第1章 第8話

一度会話できれば、その後話しかけるためのハードルは下がる。

熟練度を上げながら色々と仕組みやテクニックを教えてもらう。

と、同時に分かった事が。


やはり、ここはゲームの中で間違いないようだ。

彼はどうやらキャラクターを作り直しているらしく、

ゲーム自体はかれこれ1年以上プレイしてるということだ。

「ボクが作り直してる理由は、

 キミもダンスを続けてればそのうち分かるよ。

 このゲームにハマると、みんなが通る道だからねぇ。」

と苦笑交じりに話す。

「ド派手な魔法もないし、不親切な部分も多いんだけど、

 なんかハマっちゃうんだよね。」

『確かに、不親切というか、スパルタな部分は感じますね。』

「スパルタかー。

 確かにそうだねー。ヘルプに書かれてない隠し要素も多くて、

 自分で探して使ってみろって考えなんだろうね。」


『このエリアにしたって、ある程度進まないと

 ログアウトすらさせてくれないなんて

 スパルタそのものじゃないですか。』

「え?ログアウト?ログアウトはどこでもできるはずだけど?」

そう言って左手が動き

「うん。

 ボクは今でもログアウトできるし、どこでもできると思うよ。

 お腹すいたり、トイレ行きたくなっちゃったりしても、

 ログアウトできないと大変じゃない。」


『あれ…』

メニューを開き確認する。やはり[ログアウト]は半透明のままだ。

『やはり半透明になってて選べないですよ。』

「あれー?おかしいなぁ。一番最初ってそうなんだっけ…

 でもこのモジュールもまだ始めたばかりだから新品同様だし…

 道場はセーフティーゾーンになってるから、

 ログアウト制限も無いしなぁ。」

『セーフティーゾーンっていうのは?』

「街中や対人非推奨地域のことだねー。

 セーフティーゾーン以外だと、

 攻撃を受けた時なんかに[ログアウト]が半透明化して、

しばらくログアウトできなくなる制限がかかるんだよ。

 でもセーフティーゾーンなら、

 攻撃されてもすぐログアウトして逃げられるって訳。」

『ああ、なるほど。』


「それはそうと、ログアウトできないって困ったね。

 ボクが問い合わせしておこうか。

 とりあえずキャラカ交換しといて…

 ああ、キャラカってのはキャラクターカードね。

 交換すると友だちとして登録されて、

 相手のオンライン状態が分かったり、

 離れたところでも会話が出来たりするんだよ。

 もしログアウト出来るようになったなら、

 別にボクを待たずに落ちちゃっていいからさ。

 丁度休憩してご飯食べようと思ってたし、

 ついでにサポートに連絡してみるよ。」


『わざわざすみません。僕も色々触ってみますが、

 頼れる人も居ないんでお願いしてもいいですか。

 自分の都合優先してもらって、ついでで良いですので。

 こっちもログアウトできるようになったら、

 すぐにログアウトすると思います。』

「オッケー。じゃぁとりあえずキャラカ交換しちゃおー。

 たぶんフレンズメニューのチュートリアルが始まるから、

 ゆっくり説明聞いていいよー。

 ボクは熟練度上げとくから。」


シュワンッ


[ドリッピーさんからカードが届きました。]


メッセージの表示と共に、いつもの声が聞こえてきた。

「早速友達ができましたね。おめでとうございます。

 今受け取ったのはキャラクターカード。

 あなたのカードと交換することで

 フレンドリストに登録できます。」

なるほど、名刺みたいなもんだな。


「フレンドリストに登録された友だちとだけが使える

 特別な機能がありますよ。

 その場にいなくても会話ができるようになります。

 友だちがログインしているかどうかわかるようになります。

 固有スキルのランクや名称を公開できるようになります。

 特殊なアイテムを交換できるようになります。

 その他にも出来る事がありますので、

 ぜひ友だちと色々探してみてくださいね。」


[キャラクターカードを交換しますか?]

[はい][いいえ]


[はい] を選ぶ。


「お、来た来た。ありがとー。

 えっと…ビ、ビエルテン…スピエ…名前なんて読むの?」

そういえば自分のプレイヤーネームなんて気にしたことも無かった。

メニューを開き探してみると

…あった。

ViertenSpieler

『…なんて読むんでしょう?』

「自分でも分かんないのかーいっ!」

軽快な突っこみが入る。そりゃそうだろうな。

「いいや、とりあえずスピさんって呼んでおこ。

 じゃぁサポートには問い合わせしとくねー。

 スピさん、またねー。」

そう言い残し、すっとドリッピーの姿は消えた。

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