第10話 世界の大富豪『銀行家』


 「ハーイ! マネーゲ頭取。お元気だった?」




 「ええ。お気遣いありがとうございます。ジェシー様も変わらず美しい。」




 「あら、ホントのことを・・・言ってくれるわね。それにしても、あなたがこの支店にいるとは聞いてなかったけど?」




 な、なんだと!? こやつは、支店で一番偉いやつではなく、この商家一番の偉いやつではないか?




 この支店にいるのか? いつも? いや、まさか? 先程、連絡をしてからほんの数刻しか時は経っていない・・・。




 まさか、魔法が使えるのか? こやつ・・・油断ならぬな・・・。












 「ジェシー様が直接お越し頂けるとのこと、このダイスキーノ・マネーゲ。社のジェット機で飛ばして参りました次第でございます。」




 「ああ、あなたの家、ロスト・エンジェルズにあったんだったわね。」




 「はい。覚えておいでいただけましたか。嬉しく思います。」




 ふむ・・・こやつ、商人としてかなり優れたやつであるな。銀行というのは金貸しか・・・。この世界の金貸しは洗練されているのだな。




 じぇっとき・・『じぇっ時』・・・時の魔法か!? ふむ、この世界の人間は魔法は使えぬと思っておったが・・・。




 考えを改めねばならないな・・・。警戒するほどのことではないがな・・・。








 「ジェシー様のお連れ様もどうぞ、こちらへ。私めはダイスキーノ・マネーゲと申します。以後お見知りおきを。ああ、アルファ大佐、お久しぶりです。」




 「おお。ダイスキーノ中将。さすがの身の軽さですね。」




 「いえいえ、かつての空軍最高速の、『神速のアルファ』の名の前では、私めなど『蚊』ていどでございますよ。」




 「ふふふ、モスキートだけに、生き血を吸うかのように生かさず殺さずお金を集めるのは得意ってわけか。」




 「ほほほ。ユーモアが過ぎますな。アルファ大佐。」








 ダイスキーノ・マネーゲ。今は世界最大のメガバンク・『バンク・オブ・アメージング』の頭取を務めているが、かつては空軍の中将・元軍人であった。




 過去に、やはり元軍人で空軍切手のパイロットだったアルファ大佐とは顔見知りらしい。




 実はこの二人、元上司と部下の関係であり、アルファはその上司であったダイスキーノが空軍の中将を辞めて華麗なる銀行家に転身した際、裏切られたと思っているふしがあった。




 また、ダイスキーノはアルファのパイロットとしての技術を高く評価していたので、かつての部下ではあるが、その敬意も込めて、また、今は最大顧客ジェシーの私設部隊長であるアルファに対して、先程のような丁寧すぎる態度をとっていたのだ。




