第65話 卒業(3)

ああ


大人になったんだなぁ・・




南は真太郎の逞しさに


感慨無量だった。



やっぱり


あたしは


彼のことが


大好きだ。



本当は


別れたくなんかない。





南は彼の背中に手を回した。



「真太郎・・」



「両親も。 賛成してくれてる。 だから、南は何も気にしなくていいんだよ。 もう・・絶対に離したくないから、」




ウソみたい。


こんな幸せなんか


もう絶対に来ないと思った。



ひとりで


大阪に帰って


また


キャバクラにでも勤めようかとか


いろんなことを考えた。



真太郎には


ゆうこがいてくれてる。


そう思って


もう二度と会わないようにしようって。




「返事を・・」



真太郎は南の顔を見てニッコリと笑った。



「え・・」



「プロポーズの・・返事。」



手で彼女の涙を拭ってやった。



「もー・・泣かさんといて。 ほんまにあたしで・・ええのん?」



小さな声でそう言う彼女が本当に愛しくて



「だから。 もうずっと一緒にいよう。」



頬に手を当てた。



「うん、・・うん。」



南は子供のように泣きじゃくってしまった。


そして、今度は自分から彼の首に抱きついた。






ゆうこはぼんやりとしてしまった。



二人の


これからは


もう


決まっているのだろう。



あたしは


自分で彼の背中を押したんだ。




やるせなく


切なく




心が壊れそうな気持ちでも


二人の幸せを


思ったら


やはり


もう、こうするしかないって


思ってた。






南は真太郎と共に


卒業式の会場に向かった。


もう式が始まって30分以上が過ぎてしまった。




「南ちゃん、」


会場で待っていた真太郎の母、ゆかりが慌てて駆け寄った。


南は黙って深々とお辞儀をした。



「よかった。 また、会えたのね、」


ゆかりは南の手をしっかりと握った。



「お母さん、」



「ありがと。 戻ってきてくれて。 真太郎のところに戻ってきてくれて、」



そんなに


温かい言葉をかけられると


やっぱり涙腺が緩む。



「真也さんも待っていたのよ。」



そっと彼女の背中に手をやった。




真太郎はそんな二人の姿を微笑みながら見て




「じゃあ、おれ。 学生席に行くから。 父兄席で見ていて。」


と声をかけてその場を去った。


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