が今抱えている問題解決の

 ヒントを与えてくれる人物かもしれない。

 手がかりが無くて失意のどん底な中の、か細い蜘蛛の糸みたいなもんなんだよ。』


『だから、今の俺の目的は彼と会って話がしたいという事だけなんだ。

 別に戦ってみたいだとか、中傷したいだとかいう気は全くないし、

 彼と話して問題が解決するならば、ダンスからも引退ができる。』


『とは言え、だから信用して放置してくれと言っても納得できない部分もあるだろう。

 だから別に監視し続けたってかまわない。

 もしまだチートだと思うのであれば、また通報したってかまわない。

 ただ、俺が先に進むことの妨害に力を注ぐことをやめてもらいたいんだ。

 最新エリアに辿り着いてエアスタさんと会う時には、

 そっちのメンバー100人でも200人でも取り囲んでくれて構わないし、

 なんならそっちが場を準備してくれるのなら、

 そこで話せば不意打ちでの対人戦も防げるだろう。』


相変わらず無言のHoneySword。

こちらとしては、ある程度正直に話しをした。

これでも全力で妨害されるようであれば、この先は屍の道を歩くしかない。

何十回でも何百回でも切って殴って突いて射って、

文字通り彼らの屍を並べながら先に進むことになる。


「…あなたの言いたい事は分かりました。

 だが、ひとつ。どうしても訂正してもらわなければいけない事がある。」

やっと口を開いたHoneySword。

睨みつけるような視線は相変わらずだ。


「エアスタ様は女性です!彼では無く彼女です!訂正なさい!」


『えっ…あっ…すいませんでした。訂正します。』

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