第140話 夢一夜(1)

披露宴の招待客は


ほぼ引けていなくなった。




秘書課のみんなで二次会を設定していて、ホテルの最上階のバーに有志は移動して行く。



「お気をつけてお帰りになってください。」




ゆうこは最後の客にエレベーター前でお辞儀をし、そのドアが閉まると


ゆっくりと顔を上げた。





すごく


疲れていた。





控え室を片付けていると


大きな窓からは


輝く夜景が見える。


ぼんやりと窓に手をやって眼下に広がるそれを見た。





いつの間にか


その光たちが滲んで





窓ガラスに


人影が映った。




そっと振り返ると


志藤が立っていた。




「・・二次会は行かないの、」



そっと声をかける。



「・・・・・」



ゆうこは答えることができなかった。




「やっぱり、泣いて、」




志藤はふっと笑った。



すると、ゆうこは本当に驚いて



「え・・。 あたし・・泣いてましたか、」





慌てて自分の頬を拭った。




涙が出ていたことも


気づかなかった。



志藤はそんな彼女を


もう見ていられなかった。





「どう見ても。 泣いてるやんか。」




決して人前で出すことのない


関西弁で。




そう言ったかと思うと、大股で彼女に近づいた。




そして


ゆうこを抱きしめた。




え・・・





まだ


はっきりとしていない頭の中で


その状況を整理しようと思ったが


全くできないほど


驚いた。




「・・なんで。 泣いてることにも気づかへんねん。 そんなに悲しかったんか、」




優しい声だった。




心に


すうっと染み込んでいくほど




ゆうこはぎゅっと目をつぶると


頬に涙が伝わった。


堰を切ったように


涙がこぼれる。




彼女に泣かれると


もう


胸の中がぐちゃぐちゃになりそうになるほど


切なくて、痛い。




いつからそう思うようになったのか


わからないけれど。





「もう・・泣くな。」




志藤はそっと彼女から身体を離し


吸い込まれるように




その涙の彼女にキスをした。


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