第14話 ブレイクタイム―吉行 ユリと真白 杏子―
タクちゃんと神原さんと別れた私は女子部屋へと向かった。女子部屋へと続く扉は男子禁制とハッキリ書いてあった。なので、どこぞの誰かが夜這いにかかってくる心配はないだろう。
女子部屋はまるでホテルの一室のようで、部屋は二部屋とシャワールームがある。手前の一部屋にはダブルサイズのベッドがあり、奥の部屋はシングルサイズのベッドが二つあった。女性参加者は私、杏子、名取さん、夢子ちゃんの四人だ。丁度四人分のベッドがある……ただ、ベッドの割り振りで揉めそうだ。なんでダブルサイズのベッドなんだろう。そこは全部シングルで良かったでしょうが。
シャワールームへ行くには奥の部屋を通る必要がある。そこから、水の流れる音が聞こえる。誰か使っているのだろうか。
とりあえず、することがない私。テーブルの上に置いてあった雑誌を読むことにした。デスゲーム特集。なにこれ。こんなものが特集されるの? こんなものが特集されるようになるとか、全くこの世の倫理観はどうなってるの……今月は、リアル人狼ゲーム。生存率が低い狂人が生き残るには……
ふむふむ。連続ガードなしなら、あえて潜伏するのも手。真占いが確定して護衛がそこに集中しても、狼が二連で噛んでくれれば占いは処理できる。縄を寄せられない程度に占い位置にいくのがポイント。
なるほど。全然わからない。人狼は一回やったことあるけど、初日に吊られてしまって以降全くやっていない。あんなゲーム楽しんでやる方がどうかしていると思う。
そういえば、杏子はリアル人狼ゲームで生き残ったって言ってたな。運よく噛まれも吊られもしない位置で生存した……有能な味方陣営に助けられたって言ってたね。噛まれることを懸念しているってことは役職は人狼ではなさそうだ。
ガチャリと扉が開く音が聞こえた。シャワールームの方からだ。しばらく経つとドライヤーの音が聞こえてきた。髪を乾かしているのかな。
また扉が開く音が聞こえる。中から出てきたのは杏子だった。三つ編み姿ではなく、お風呂上りで髪を下した姿だ。髪型一つで印象がかなり変わっている。先程は清楚系のイメージだったけれど、今は大人っぽくてどこか艶めかしい雰囲気を漂わせている。
「あ、ユリ。いたんだ」
「やっほー杏子。お疲れー。どう? ゆっくり休めている?」
「うん。なんとかね。私もまだまだデスゲームに慣れていないけれど、みんなの足を引っ張らないようにがんばるつもりだよ」
杏子は私が手に持っている雑誌を見て様子が変わった。どこか、そわそわしているような落ち着きがなくなったような。そんな感じだ。
「それ読んだの……?」
「うん。人狼ってやっぱり難しいよね。私にはさっぱりわからない。だってまず、専門用語が多いしついていけないよ」
「人狼ね……嫌なこと思い出しちゃったな」
「あ、そうだよね。ごめん。杏子は前のデスゲームで人狼ゲームやらされたんだったよね。辛いこと思い出させてごめんね」
私は自身の発言の軽率さを戒めた。ユリにとっては辛い過去を思い出せてしまったんだ。リアル人狼ゲームはどうしたって犠牲者はでる。杏子は誰かの死を間近で見てしまったのだ。トラウマにならないはずがない。
「ううん。いいの。ユリ……私の話聞いてくれる?」
「あ、うん。聞くよ」
神妙な面持ちで話をする杏子。一体、彼女の口から何が語られるのか。
「リアル人狼ゲームをやった時の私の役職はね。『狂人』だったの。私は村人陣営じゃない。人狼の味方だったんだ」
人狼の味方。そう聞いただけで私はゾクっとした。私は今まで杏子が村人陣営側の人間だと思っていたからだ。やはり村人が正しくて、人狼が悪いやつだというイメージは確かにある。私も人狼ゲームを観戦する時は自然と村人側を応援している。
杏子は悪い子じゃないのはわかっている。ただ、配役の問題でそうなっただけ。完全に運でしかない。でも、人狼側は自分の意思で村人の中から誰かを選んで殺す。そういうルールなのだ。
