デスゲームの達人
下垣
第1話 Thanatos Fantasy
私の名前は、
お姉ちゃんの容姿は、私と同じで肩までかかった黒髪、瞳の色は黒で目はくりっとして少しデカくて涙袋があるのが特徴的だ。
顔は本当に似通っているのだけれど、唯一違うとすれば体型というか、主に胸の部分。お姉ちゃんは割と豊満だけど私は残念ながらそうではなかった。同じ両親から生まれて遺伝子的にも似通っているはずなのに解せぬ。
ある日、お姉ちゃんに新作ゲームのテストプレイヤーに選ばれたという書面が届いた。何でもこのゲームは、VR技術を応用した超リアルなゲームで正に次世代のゲームと言った感じだ。
このゲームには多額のお金がかけられているのかテストプレイヤーにもそれなりにお高い報酬が出ている。私の一年分のバイト代よりも多いくらいだ。私はお姉ちゃんが羨ましいと思った。
私だったら浮足立つであろうこの好条件でもお姉ちゃんはしっかり現実的にとらえていて、二人の生活費の足しにするとか言っている。どうせなら旅行に行きたかったよ私は。
そして、テストプレイ開始当日、なんとお姉ちゃんは風邪をひいてダウンしてしまった。これじゃあ折角の報酬がパーである。なんとも運が悪い。
「ユリ……聞きなさい……私はもうダメ。一歩も動けないの」
「そんなことないよお姉ちゃん! また歩けるようになるよ!」
風邪くらいで大袈裟な演技をしてみる。もちろん一歩も動けないのは嘘。さっきトイレに行ってゲーゲー吐いているの目撃したもん。
「ユリ……お願いがあるの。私の代わりに百万……ううん。VRゲームのテストプレイヤーとして参加して欲しいの」
百万って言ったよこの人。全く現金な人である。まあ、そういう私も百万欲しいからその頼みを引き受けるんだけど。
「わかったよ! お姉ちゃん! 私お姉ちゃんの分までゲームで思いっきり遊んでくるね!」
こうして私は姉の代わりに新作VRゲーム『
◇
私は、クリーム色のカーディガンに朱色のロングスカートに着替えて電車に乗った。個人的に気に入っているコーデである。なお、このコーデでデートした時のフラれた確率は100%という何とも縁起の悪い勝負服ではあるが。
運良く座席に座れた私はそのまま電車に揺られて目的地まで目指す。私の目の前にかなり太っているオタク風の男の人が立っていてて気分が最悪だった。どうせならイケメンが良かったな。
ボサボサの黒髪で黒縁の丸メガネ。よれよれの黒いTシャツに色褪せたジーンズとかもう少し身だしなみに気を遣ったらどうなのとツッコミたくなる程だ。
「次は~きさらぎ駅~ 次は~きさらぎ駅~」
電車のアナウンスが聞こえた。私が下りる最寄りの駅だ。電車が止まるまで待ってから私は席を立ち、出口へと向かった。
げ、あのオタクも私と同じ駅で降りるんかい。まさか目的地一緒とかないよね?
私の予感通り、あのオタクと私の進行方向は完全に同じだった。同じ改札を出て同じバス停でバスを待って、同じバスに乗って、同じビルの前に立っている。
「ふひひ。キミも新作ゲームのテストプレイに来たのかい?」
オタクが馴れ馴れしく私に話かけてくる。口ぶりから察するにこの人もテストプレイヤーのようだ。
「ええ。一応そうです」
「そっかー。じゃあ一緒にプレイすることになるね。くくく……一緒にプレイ。あーいいねー。興奮してきた」
私はスマホで110通報したくなる気持ちを抑えて、オタクを無視してビルの中に入っていく。全くこのテストプレイヤーの人選はどうなってるの……
「本日はどのようなご用件でしょうか」
受付の美人のお姉さんが私に話しかけてくる。私は郵便受けに入れられていた書面を見せてテストプレイヤーであることを告げた。そうするとお姉さんが内線で確認した後に案内してくれた。
「あちらのエレベーターで四階の控室にお進み下さい」
私は案内されるまま、エレベーターに乗った。当然あのオタクもエレベーターに乗ってるから同じ空間で二人きりという地獄のような時間を過ごすことになったけど。
「ふひひ。ぼ、僕の名前は
「はい。短い間ですけどよろしくお願いしますね。和泉さん。私の名前は吉行 ユリです」
一応自己紹介されたから、自己紹介を返しておく。私はどんな相手でも礼儀正しく真っすぐでありたい。例えそれが得体の知らない怪しいオタクであっても。
「ぶひい。ユリたんって言うんだ。可愛い名前だね」
「ユリたんはやめてください。通報しますよ?」
「ふひいいつ、通報はやめて欲しいんだな」
訳の分からない呼吸音と共に和泉さんが興奮し始めた。一体何なんだろうこの人。個性の塊とかいうレベルじゃないよ。
エレベーターが四階へと付いた。時間にしてみれば一分も経っていないのだろうけど、私にとってはとても長い地獄の一分間であった。これが相対性理論ってやつですか……
◇
四階に入ってすぐに控室があった。控室には既に人がいた。見知らぬ女性と見知った男の子の顔がそこにはあった。
地毛は黒髪なのだが、前髪だけは赤く染めている。本人曰く赤い瞳に合わせているとのこと。体型は標準より少し筋肉質の細マッチョ体型で白いシャツにジーンズという恰好。同じジーンズを履いている和泉さんとこうも違うのかとイケメンの格を思い知らされる。切れ長の目でクールな印象を受けるその人は私の幼馴染の
