第81話 謎の男(1)

さてさて現在の志藤家です。 ゆうこは何か怒っているようですが・・





「あ~~~。 なんっかめっちゃ疲れた~。」



志藤は10時ごろ帰宅して、ドカっとリビングのソファに腰掛けた。



ゆうこは探るような目で彼を見ている。



「何か前の日飲みすぎると翌日1日疲れがとれへんようになったなあ。 認めたくないけど、それが40かなァ、」


と、ため息をついた。



「・・あの、」


ゆうこが彼におそるおそる話しかけた。



「ん?」



「・・あたしに、なんか言うこととかないですか?」



「あ? なにそのクイズ。」


いつものように軽く答えた。



「何もないんですか?」


彼ににじり寄る。



「言うこと?」



真剣に考え込んでしまった。





って


どこまでとぼけてるのかしら!


あんな大事なこと!



ゆうこはだんだんと腹立たしくなってきた。



「なんかあったっけ?」



逆に言われて、ゆうこはブチ切れた。



「もう!」



思わずバンっとテーブルに両手をついてしまった。



「なっ、なに?」


いきなりの様子に思わずのけぞった。



「なんで事業部を辞めること、あたしにひとことも言わないんですか!?」



ゆうこは怖い顔で彼を責めた。



「えっ・・」



ちょっとドキンとした。



「今日、仕事の途中で南さんがウチに寄ったんですけど! ほんっとに、全然知らなかったし! あなたは何も言ってくれないし! たいしたことじゃないんですか??」



ヤバ・・


泣きそう。



志藤はゆうこの顔を見て思った。



感受性が


普通の人間よりも


ハンパない彼女は


とにかく、よく泣く。



何度


目の前で


泣かれたことだろうか。





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春は


すっかり落ち着いて


もう


初夏の陽気になった。



うっかりすると


梅雨に入ってしまいそうなほど


時の流れは速かった。



その季節になると


吐き出したタバコの煙が


重く感じるのは気のせいなのか。



「どないしてん。 ぼうっとしちゃって。 めずらし。」



休憩室の窓からぼんやりと外を見ている男に


美女が話しかけた。



「え? 別に。」


男はこともなさげにそう言った。



「噂。  聞いたけど。」


「噂?」



「あんた、東京へ行くんやってな。」



男は


志藤幸太郎。


29歳。



大阪のホクトエンターテイメントの秘書課に勤務する。


その年で


秘書課のチーフを務め、2年前からは大阪支社長つきの仕事を主にしていた。



「誰から聞いてん、」


彼はコーヒーを口にした。



「噂やん。 女子は早いから。 そーゆーの。 それに。 心配でどーしようもない子もいるみたいよ。」



「紗枝も心配してくれてんの?」


ふっと笑った。



彼女は


「ジョーダン。 あんたがどこへ行こうと。 関係ないし、」


鼻で笑う。



成田紗枝は志藤と同期入社の30歳。


一流大学を出て、企画部でバリバリ仕事をしている。



「心配なんか。 せえへんよな。 おれに。」


志藤はタバコを灰皿に押し付けた。



「社長から言われてんの?」


「ウン。 もう、かれこれ3~4ヶ月前くらいから。」


「社長に言われて承知しないってどーゆーこと? ヤバいんとちゃうのん?」



「普通に。 転勤やって言われたら。 まあ、受けたかもしれへん。」



「え?」



紗枝は少し驚いて彼を見た。

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