あなたの設定は「さきいれドロドロ派?」それとも「後付サクサク派?」

ちびまるフォイ

そんな設定、聞いたことなかったぞ!!

「ククク。ここまで来たことだけは褒めてやろう。

 しかし私は冥界の覇者。これまでの雑魚とはわけが違うぞ」


「お前がどんなに勇んだところで意味はない。

 残りの巻数はごくわずか。お前は俺に負けて世界は平和になるんだ!!」


「それはどうかな!?」


覇者は強力な魔法を唱えて勇者を吹き飛ばした。


「なにっ……!?」


「愚かな。今の時代、予定調和など愚の骨頂。

 テンプレな結末で多くの作品に埋没されるくらいなら

 いっそどうしようもない後味の悪さで知名度を得ることもあるんだよ!」


「ば、バカな! 最後の戦いがバッドエンドであっていいわけがない!」


「だが! この圧倒的な力の差が現実だ!!」


勇者はあっという間に窮地へと立たされる。

これまで必死に修行を重ねて手に入れた力でも及びもしない。


「これを……使うしかないのか……!」


「なんだ? この期に及んでまだなにか出し惜しみをしていたのか?」


「この力だけはどうしても使うつもりはなかったが……」


「無駄だ。貴様が今からどれだけ覚醒しようとも、

 この差を埋めるだけのことはできない」


「それは……どうかな?」


勇者はにやりと笑った。


「今だから話すが……実は、俺の両親は貴様と同じ魔族だったんだ!!」


「なんだと!? 貴様の両親は結構な序盤で交通事故で死んだはずだろう!?」


「魔族ということを隠すために死んだことにしていたのさ!

 ということで、同じ魔族による攻撃は実は俺には効かないのだ!!!」


「さっきめっちゃ効いてなかった!?」


「そう見せるための演技だったのさ!!!」


「なんのために!?」


勇者は後付け設定のおかげでもう魔王の攻撃は通用しなくなった。

ここからはマウントポジションを取ってボコボコに殴るだけのリンチ。


となるはずだった。


「我にはまだ方法がある! おい! であえ! であえーー!!」


魔王の号令で異次元ゲートから大量の魔物が現れる。

どれも魔王と同等の力をもつ強敵ぞろいだった。


「貴様が魔族の血統だとしてもこの数を相手にはできまい。

 我の攻撃は通用しなくとも、他の魔物ならば話は別であろう?」


「くっ……! しまった……!」


「英雄きどりでのこのここの最深部へやってきたことを後悔するがよい!!!」



「それは……どうかな?」



「また!?」


勇者は顔を上げる。

そこには魔物の攻撃を防ぐ仲間たちの姿があった。


「勇者! 加勢にきたぜ!」

「ひとりで世界を救う気?」

「ちょっと! 私も忘れないでよね!」


「みんな……!」


「バカな! お前ら全員これまでの旅の途中で命を落としたはずであろう!?」


「実は死んだと思っていたけど、生きていたのさ!!!」


「なんで!?」


「それは……言えないな!」


「なんでだよ!!」


魔王が用意した魔物の軍勢も複数人となった光の仲間たちによって倒されてしまった。

万策つきた魔王はもはやみっともなく命乞いをするしか方法がない。


「フフフフフ……ハーーッハハッハハ!! 見えた、見たぞ勇者! 貴様の弱点が!!」


「なに!? 俺が脇をくすぐられるのに弱いのなぜ知っている!!!」


「そうではない。貴様の能力の正体に気づいたのだ」


「笑わせる、最後の最後で強がりか魔王」


「貴様の切り札……それは後付け設定であろう?」


「……だったら?」


「貴様はこれまで我の攻撃や策を知ってから対策をするように設定を付け加えた。

 事前に対策ができないからだ。そうであろう?」


勇者はなにも答えなかった。

けれど、その眉間に流れる冷や汗がなによりも答えであると証明していた。


「そこで、だ。次は貴様になんの情報も与えず、何をするかも教えず

 ノーモーションで攻撃すればいかな後付勇者である貴様でも防ぐことはできまい」


「待て! そんなことをしたら、何が起きたかわからないじゃないか!!」


「勝つために懇切丁寧に説明する魔王がどこにいる!! くらえ!!」


魔王はなんだかわからない攻撃を勇者におみまいした。

解析して後付設定を付け加えて防ぐにはあまりに時間が足りない。


「終わりだ!! 勇者ァーーー!!!」


攻撃はたしかに手応えがあった。

倒れたのは勇者ではなく、勇者が盾にした仲間だった。


黒焦げになった仲間はそのまま灰になり、風にまかせて消えてしまった。


「お前……なんて外道なことを……!! 我でもそこまでやらないぞ……」


「よくも……よくもぉぉぉーーー!!!」


「逆恨み覚醒する気か!?」


勇者は仲間が死んだことで大きくパワーアップ。


「貴様……なんだその力は……怒りで覚醒するっていうレベルではないぞ……!?」


「実は、俺の能力はこの仲間によって普段は抑えられていたんだ。

 そのリミッターがお前によって、不幸にも、殺されたことで俺は本来の力を発揮することができる。

 という設定があったんだ!!!」


「貴様、まさか仲間を盾にして死なせることで後付設定を得るためのきっかけを!?」


「覚悟しろ魔王。貴様に殺された罪もない人たちの痛みを思い知るがいい!!!」


「ま、待て! さすがにそれはっ……」


「問答無用ォーーーーッ!!!」


勇者は自分の技を解説することもなく。

当たり前のようになんの情報も与えないまま魔王を斬り捨てた。


「グアアアーーッ!!」


真っ二つにされた魔王は消滅し世界に平和が訪れた。


勇者が実は魔族で実は人類の敵なんじゃないかというのは触れられず、

どうして魔族の両親がそもそも協力してくれなかったのかは誰も考えず

死んだと思った仲間が生きていたことをなぜ教えてくれなかったのかは気にされず

勇者の強大な力を抑えることができるだけの力がどうして仲間が持っていたのか。


さまざま問題は尽きないが、世界が平和になったのなら誰も考えることはなかった。


「みんな終わったよ……これで世界は平和になった……。

 魔王が押さえつけていた魔力の枷もはずされ石化していた人はもとに戻り

 殺された人たちも復活し、マスクの品薄も解消され、世界は元通りになったんだ!!」




"それは……どうかな……?"



「こ、この声は!?」



"おめでとう。君の冒険が大変に反響を読んでシリーズ化が決まった。

 なのでこの話が最終回ではなく、これはほんのプロローグという設定になったのだ……"


「そんなひどい後付け設定があってたまるか! 世界は平和になったんだ!」


"なら、シリーズ化の話もナシだ"




「……」




"どうするかね?"




「……」




勇者はふたたび立ち上がった。



「まさか、魔王が実は生きていて、世界に散らばる108個の煩悩を破壊しない限り

 本当の意味で死んだことにはならなくって、実は俺が盾にした仲間が復讐として闇落ちして

 実はこの世界が擬似世界で別の裏世界ではさらに強い敵がいるなんて設定、知らなかったぞ!!!」



to be continued....!!!

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