第230話 決心(3)
南がゆうこの見舞いに来た。
「なんかさらに痩せてしまって。 心配やなあ、」
「でも。 おなかの赤ちゃんは順調だそうですから。 いつまでもこの状態は続かないでしょうし・・。 もう少しの辛抱だと思って、」
ゆうこは微笑んだ。
「なんか。 社長が怒ってしまって大変やって・・真太郎が。」
その話を持ち出され、ゆうこは表情を暗くして
「あたしも。 こんなになってしまって。 志藤さん一人に嫌な思いをさせることになって、」
と言った。
「ゆうこはなんも気にすることないって。 彼やってそれは覚悟の上やと思うで、」
「それに社長にも・・。 顔向けできないと言うか、」
「社長は何でもきちんと考えてくれはる人やん。 ゆうこのことやって・・」
「もう・・社長の秘書としていられないんじゃないかって、」
落ち込むゆうこに
「もう。 そんなに気にすると。 おなかの赤ちゃんにも伝わるよ。」
南はため息をついた。
「志藤さんも本当に忙しいのに。 あたしがこんなだから、毎日のように来てくれて。 今日も大阪に行くことになってしまって。 オケの方も大詰めだって言うのに。 ・・身体を壊さないか心配で、」
「真太郎がね。 志藤さんを助けてくれるから。 オケのデビュー公演を成功させるために、みんな頑張ってるみたいやし。 あたしも少しは協力してるから。 ゆうこはゆっくり休んでてええねんから。」
南はゆうこの手を握って安心させるようにそう言った。
志藤は大阪支社で打ち合わせをなんとか終えた。
「・・まあ。 あとはこっちで何とかなると思う。 スポンサーの関西テクノロジーの早見社長は話のわかる人やし、」
紗枝が志藤に言う。
「これからは行き違いのないように、随時確認して。」
「わかった、」
会話が途切れた時、志藤はふっと思い出したように
「あのな、」
紗枝を見た。
「え?」
「おれ・・結婚する。」
唐突な
言葉に紗枝は
「え・・」
固まってしまった。
「白川さんと。」
紗枝は驚きながらも
やっぱり
という気持ちが先に立つ。
「そう、」
紗枝は冷静にそう言った。
「彼女に子供ができて。」
と言うと、
「・・また?」
思わず言ってしまった。
「また?とか言うなって、」
「ほんま。 節操ないな、」
呆れたように言われて、
「と言われると。 なんも言えへんけど。 でもな。 ああ、運命やったんやなあって思う。 おれは、彼女と出会って色んなこと変わったって、」
そう言われた紗枝は
黙り込んでしまった。
「7年間も、もがき苦しんでたあんたを。 たった数ヶ月で変えてしまったあの子は・・まあ、運命の人なんやろな。」
そして
ポツリと言った。
自分だって
この人を
救いたかった。
自分がアホみたいだとわかっていても
全てをこの人に捧げたかった。
しかし
それも叶わず。
あの
おっとりとした
かわいい人は
こんなにしゃにむにならなくても
手を出すだけで
この人をここまで引っ張り上げたんだろう。
彼には自分ではなかった。
ただ
それだけだ。
「・・おめでと、」
紗枝は最後にそう言って、少しだけ笑った。
「・・うん、」
志藤はそれだけ言って
頷いた。
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