第2章 第1話
- 第2章 -
転機が訪れたのは、900敗を超えた頃だった。
日常的な脳波のモニタリングのおかげで
ある特定の信号を受信することによって、強制ログイン状態になっていることが分かった。
その信号をモニタリング用のヘッドギアから発信できるようにしたことで、
ゲームにログインするタイミングを自分で決められるようになった。
おかげで、いつ訪れるか分からない強制ログインではなく、
準備を済ませてゲームにログインする、というリズムが作れるようになった。
そうすると、生活のレベルが劇的に改善する。
朝6時にログアウトし、7時までに準備を終わらせ、7時にログインする。
12時までログインしておき、12時~13時の1時間をログアウトする。
13時~17時までログインし、17時~18時をログアウトする。
18時~21時までログインし、21時~22時までログアウトする。
22時にログインしたら、後はそのままゲーム内で寝てしまい、
翌朝6時にまたログアウトする。
状況によって、強制ログインされるまでログアウトしていることもあるが、
基本的な生活のペースを作ることができた。
なんと、仕事も少しだけ復帰している。
これも決まった時間にログアウトできるようになったおかげだ。
さらにもともと結婚したら退職予定だった小夜香が退職を早め、
Dance with The Weapon を始めたのだ。
緊急の連絡があった場合、わざわざログイン中の自分に伝えに来てくれる。
ログアウトできるタイミングであればログアウトするし、
できないタイミングは伝言を預かってくれる。
おかげでまともな仕事っぷりとは言えないながらも、
かろうじて業界動向についていくためのリハビリが出来ている。
「スピさーん。今日も元気にボランティアしてるーぅ?」
『リッピーさん、久しぶり。コツコツ積み上げて0勝912敗だよ』
「おぉ、すげぇ。
そんだけ敗けてる人、未だかつて見たことないよ!
愚者の王ならぬ敗者の王って感じ?」
『ミヒャエル・エンデだっけ。
[はてしない物語]の続編だったよね。
意外と文学少年なのか。』
「ふっふっふー。
ちなみにミヒャエル・エンデじゃありませーん!
[はてしない物語]の続編てのは合ってるけどね。
ターニャ・キンケルによる執筆なのですー。」
『おう、知ったかぶりだった。こりゃ失敬。』
定期的にドリッピーはメッセージをくれる。
一時期は全く返事もしなかったというのに、変わらず接してくれるありがたい存在だ。
初心者エリアでひたすら負け続けてるのも、プレイスタイルの一つとして見ているようで、
特に否定的なこともないので、こっちも気楽に話ができる。
「そうそう。ボク、やっと最新のエリアに追いついたんだけどさ。
スピさん、ゲーム廃人の友達がダンスやってたりしない?」
『ゲーム廃人どころか、ただの友達すらやってないよ。
知り合いと言えば、この間紹介した彼女のSeregranceだけだよ。』
「そっかー。スピさんとそっくりな名前の人が、
最新エリアの1位だったもんだから、
てっきりゲーム仲間でもいるのかと思ってさ。」
『そっくり?どんな名前?』
「ErsterSpielerさんだよ。」
『確かに似てるね…でも残念だけど知り合いとかでは無いよ。』
「そっかー!残念!
知り合いだったらツテで色々教えてもらおうと思ったのにー!
ボクだけに!」
『相変わらずブレないな!』
「あはは。まーいーや!
それじゃスピさん、先に進む気になったら教えてね!
その時は一緒にあそぼー!」
『おっけー、その気になったら伝えるよ。』
…ErsterSpieler。自分のプレーヤーネームの意味とか考えたこと無かったな。
英語じゃないっぽいが、何かの単語の組み合わせなんだろう。調べてみるか。
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