神界遊戯 最強ソロプレイヤーと星の女神
杜乃真樹
プロローグ
ここはフレイシア王国、西部にあるサヘルの街。近隣に幾つかの鉱山があり多く鍛冶師達が住み己の腕を磨いていると言っても現実の世界ではない。一般的に仮想空間と呼ばれるネットワーク上に広がる世界の一つ。FDVRMMORPGと呼ばれ医療用に開発されたBCIS(Brain Computer Interface System)を改良し開発されたFGEAR(フルダイブギア)を使い仮想空間に五感を接続しゲームの世界を体験できる。
FGEAR発売から三年後の十二月に発表されたFDVRMMORPGユリウスは圧倒的な映像技術を用い現実世界と
「今年十二月二十四日をもちまして配信停止いたします」
そのメールは全プレイヤーに衝撃を与え瞬く間に世界中に広がっていった。配信開始日から今に至る五年もの間、目標でもある建国に向け国を守れる強さを求め続けてきた
配信停止十日前、颯斗はホームでもあるサヘルの街を離れフレイシア王国の王都フレイスに来ていた。王都フレイスは初心者でも簡単に倒せる魔物が多くギルドも多数存在し武具も安価で手に入る。プレイヤーからは「始まりの都」と呼ばれプレイ日数の浅い初心者が集まることで知られている。
そんな王都フレイスに颯斗は配信停止の告知があった翌日から毎日のように足を運んでいた。理由はで仲間探しなのだが誰でも良いという訳にもいかず二週間毎日通っているが未だに仲間候補にすら出会えていなかった。
このユリウスで建国する条件は九人以上の仲間が必要という一点のみで他に条件はない。颯斗の様に仲間がいなければ厳しく感じるが大抵のプレイヤーはギルド等に所属していることが多く建国すること自体は然程難しくないのだが問題は建国後にある。ユリウスは無限に広がる世界ではなく現実世界と変わらない有限の世界。その限られた世界に三十程の国が点在しNPCが統治する国が十、それ以外は全てプレイヤーが統治する国になっていて建国するとプレイヤーが統治する国内で建国することになる。
NPCが統治する国は不可侵領域になっており侵略行為は不可能になっているがプレイヤーが統治する国は全域で侵攻可能になっている。建国後三十日間は不可侵領域になるため安全だが三十日を過ぎると攻め滅ぼさせる場合が殆どで隣国と同盟を築くか強いプレイヤーが複数名在籍しているギルドや知略に長けた国だけしか生き残れない。現在二十ほどのプレイヤーが統治する国が存在するがほぼ全てがその条件を満たしている。最近では戦争状態にある国ですら建国を確認すると協力し滅ぼすといった協力体制が構築されており建国はできても長期的に維持していくのは不可能とされ現在では建国する者すらいない。
颯斗はギルドに所属しておらず建国のためには仲間を集める必要がある。強さか知略どちらかを備えギルドや国に所属していないソロプレイヤーを仲間にするのは奇跡でも起きなければ不可能だろうしゲームといっても奇跡が簡単に起きないことを颯斗は十分理解している。
そんな颯斗の狙いは初心者のスカウト。強さや知略など二の次にしなければ仲間を九人揃えることはできない。経験者だとギルドや国などに所属している可能性が高いが初心者ならば逆に所属していない可能性が高くなる。配信停止までならば参加することでのリスクは一切ない。当然メリットと呼べるものも存在しないのだが初心者なら好奇心から参加してくれるかもしれない。
そんな思いで王都フレイスに来ているのだが初心者らしき人をいまだに見かけておらずその日も諦めてログアウトしようとしたその時、初期装備でもある白い布の服と白いスカート。肩の辺りまで伸びた黒髪にヘアピンをつけていて見た感じ清楚系女子高校生といった感じの女の子がフレイスの中心部にある公園で辺りを見渡しながら歩いている。その公園は知合いや仲間との待ち合わせに使う事で知られ王都フレイスをホームにしているプレイヤーがログイン時に転送される場所でもある。
そんな場所に初期装備のみとなれば初心者どころか今日が初ログインの可能性すらある。初心者ということもあるが困っているように見えるからには見捨てて行くわけにもいかない。手助けすれば仲間になってくれるかもしれないと若干期待しながら女の子に声をかけることにした。
「何かお困りですか?」
いきなり話しかけられた女の子は不審者を見るような目で颯斗を見ている。颯斗が思いつく言葉の中で一番、怪しまれない言葉を選んだつもりだっただけに警戒する女の子の姿を見て一人目の仲間にという希望が目も前で崩れ去っていくような気がしてショックを隠し切れない。
「終わった。何もかも・・・」
颯斗は女の子を背にして来た道を戻ろうと歩き出す。
「あの・・・ 急に話しかけられて驚いてしまって」
「気にしないでいいよ・・・ えっ?今なんて?」
