　雨は夜明け前に降る。

　射干玉（ぬばたま）の闇が一番深くなる頃、激しく降り注ぎ、世界を洗う。

　それは大地には潤いと恵みを齎（もたら）し、深更の森に蠢く獣の血生臭い狩りの痕跡を流し去る天空よりの賜物。

　人間には――

　咎人（とがびと）の汚れた罪、嬰児（みどりご）の安らかな眠り、そして甘やかなる恋人達の逢瀬を守り隠す銀幕、水の帳（とばり）。

　そうして曙の光とともに去ってゆく。

　それは世界がここに在る限り連綿（れんめん）と繰り返し、違（たが）えることのない，天と地の約束事。

　だからこの世界の夜明けはうつくしい。

　例え、今日がどんなに暴虐と不条理に塗（まみ）れようとも。

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。（ログインが必要です）

新規登録で充実の読書を

マイページ: 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる; 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める; フォローしたユーザーの活動を追える
通知: 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴: 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい