第227話 ここから(3)
「おれは。 こんなことになるためにおまえを大阪から呼んだんじゃないんだぞ。」
北都の声は
怒っていた。
「はい・・」
志藤はうつむいたままだった。
「彼女はおれの手足同然の子だ。 いきなり子供ができて結婚しますなんて許されると思うのか。」
「彼女の仕事はぼくがフォローします、」
「別におまえにやらせるつもりはない。 簡単に言うな!」
北都がこんなに怒るところを初めて見た。
「すみません、」
もう頭を下げるしかなかった。
ゆうこが真太郎を思い続けていたことは知っていた。
それが
どうしてこんなことになってしまったのかがわからない。
彼女と志藤が
いつの間にかにそんな関係になっていたのか
それも
全く気づかず。
「彼女はおれにとってただの秘書じゃない。」
そう言った北都をハッとしたように見た。
「大事な人だ。 勝手に連れていくことは許さない。」
厳しい視線を投げかけられ、北都はそのまま出て行ってしまった。
志藤が想像していたよりもずっと
北都の怒りを買ってしまった。
志藤はふらっと出てきて、真太郎と出くわした。
ボーっとした目で彼を見て
「アカン・・おれ。 飛ばされるかもしれへん・・」
と言った。
「はあ?」
「めっちゃ・・怒ってる。 ほんまにヤバイ、」
関西弁丸出しということは
かなり動揺している・・
真太郎はなんと言っていいかわからなかった。
医務室に行くと、ゆうこはベッドで横になっていた。
「どう、でしたか?」
志藤の姿を見て、起き上がる。
「ああ、寝ていて。」
彼女をそっと寝かせた。
「めっちゃ。 怒ってはる、」
「・・・・」
ゆうこは無言になってしまった。
「おれが思っていたよりも、ずっと。 社長にとってきみは『大事な人』みたいやな、」
志藤は苦笑いをした。
「え・・?」
「絶対に何とかするから。 たとえ、ここにいられなくなっても。」
「ど・・どういうことですか?」
ゆうこはかなり動揺した。
「ゆうこは心配しないで。 タクシーで帰りなさい。 そこまで送るから、」
と、志藤はニッコリ笑ったが。
心配しないわけがなかった。
北都は外出に真太郎を連れて行き、彼の運転する車の後部座席に座った。
「おまえは。 知っていたのか?」
突然後ろから声を掛けられた。
「え・・」
「あの二人のこと、」
ルームミラー越しに目が合った。
「はい。 ずっと南まで巻き込んで大変でした。」
「全く。 どういうつもりだ。」
北都は怒ったようにタバコに火をつける。
「志藤さんのことを怒っても、」
「怒りたくもなる! おれはあの子には絶対に幸せになって欲しかった。 それが責任だと思っていた。 それなのにこんなことに。 何の権利があってあいつに彼女を持っていかれなきゃならないんだ。」
北都にしては
あまりに個人的に怒っているような気もして
「社長自身が白川さんを秘書としておいておきたいってことじゃあ・・」
と言ってしまった。
「当たり前だろう。」
間髪おかずに言われてしまった。
それがあまりにも
当然のように言われて。
真太郎は少し驚いた。
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