「ユリ!? お前、ユリだよな? 何でここに!?」
「タクちゃんこそ何でここにいるの……」
タクちゃんこと浅海 卓志は、私の幼稚園児時代から中学生時代までを共に過ごした幼馴染だ。タクちゃんは頭がいいからエリート高校に行ったきり会っていない。私が行った高校? 訊かないでよ。
「ひ、ひい!」
和泉さんは奥にいる女性を見て何やら青ざめている。一体何なんだろう。
「あら、和泉さん。久しぶりだね。生きてたんだ。良かった」
「ぼ、僕はキ、キミと二度と出会いたくなかったよ」
「えーそんなこと言わないでよー。私と和泉さんの仲じゃない」
「早く切りたい腐れ縁なんだな!」
どうやら二人は知り合いのようだ。それにしても女性にすり寄られてるのに拒絶するなんて和泉さんの癖に随分と贅沢なものだ。
「なあ、お前アイツが女だと思うか?」
タクちゃんが女性を指さしてそう問いかける。
「え? 違うの?」
肩甲骨当たりまで伸びた美しい黒髪。少し肉付きのいい女性らしき体型。着ている服装も女物のシャツとスカートでどう見ても女の人じゃないの? 目もぱっちりしていて、まつ毛もかなり長い。口元の
「あいつの名前は、
「え!? お、男の人!? う、うそだ! 声だって完全に女の人なのに」
タクちゃんが冗談を言っていると思った。でも、私タクちゃんと結構つき合い長いけど冗談言っているの聞いたことないな。
「あら。私の秘密をもうバラしちゃったの? タクちゃんはイケない子ね。後でお兄姉さんがお仕置きしてあげる」
お兄姉さんって何!? 初めて聞いたよその単語。
「そして最悪なことが起こった……宮下がいるということは恐らくアレが始まる」
「え? アレって?」
私はきょとんとした。タクちゃんは一体何を言い出すのだろう。
「何よ。人を疫病神扱いして。失礼しちゃう」
「大丈夫だ。ユリ。何があってもお前のことは守ってやる。俺の命に賭けてもな」
いきなり愛の告白じみたことをタクちゃんに言われたけど、私の頭は混乱してついていけてなかった。え? 一体何なの? 嫌な予感しかしないんだけど……
扉が開く音がする。続いて現れたのは背の低い男性と女の子だ。
男性は茶髪で茶色い瞳。体型は背がかなり低くこの中で一番小さいんじゃないかな。服装は青いツナギの作業着を着ている。顔は年齢の割には少し幼くて身長も相まってか中学生くらいに見える。
女の子は金髪で碧眼。背は低くて、隣の男性より少し高い程度でかなり小柄だ。服装は奇抜な恰好をしていて、かなりカラフルなシャツを着ていて下はスパッツを着ている。こちらも顔立ちが幼い。
「うわ……宮下さんがいるの……最悪」
「そうかー? 俺は最高の気分だぜ。楽しくなってきそうじゃんか」
落胆する女の子に比べて、男性の方はややハイテンションだ。この宮下という人は一体何者なんだろう。皆、彼のことを知っているみたいだけど。
続いて入ってきたのは三人組の男女だ。逆立った茶髪の男性と盛っている茶髪の女性と黒髪の三つ編みの女性が一人。茶髪の男女は宮下さんの方を見て「げ」と発言したが、黒髪の女性はあまりピンと来てないようだ。
続いて、オールバックの髭面の男性と金髪で瞳が赤い男性が入って来た。オールバックの人は少し強面で怖いけど、金髪の人は中々の美形だ。嬉しい。オールバックの人は宮下さんを見て「チッ」と舌打ちをしたけど、金髪の人は表情を崩さずに宮下さんに笑いかける。
「皆。喜んでメシアが来たよ」
「ぶひ! か、彼がネットで噂のメシアですか!? 私も実物を見るのは初めてです」
皆が金髪の男性を見て歓迎ムードになっている。一体どういうことだろうか。
今この空間には、私含めて十一人のテストプレイヤーが集まっている。テストプレイヤーの人数は確か十二人だったはず。最後の一人がまだ来ていない。
しばらく待っていると扉がギィイと開いた。何やら重苦しい雰囲気だ。今までとは明らかに空気感が違うことが鈍い私でも分かった。
フード付きのローブを身にまとった男性が部屋に入って来た。その瞬間、メシアの登場で明るくなっていた場が一気に白けた。
「そ、その格好はまさか……死神か!」
逆立った茶髪の男性がそう叫んだ。その瞬間一気に空気が張りつめた。私は訳が分からず辺りをキョロキョロと見渡す。三つ編みの女性も私と同様に状況がよくわかっていないようだ。
「宮下と死神……最悪な組み合わせだな」
タクちゃんがポツリと呟いた。死神とは一体どういうことなのだろうか。
「で、でも今回はメシアがいるんだぜ。何とかなるって」
逆立った茶髪の男性が上ずった声でそう言う。死神とメシア。私には一体何のことだかわからない。
「ねえ、タクちゃんどういうことなの……」
「ユリ。早く逃げた方がいい。出ないと……」
タクちゃんが私と目を合わせる……そして一呼吸置いた後に
「お前死ぬぞ」
アラーム音と共に白いガスが換気口から噴き出してきた。控室はパニックになった。誰かが扉を開けようとしても扉は閉まっていて開かない。扉を叩いても全く反応がなし。煙を吸うと何だか眠くなってきた……
私の意識はそこで途切れた――
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