第12話 世界の大富豪『戦闘』


 「喰らえ!氷結魔法『スリジャヤワルダナプラコッテ』!!」


 大魔王ラスマーキンがその呪文を唱えた瞬間、絶対零度の凍気が銃弾をすべて時が止まったかのように止めた・・・。

そしてその凍気は、ラスマーキンのより近くにいたワン・ファーストとトゥーラ・セカンドの2名を瞬間冷凍したのだった。


 ちょっと後ろから銃撃したインフォ・マットはその距離のおかげで、瞬間冷凍に巻き込まれることを避けられたのだが、それは幸運だったに過ぎなかった。




 二人の『氷の彫像』が目の前にできたことで、インフォ・マットは戦意喪失となり、銃を捨て、両手を挙げた。


 「待ってくれ! オレは抵抗する気はなかった! 命令だったんだ!」


 「もうやめてくれ! 君達の要求を飲む! そこまでにしてくれ!」


 ウォーフもそう叫び、ラスマーキンの次なる攻撃をやめるよう懇願した。




 「むぅ・・・大魔王との戦闘は途中でやめることはできない・・・いかなる理由があろうとも・・・。」


 「な! やめてくれ・・・。あのワンのゲス野郎とトゥーラのメスブタが勝手にやったんだ・・・。オレは逆らえなかっただけだ!」


 「見苦しいな・・・。まだそのワンやトゥーラとやらのほうが覚悟があった。お前には・・・それさえない。殺す価値もないわ。」




 そう言って、ラスマーキンは戦闘モードを解除した。


 「ふむ・・・。さすがの迫力よの。ラスマーキンよ。吾輩が見込んだだけのことはある。嫌いじゃないぞ。その覇気。」


 「は! ありがたき言葉。」




 「ウォーフ・バットよ・・・。吾輩は二度は言わぬ・・・。すぐ行動するのだ。『ギンコー』の『トウドリ』とやらに連絡するのだろう?」


 「おお・・・さきほどジェシーとあなた方は言った・・・。それはジェシー・イーグルスでございますな? なるほど。賢明な彼・・・いや彼女のことだ。やはり抵抗せず従ったのでしょうな。ですが、えーと、シヴァ様とラスマー様でございましたか。『現金』を用意せずとも、『小切手』があります。1ビリオンダラーまでなら『小切手』が使えますぞ?

 これは『お金』と同じ扱いでございます。軽くて持ち運びも簡単です。」




 「ほう? 『コギテ』というのか? なるほど。それを使えば『お金』を運ぶと同様に扱うというのだな? よかろう!『コギテ』でもよい。準備せい!」


 「はい! ただいま! バト! すぐ小切手を準備しなさい!」


 「了解いたしました。」


 バト・バトラーは小切手を取りに退席し、すぐさま戻ってきた。




 「では、こちらをどうぞお収めください。1ビリオンダラー(10億円)でございます。」


 「ふむ。では・・・ラスマーキンよ。またこれは収納しておけ。」


 「は! では『アイテムボックス』・・・はい。」


 1ビリオンダラーの小切手があっという間に消えた。




 「シヴァ様・・・。ひとつ質問してもよろしいでしょうか?」


 おもむろにウォーフがそう切り出してきた。


 もちろん吾輩に答えられる事であれば答えてやることは吝かではない。吾輩は別に『悪』ではないのだからな。


 「許す!何を聞きたい? ウォーフ・・・先見の明を持つ男よ。」




 「は! そのお金の使いみちでございます。使用使途・・・ですな。」


 「ふむ。これは世の中の『貧困』をぶち壊すために使う。富める者から貧しき者へ滝の水が落ちるかの如く・・・あるべき様態に戻してやるのだ!」


 「ほう! そうですか!? ・・・では、もしも・・・今後、なにかお困りのような事態になった場合、その時、今一度このウォーフ・バットを思い出していただきたく思います。必ずやおチカラになれるかと自負しております。」




 「ふっ・・・ふはははは・・・。貴様! なかなかみどころがあるヤツじゃの。まだ年端もいかない人間の小僧が・・・言うではないか!? 面白い! 貴様のことは覚えておこう!」


 「いや・・・シヴァさんだっけ? ウォーフ様は御年72才ですけど・・・。小僧って・・・あんたは何才だよ、それなら・・・。」


 バトはそう思わずツッコんだ。


 「む? 吾輩か? 吾輩は生まれ出でて数千年であるな・・・。数えてないゆえ、正確にはわからんがな・・・。ふふふふふふ・・・。」


 「・・・。いや、そんなわけ・・・。」




 「では・・・去るとしよう・・・。おっと、その前に・・・。」


 吾輩はいたくこのウォーフという男の手のひらに乗せられた感が気に入ってしまった。おそらく、吾輩はこの男にもう一度会いに来よう・・・。


 ならば、『貸し』を与えておいてもよかろう・・・。


 「絶対破壊拳殴打!」




 吾輩がそう一言つぶやき、軽くパンチを振るう。眼の前で凍結させられた2名の男たちの氷の彫刻に向かって・・・。


 パッキキイイイーーーーン!!