 その態度がどうもアルファは気に入らないらしかったが、かつての上司でもあり、今は社会的大成功者でもあるダイスキーノに対し、何も言えないのであった。








 そんな因縁めいたものがある二人の態度ではあったが、吾輩もラスマーキンも意に介せずで話し始めた。




 「早く、お金のもとへ案内せよ。」




 「うむ、シヴァルツ様がこうおっしゃっておる。急げよ。ジェシーに、ダイスキーノとやら。」




 「ジェシー様? この方たちはいったい・・・?」








 「ああ、こちらがシヴァ様で、こちらがラスマー様でありますわ。私が今度、ビジネスパートナーにしたいと考えてる方たちでありますよ。」




 「なるほど、そうでございましたか。それで、あのような大金をご準備されるのですな。わかりました。どうぞ、こちらへ。」




 そう言って、マネーゲ頭取は、自ら、特別応接室へ我輩達を案内した。




 その部屋はシンプルにして豪華、気品漂う部屋であった。








 そこに銀行の者がなにやら銀色のケース10箱を運び込んできた。




 「ジュラルミンケース1箱に1億ダラー、1ビリオンダラー(10億円)入っております。全部で10箱・・・確認いたしますか?」




 「けっこうです。あなたを信用しています・・・と言いたいところですが、もちろん確認させていただくわ。」




 ジェシーがそう言って、『じゅらるみんけーす』とかいう銀色の箱を開けては、中身を確認していくという作業を10回繰り返した。








 「さすがは、ジェシー様。その慎重さが今日の『アマゾネシア』を盤石のものとしているのですな。」




 ダイスキーノ頭取がそう評価する言葉を発した。




 「わたくし、自分の目を信用してますので。」








 「どうしますか? このままお車までお運びいたしましょうか?」




 「そうですねぇ・・・。シヴァ様、いかがなさいますか? これだけ量がありますが、いかがしてお運びいたしましょうか?」




 「うむ、そうであるなぁ。吾輩は破壊することは容易いが、これほどの量の『じゅらるみんけーす』を運ぶのはちと面倒だな。」




 「ふふふ・・・シヴァルツ様。我がいることをお忘れか? この大魔王ラスマーキン、暗黒魔法を極めし者でございますぞ。」








 「ほう・・・ラスマーキンよ。このようなときに役立つ暗黒魔法があると言うのか?」




 「もちろんでございます。その名も、暗黒魔法『アイテムボックス』でございます。」




 なんと・・・! アイテムボックスか・・・。人間どもが使っていた魔法ではないか!? さすが腐っても大魔王なだけはあるのぉ。








 「でも、そうは言ってもそんなには、積み込みできないんでしょう?」




 「いえいえ、我の魔力が回復した今、暗黒魔法『アイテムボックス』も、驚きの普段の1.5倍!!」




 「なんと! 驚きの収納力! まさかの!? でも・・・普段の魔力より、いっぱい魔力が必要なんでしょう?」




 「今なら、キャンペーン魔力! いつもの魔力で1.5倍の収納力なんです! 今がチャンス!今すぐ使いましょう!」




 あー、ラスマーキンのやつ、昨晩、『てれび』という魔道具でやっていた『ツウシンハンバイ』なるものを真似してやがるな、吾輩もついノッてしまったわ。








 「では、アイテムボーーーックス!!!」




 ラスマーキンが呪文を唱えると、10箱もあった重い『じゅらるみんけーす』があっという間に消えてしまった。




 暗黒空間に収納する魔法がアイテムボックスである。人間たちが得意としていたが、やつらの根幹は闇であると推定される証拠であるな。








 「おお!? これはいかがなされましたか? マジック・・・ですか?」




 「すごい! マジシャンだったの!? ラスマー様!」




 「なんて野郎だ・・・マジックか? いや、そんなオレの眼が見抜けないなんてことが・・・。」




 マネーゲ、ジェシー、アルファが口々に言う。




 「ふふふ・・・大魔王の魔力に恐れ入ったか?」








 「魔法・・・やっぱり、ラスマー様はマジシャンでございますのね? それもこんな見事なイリュージョンは初めてでございますわ・・・私・・・。」




 「では、用は済んだな・・・。行くとしようか?」




 「は! では次の目当てのヤツに会いに行くか?」




 「あ! 待ってください・・・。シヴァ様やラスマー様の連絡先を教えて下さいませんか?」












 吾輩はまたもや連絡先について答えることにした。




 「連絡先? 吾輩はそんなもの持っていない。吾輩を呼びたい時は、こう叫べばいい。最強破壊神シヴァルツ・シヴァイス様!とな・・・。」




 「え・・・えぇ・・・。」




 ジェシーのヤツ、ぽかんとした表情をしておるわ。




 「ま、まあ、シヴァ様がそうおっしゃるなら、どうにかして連絡できましょう・・・。いずれ、また会うと思いますわ。」












 「ふむ、ラスマーキンよ。行くとするぞ。次は・・・ウォーフ・バットという男だったな。」




 「はい・・・では、また我が探索魔法で・・・。」




 「ふむ。」














 「ではさっそく『ゴカジョウノゴセイモン』!! ウォーフ・バットの居場所をここに現せ!!」




 また大魔王ラスマーキンが呪文を唱えると、目の前の空間に、映像が浮かび始めた。




 そこには一人の男性が映し出される。年老いた老人・・・だが、その眼はランランと輝いていた。










 「シヴァルツ様! この者の生命波動を特定しましたぞ。転移魔法ですぐ向かいますか?」




 「うむ、昔から、急がば破壊って言うからな。これ二回目・・・だったか?」




 「で、ありますな!」








 そして、またラスマーキンは転移魔法を唱えた。




 「転移魔法『ヒラケゴマ』!!」




 すると、また我輩達の目の前に闇の転移門が出現した。




 そして、再び、転移門をくぐる。








 その場に残されたジェシー、マネーゲ、アルファは、瞬間移動・・・とは思えずに・・・。




 「OH!! 瞬間移動マジック!!」




 「ワラ・ワンダフル・イリュージョン!!」




 「ホワッツ!?」




 そう口々に叫び、その後、おそらく彼らはマジシャンであったんだろうと結論づけられたのであった。










~続く~




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