第51話 不穏(1)

そしてお話は本筋に戻ります・・



仕事を休んでいる真太郎の代わりに、オケ立ち上げの件は北都自らそのプロジェクトを動かしていた。



早く中心になる人に来ていただかないと、なのに。



ゆうこはそれが気になりつつも、北都について仕事に忙しかった。





チャイムが鳴って、真太郎は大きな息をひとつついた。


ようやく


卒試が全て修了した。



まあ


仕事をしつつも真面目に単位を取って、卒論も通ったし。


試験もそれなりにできたから。


間違いなく卒業はできるだろう。



安堵感でいっぱいだった。



そんな頃。




北都に1本の電話が入った。


NY支社長の北村からだった。



「・・え?」



いきなり彼の表情が険しくなったので、側にいたゆうこは怪訝な顔をして思わず見てしまった。



「それで? 今はどうしているんだ?」



ただ事ではない


何かが起きているようであった。




この


『事件』から


それぞれの運命が少しずつ動き出す。





電話の後も


北都はじっと何かを考え込むような素振りをして、ゆうこは心配になった。



「あの・・」


気になって声をかけるが、



「ちょっと。 でかけてくる。」


彼は一人で出かけて行った。






「おはようございます、」


と言って真太郎が現れたのは午後3時ごろだった。



「あ、試験終わったんですね。」


ゆうこが笑顔で出迎えた。



「ええ。 やっと。 長かったなァ。」



「あとは卒業を待つだけですね、」



「まあ。 ・・社長は、」


周囲を見回した。



「それが、2時ごろ一人でお出かけになって・・まだ。」



「一人で?」



「ええ。 何もおっしゃらずに。」




珍しいな。




真太郎は少し不思議に思ったが、特に気にせずに


「じゃあ、着替えてきますから。」


とゆうこに言って部屋を出た。




しばらくして北都は何もなかったかのように帰ってきて、仕事を始めた。


ゆうこは何も聞くことはできなかった。



そのくらい


いつもより彼の顔が険しいような気がした。




その晩。


帰宅した真太郎は時計を確かめて、南に電話をした。


しかし


いくら鳴らしても彼女は出ない。




昨日も一昨日も電話をしたが、同じだった。




どうしたんだろうか。





試験が終わったら、少し休みをもらってNYへ行くと言っていて


すごく楽しみにしていたのに。


南と全く連絡が取れなくなってしまった。




今、NYはまだ昼間。


支社のほうに連絡してみようか。




そう思って、手帳で電話番号を調べた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る