振り返ると申し訳なさそうな顔をした女の子が立っていた。困っている人を助ける筈が逆に困らせ気まで使わせたことがとても恥ずかしく思え頭の中が真っ白になっていく。
「いや、その、なんと言うか。困っていたみたいだったから・・・ 急にごめん」
「私の方こそごめんなさい。こういうゲームやった事なくて。話しかけられて驚いちゃって」
「気にしなくていいよ。俺は颯斗。分からない事があれば教えるから何でも聞いて」
話を聞くと悠奈のお姉さんに誘われてユリウスを今日から始めたらしくログインした後どうしたらいいのか分からず、お姉さんが進め方を教える約束をしていたが現れなかったみたいでログアウトも考えたが入れ違いになると思い移動もログアウトもできない状態で途方に暮れていたようなのだ。
妹をユリウスに誘うぐらいならばお姉さんは初心者じゃないだろうから動き回るよりこの場所で待つ方が賢明な判断なのかもしれない。
「ここで待った方が良いかもしれないね。時間もあるし待つ間にユリウスの事教えるよ」
最初から勧誘じみた話をしたくなかったこともありユリウスの事を教えることにした。簡単なゲームも進め方や職業について。魔物との戦い方、大まかな知識はログイン時に記憶していて生まれた時からユリウスで生活していたかのように知っていて生活に困ることはないのだが悠奈のようなダイブ型ゲーム初心者からしてみると分からないことの方が多い。戦闘においてのダメージなどその最たるものじゃないだろうか。
攻撃を受けると痛いのか?掠り傷程度なら痛みを我慢できるかもしれないが魔物との戦いになれば腕を切り落とされたりすることも無いとは言い切れない。その時に痛覚があれば常人では耐えることはでない。その対策として痛覚を遮断し攻撃を受けた場合にダメージエフェクトを表示させるようにしてある。ダイブ型ゲームでは痛覚なしダメージエフェクト表示が実装されている場合が殆どだろう。
「でも悠奈ちゃんのお姉さんも薦めるなら配信停止になるゲーム紹介しなくてもいいのにね」
悠奈は配信停止と聞いて驚いた表情をしていたが何か思うところがあるのか何か考え込んでいる。
「今思えば変なんですよね。お姉ちゃんって今までゲームに興味すらなかったのに突然誘ってきて。待ち合わせに遅れたことなんて一度もないのに今日に限って今だに来ないし」
突然ゲームに興味を持ちユリウスを始めた友達が颯斗にも居る為か悠奈が感じる違和感を颯斗は感じることはなかった。むしろユリウスを紹介してくれた悠奈の姉に感謝している程だ。話をしている中で颯斗が目指す建国の話を悠奈にしたところ配信停止日まで協力してくれることになったのだ。仲間が一人見つかったことで残り八人になり一歩前進したと言える。今後は悠奈も協力しながら仲間を探すことになり純粋に人員が増えることでの恩恵は大きく明日からユリウスで仲間探しをすることで話は纏まったのだが悠奈の姉は悠奈と話し始めて二時間を経過しようとする現在でも現れることはなかった。
「もしかしたら待ち合わせ時間間違っちゃったかもしれないからログアウトしてくる。明日は十八時に待ち合わせでいいかな?」
「それが良いかもしれない。俺はもう少しメンバー探していくよ。人探ししてる女の人いたら悠奈のお姉さんか聞いてみるよ」
そして悠奈はログアウトしていた。第一印象が不審者から始まったのだから仲間になってもらえたのは幸運だった。布の服の上下という装備のままというのも戦闘の心配はしなくていいとしても誘ったからには責任をもって揃えようと思う。建国に必要な資金の数倍は持ち合わせている颯斗にとって武具の購入は果物屋で林檎を一つ買うのと変わりはない。行きつけの鉄斎の工房で作ってもらってもいいのだが鉄斎の作品は一癖あり装備できない可能性がある。幸いにも工房に行く機会があるので話だけでもしてみようと考えていると連絡用のメールが届いていることに木がつく。
連絡用メールを颯斗に送れるのは運営を除くと鉄斎と悠奈しかおらず悠奈はログアウトしたばかりで運営に至っては配信開始されてから今までにメールに限らず連絡がきたのは配信停止の告知のみ。どちらも可能性は低いとなると残るのは鉄斎のみ。武器と防具の製作を依頼していることもあり鉄斎で間違いないだろう。
メールを確認すると「頼まれていた武具がやっとできた。今日も仲間を探しに行ったが見つからなくて暇なんだろ? ログアウトする前に工房に寄ってくれ」と書かれていた。確かに仲間を探していたが暇ではない。何故なら仲間が出来たからだと返信してやろうかと考えもしたが直接言ってやろうと思い若干ニヤニヤしながら鉄斎の工房があるサヘルの街へ向かうことにする。
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