第125話 運命(3)

現在の真尋は。

事業部をやめるという志藤にまだ抗議中です・・






「・・て、言ったよな!??」



真尋はいっそう怖い顔になって、志藤に迫った。



13年前のあの日のことを


もちろん志藤もはっきりと覚えていた。



「言ったけど。 でも。 おまえはもう超一流になったんちゃうんか?」



志藤はため息混じりにそう言った。



「はあ?」



「おれはおまえが超一流になるまでプロデュースしていくって言うたはずや。 それはもう・・達成できたんちゃうんか?」



鋭い瞳で彼を見る。



「おれが? 超一流??」



真尋は全くそんなことは微塵も思っていなかった。




「欧米の超一流オケからも名指しで仕事が入る。 ギャラだって世界のピアニストたちにも引けをとらないくらい貰っていると思う。 日本だったらもう、おまえの名前を出すだけで、ホールが満員になる。 それが一流やなくて、なにが一流やねん。 おまえは有名コンクールでの実績がないってだけで、そんなもん、もうとっくに飛び越えてるやん、」



そしてふっと笑った。



真尋は一瞬黙ってしまったが。



「そっ・・」



頭の天辺から声を発した。



「は?」



「そっ・・そんなことないぞっ!!」



真尋の顔を見て、志藤はぶっと吹き出してしまった。



「な、なんだよっ!!」



「ほんまにもう。 どこまで子供やねん。 駄々こねてるだけやん、」


とからかわれて、真尋はさらに頭に血が上り、



「おれは! 絶対にヤダかんな! 志藤さんがここを離れるなら、・・おれはホクトを辞める!!」




ものすごい


勢いだった。





「は・・。」



志藤は真顔になった。



「志藤さんがいなくなるなら、おれはフリーになるっ!!」



「何言ってんだ・・」



志藤は呆然とした。



「斯波っちがどーとかじゃなくて。 おれは・・志藤さんがここを離れるなら、もうホクトにいる意味がない、」



「真尋・・」



「だって。 どんだけ二人で頑張ってきたと思ってんだ。 ほんっともう、志藤さんのことが憎たらしくて、何度殴ったろーかって思ったかだし! 志藤さんだっておれのことそう思ったりしてたと思うけど。  だけど、そーやって、おれのことここまで引っ張り上げてくれたじゃん! おれは志藤さんじゃなかったら・・ただのピアノバーのピアニストで終わってたよ、」



一気にしゅんとなって言われて、心がちくんと痛んだ。


「まあ。 いつかはおまえもひとり立ちしても仕方ないと思うけど。 でも、心配だから。 おれたちの目の届くところにいてくれ。」



志藤はふと微笑んだ。




「おれは。 絶対にヤだかんな!」


真尋はそう言って、立ち上がり部屋を出て行ってしまった。



「ちょっと。 大丈夫? おっきい声で・・」


その後、南が顔を出す。


「ほんまにもう。 あいつは変わってへんと言うか。 子供のまんま大人になって。」


志藤は笑った。



「志藤ちゃんがここ離れることやろ?」



「ん。 まあ・・。 でも、真尋にもわかってもらわないと。」



志藤はコーヒーに口をつけた。



*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆



「え? 真尋くんに頼むことにしたの?」



打ち合わせにやって来た真理子は目を輝かせた。



「ええ。 もう彼しかいないと思いました。」


志藤は自信たっぷりに言う。



「北都社長の次男でしょう? ちょっと・・あからさまじゃない?」


音楽プロデューサーの藤堂は少し顔をしかめた。



「いえ。 社長の息子であることは全く関係なく、彼にお願いしたいと思いました。 楽曲はショパンのピアノ協奏曲第1番。」



「真尋くんにぴったりね。」


真理子は微笑む。



「そんなに・・すごい人なんですか?」


玉田もなんだか信じられない。



「彼も戸惑っていましたが、OKは取れました。」




というか。


もう押して押して押しまくって、真尋に何も言わせないくらい熱弁を振るって、最後に頷かせてしまった。



笑っていた真理子だったが、



「でも。 大変よ。 これからが。」



と言った。



「え?」



「あなたもわかっているでしょうけど。 彼は『決して』うまいピアニストではないわ。」



ニヤリと笑う。



「それは・・」



もちろん志藤にもわかっていた。

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