 絶対零度で融けない魔法の氷で覆われたその氷が、いとも簡単にバラバラに砕け散った・・・。


"

"

 ウォーフ、ロウ、メディ、バト、インフォの5人は、この破壊に2つの思いがあり、驚きのあまり声も上げることができなかった。


 1つはまったく溶ける素振りもなかった絶対零度の『氷の彫刻』がいとも簡単に砕けてしまったことに・・・。


 もう1つはその氷の中に閉じ込められた人間が氷が砕け散ったことでバラバラになってしまったのではないか・・・との不安から。




 しかし、最強破壊神シヴァルツ・シヴァイスのその拳打は、氷だけを砕き、中に閉じ込められていたワンとトゥーラはその場に倒れ込みこそしたもののの、その身体は無事であった。


 「ぐっ・・・ぐはっ!」


 「ゴホゴホ・・・は! ウォーフ様! 我らはいったい?」


 「シヴァ様・・・ありがたき・・・感謝致します。ワンもトゥーラもこれに懲りて今後は、ゆめゆめ私の指示に逆らうなよ。」




 「ウォーフ様・・・我々はどうやら命を助けられた・・・というわけですね。」


 トゥーラという女性がそう言い、吾輩の前にひざまづいた。


 「慈悲をかけていただき、感謝致します・・・。」


 「同じく! 感謝致します!」


 ワンという男も吾輩の前にすかさずひざまづき、感謝の意を示してきた。




 「ふふ・・・。吾輩は無益な破壊は好まぬ・・・。」


 「さすがはシヴァルツ様。我の『絶対零度の氷結魔法』もいとも簡単に破壊してしまうとは・・・。正直、我の立つ瀬がありませんぞ。」


 「ふん・・・いちいち細かいことを気にするでないぞ? そんなことだから勇者に負けたのではないか?」


 「あ! あぁ! それはさすがにシヴァルツ様でも言い過ぎではありませんか? シヴァルツ様のお力添えもありましたのですよ?」




 「ああ、ラスマーキン、貴様!? 吾輩のチカラが足りなかったと申すか? お? お?」


 「いえいえ・・・けっしてそのようなことは・・・。ただ、勇者めのヤツはそれほど強かった・・・と言いたかったのです!」


 「であるか・・・。ま、そうじゃな、そういうことにしとこう。」


 「はい、まったくそのとおりです。」




 「ふむ、ラスマーキンよ。行くとするぞ。次は・・・ウィリアム・スーパーゲーマー、またの名を『ビルド』という男だったな。」


 「はい・・・では、また我が探索魔法で・・・。」


 「ふむ。」







 「ではさっそく『ゴカジョウノゴセイモン』!! ウィリアム・スーパーゲーマーの居場所をここに現せ!!」


 また大魔王ラスマーキンが呪文を唱えると、目の前の空間に、映像が浮かび始めた。


 そこに映し出されたのは、不敵な笑顔を浮かべながら、こちらを睨んでいるかのような男であった。





 「シヴァルツ様! この者の生命波動を特定しましたぞ。転移魔法ですぐ向かいますか?」


 「うむ、昔から、急がば破壊って言うからな。これ三回目・・・だったか?」


 「で、ありますな!」




 そして、またラスマーキンは転移魔法を唱えた。


 「転移魔法『ヒラケゴマ』!!」


 すると、また我輩達の目の前に闇の転移門が出現した。


 そして、再び、転移門をくぐる。




 その場に残されたウォーフの『バットスター・チーム』は、瞬間移動・・・とはやはり思えずに・・・。


 おそらく彼らはマジシャンであったんだろうと結論づけた。


 その後、ウォーフはこの騒動の合間にジェシー・イーグルスから連絡が来ていたことに気づき、すぐに彼女(?)と連絡を取り、情報共有を図るのであった。


 「ふふふ、次はウィリアムか・・・。あの男のことだ・・・。ゲーム感覚で楽しむだろうな・・・。」


 ウォーフはそうつぶやいた・・・。







~続く~



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