第二話:転生者にして師

「では、第一問の一! ある世界のある時代のある国は……『』、『』、『蜀漢しょくかん』という三つの王朝に分かれていた!

 ――さて、最後に国を統一した王朝の名は?」


 この貴狼きろうの第一問に、鋒陰ほういんは「しん!!」と即答し始める!


「では、第一問の二! その『晋』から禅譲を受けた王朝の名と初代皇帝は?」


 これにも鋒陰かれは「そう! 皇帝は劉裕りゅうゆう!」と即答!


「……」

 陽玄ようげんは――知らない歴史ことばかりだ……。と驚いて絶句しているだけ。



「次、第二問! 我らが住まうこの『惑星』の種類は何と言われるか?」


 この貴狼の第二問にも、鋒陰かれは「『地球型』!!」と即答!



「今度は第三問! ある国の『昭和しょうわ』は何年続いた?」


 さらに貴狼の第三問にも、鋒陰かれ、「六十四年!」と即答!



「最後! 典型的な『三権分立』の三権を三つとも述べよ!」


 最後にも鋒陰は「『行政』、『立法』、『司法』!!」と即答してみせた! 実に早い!

 この問答を見守っていた陽玄は――こうも早く答えるか!? と内心で驚いている。

 紫狼しろうも――両問の歴史問題あれ、なかなか答えられないぞ。と舌を巻く。


「……」

 時狼じろうに至っては、口を「パカーッ!」と大きく開けたまま絶句。

 この時、時狼かれが何を考えているか。何も考えていない。



 こうして、貴狼の三つの質問に瞬時に答えてみせた鋒陰。


義弟達きょうだいよ! この鋒陰という者をどう思うか?」

 この貴狼の問いかけに紫狼は「義兄者あにじゃ、この者はやはり――」と。

 この直後に時狼も「『転生者』に違いありません!」と続いた!

 これら義弟達きょうだいの返事を訊いた貴狼は、静かに首を縦に振る……。


 そして体勢を正座に戻す貴狼。これに紫狼と時狼も続いて正座に戻る。


 そうして改まった貴狼は、鋒陰に向かって――

「ここに京賀国摂政『火虎高かここう(貴狼の本名)』は、只今より貴殿を京賀公師と認める! 何卒なにとぞ、お力をお尽くし頂きたい!」と頭を下げたではないか!

 続いて、「同国秘書も!」と貴狼も、「同国宮宰も!」と時狼も頭を下げる!

 この光景を見た鋒陰は自慢げに「是非、大船に乗ったつもりで!」と応えてみせた!


 こうして、鋒陰は京賀公(陽玄)の公式の師となった。とはいえ、ある疑問が残る……。



「ところで摂政閣下。まだよわい四歳の儂をこうも簡単にあるじの師にするものか? 仮に良いとしても、儂は平民だぞ。へ・い・み・ん!

 まぁ、元はどこかの貴族で、どこかの王朝の血も引いてるらしいがな……」

 鋒陰が貴狼にその疑問をぶつけてみると――

「直感ではあるが、私は鋒陰殿に圧倒的な力の存在を感じた故に、貴殿を『公師』と認めた次第。それに、この国を取り巻く時代や情勢が異常なのだ。

 ならば異常の手として幼年の師を戴き、それに賭けてみるのも一興という手段もの

 何より、高い身分や良い出自の者を用いて必ず良い結果が出せる程――まつりごとが簡単であるはずがなかろう!」という答えが返ってくきた。


「そこまで儂を高く買うとは……恐縮だなぁ……」と鋒陰は思わず照れて頭を掻いた。

 しかし、鋒陰かれにその行為を易々とさせるほど、貴狼は甘い人間ではない……。



「もちろん貴殿には、その『師』という身に相応しい結果を出して頂く!」

「摂政閣下がこうも幼い子にも手厳しい者だとはなぁ……」

「例え、子でもあなどらぬ者であるだけだ。

 ちなみに私は体罰とかには絶対に賛成したくない人間ほうだ!」

「それはよかった――かも……」という自身のこの発言と共に、鋒陰にある不安がよぎる。


 ――案外、寛容そうに見えて、失敗とか許さない人間タイプかな……?


 安心しろ、鋒陰。貴狼は“基本は”失敗を許す人間タイプだ。『基本は』……。



「……!」


 貴狼と鋒陰の一連のやり取りを見守った陽玄は、ほっと胸をで下ろす。

 さらに一瞬程だが、誰にも見られないタイミングで、僅かながらに口角を上げる。

 以前、否、今でも友である者の大抜擢を幸いに思いながらも……。


 ――ありがたいことに、母と父の目に狂いはなかった。と彼は内心で両親に感謝もする。

 同時に、旅に出て母国くにを離れている両親に会いたい思いも募る。


 しかし、“君主”を務めなければならないという『使命感』と、両親に会えない兵や民に対する『後ろめたさ』から、その思いを強引にねじ伏せた。

 この一時のみ、陽玄の心中を察することができる者は――いなかった……。



「――とはいえ、貴殿の力がどれ程のものか計ってみたい。

 都合が許せば、後ほど話に付き合ってもらうことになるが、よろしいかな?」


 貴狼に尋ねられて、鋒陰は「それはいいとして……」と返す。

 明らかに別のことを考えているとしか言い表しようがない言動。


 これに貴狼が「何かあるのか?」と尋ねると、鋒陰は――

「まだ宰相――殿下の姿が見えないぞ……? 主君の『師』の人事に宰相の許しとか無くて、大丈夫か?」と「キョロキョロ」と部屋内を見渡しながら返す。


 それほど大きくない部屋には、鋒陰と陽玄の二名の他に、摂政の貴狼、秘書の紫狼、宮宰の時狼の三名のみ。宰相を務めている者はいない。


「宰相殿下は所用の為、後ほど入室することになっている。心配も無用だ!

 それに殿下の人事権を他に預かる者は、宰相の上官であるこの『摂政』だけだ!」

 この貴狼の返答に、鋒陰は新たな疑問を抱くことになる……。

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