第83話 謎の男(3)

社長の長男は


東大に行くほどの秀才で



大学に入った頃から、見習い修行のように会社で仕事をしていると


聞いた事がある。



大阪へは


来たことはないが



3年くらい前に


とある


ジーンズメーカーの専属モデルになったほど


イケメンってことも。




頭が良くて


顔もいい




北都社長の長男として


何不自由なく


育って




いつかは


社長の跡を継いで


あの


北都グループを背負って立つんだろう。



まだ


若造やん。




なに


ぽっと思いついたこと


言ってんねん。



なんで


そんな思いつきが


あっという間に


叶うねん。




志藤は


気がつけば


まだ見ぬ真太郎への


強烈な


嫉妬心で


胸の中がいっぱいになっている。





ある日のこと


志藤は支社長室で仕事をしていると


ドアがいきなり開く。



「さっき、企画から連絡入って、この前の・・」


席を外していた支社長が戻ってきたと思い、顔も上げずに話し始めるが



「今日は、いたな。」



その声にハッとして顔を上げる。



北都が笑顔を浮かべながら立っていた。



「しゃ・・社長、」



慌てて立ち上がる。



「おれが行くというと必ず外出しているし。 支社長に言ってもムダみたいだし。 今日はアポなしでやってきた。」



そして


真っ直ぐに志藤を見た。




「なかなかいい返事がもらえないから、」


そう言う彼に



「ですから。 お断りしたはずですが。」


志藤は動揺していた。



自分のために


この忙しい人が時間を割いて大阪にまで?



「北都フィルのお披露目公演は来年の3月末。 今建設中の新しいホールのこけらおとしに併せる。」



「勝手なことを言わないで下さい。 ぼくには関係ありません、」


「このプロジェクトがなくても、 おまえをいつか東京へ呼ぶつもりだった、」


「え・・」


少し驚いて小さな声をあげてしまった。



「ずっと。 そう思っていた。」


北都はふと微笑んだ。



ずっと・・・?


志藤はぼんやりと彼を見つめてしまった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る