「私は本当になにもできなかった。占いにもでないし、霊能にもでない。なにをしていいのかわからない。完全に潜伏狂人だった。だけれど、私たちは結果的に勝った。三人いた人狼の一人は処刑されちゃったけど、なんとか勝つことができた。残った村人陣営の人も人狼陣営が勝利したことで殺されちゃった。十三人いた参加者は三人しか生き残れなかったんだ」
淡々と過去を語る杏子。その目はなにかに怯えているようだった。
「私は勝ったのに味方の一人に責められたよ。なんで狂人なのに役にでなかったんだって。そのせいで、仲間が一人死んだ。パーフェクトゲームも狙えたのにって……仲間のもう一人は私とは目も合わせなかった。結局私は有能な人間がいる方に運よくつけただけでなにもできなかった。もし、あの時引いた役職が狂人じゃなかったら、私は人狼に殺されていたかもしれない」
杏子は責任を感じているんだ。自分が何もしなかったせいで仲間が死んだことに。
「そっか……辛かったよね。仲間を助けられなかったのは。でも、杏子が悪いわけじゃないよ。悪いのはデスゲーム主催者だって」
「でも……私がなにか行動をしていたら、助けられた命もあったかもしれない。ああ、ごめんなさい。
杏子は相当思い詰めているようだ。私が何か言葉をかけたとしても、きっと否定するだろう。それがネガティブな人間というものだ。そういう時の対処法は一つしかない。私は頭を抑えて苦しがっている彼女をそっと抱きしめた。
「ユリ……?」
私は杏子の頭を撫でた。赤ん坊を落ち着かせるように、人に怯えている野生動物に敵意がないことを示すように。
「大丈夫。大丈夫だよ杏子。私は杏子を嫌いになったりなんかしない。私と一緒に協力してこのデスゲームを勝ち抜こう。大丈夫。きっとみんなと一緒に出られるよ」
「ユ、ユリ……ありがとう……」
杏子の目から涙が溢れる。彼女の涙が私の服に染みこむが、不思議と嫌ではなかった。彼女が落ち着くまで抱きしめてあげよう。そう思っていた矢先だった。
「おっすー! あ……」
夢子ちゃんが女子部屋にやってきた。抱き合っている私たちを見て、気まずそうにしている。
「え、えっと……ご、ごめん。わ、私なにも見てないから」
「え、ちょ、ちょっと誤解しないでよ夢子ちゃん! 私たち、別にそういうのじゃないから! ね? 杏子」
「そ、そうだよ! 私がユリに慰めてもらってただけだから」
「慰める……? あっ……」
夢子ちゃんはなにかを察したようにその場から走って逃げ去ってしまった。
◇
私、杏子、名取さん、夢子ちゃんの四人が集まって会議をしている。誰が、どのベッドに寝るかを真剣に議論するのだ。
「私、ダブルベッドは絶対嫌だから。私はイケメンとしか寝ないって決めてるの。だからシングルは私がもらうから」
名取さんは断固としてシングルベッドを譲らないつもりだ。彼女は不思議と発言権が強くて逆らう気がおきない。
「あ、ははは。ナトリンがシングルなら私もシングルがいいかなー。この二人のどっちかとダブルは嫌だし」
夢子ちゃんは私たちと目を合わそうともしてくれない。完全に誤解されている。
「私はユリとだったらダブルでもいいかな」
その言葉に夢子ちゃんは青ざめている。杏子! またそうやって誤解を生むような発言をして!
「い、いや。わ、私は床で寝るから! 大丈夫! 私床フェチだから。床の堅い感触を感じながら寝るのが好きだから」
これ以上誤解されたくないから、私は必死で床で寝るためのアピールをする。しかし、杏子はそれが気に入らないらしく目が潤んでいる。
「ユリは私が嫌いなの? そうまでして私と一緒は嫌?」
「杏子が嫌とかそういうんじゃなくて……」
「大丈夫だよユリリン。今の時代それが普通だから。私、理解ある方だと思うから」
「だから違うってば!」
結局、誤解が解けるまでかなりの時間がかかった。ちなみに私は杏子とダブルベッドで寝ることになった。わざわざダブルベッドにしたジャクソンめ。覚えてろよ!
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