第32話 諦めきれず(1)

さて。


現在の真太郎は。


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「なにやってるの?」



南が風呂から上がって髪を拭きながら、部屋に入ってくると


真太郎がクローゼットをゴソゴソと漁っていた。




「この書類が入るくらいの、ブリーフケース、あったなって思って・・」



「もー。 お風呂入ったのに、そんな探しもんして、」


南はため息をついた。



クローゼットの奥のほうにダンボール箱があるのに気づいた。


それを引っ張り出して中を開けてみる。


以前読んでいた本だった。




「これも、違うか・・。」


と、ちょっと中を見て戻そうとした時。



「あ・・」



その中にクラシックコンサートのパンフレットがあった。



「懐かしい・・」



真太郎は思わず手に取った。



「なに?」


南が覗き込む。


少し埃を払って中をペラペラとめくる。



「クラシックコンサートのパンフ?」



「うん。 東京シンフォニックの。」



「ずいぶん古そうやな、」



「もう12~3年前のだもん、」



「事業部ができる前?」




「・・うん。」




そう


まだまだ


事業部の芽も出てなくて



一生懸命に


その芽を出そうと


頑張っていた。



真太郎はあの頃のゆうこの笑顔を思い出していた。



おれは


彼女を傷つけていたのかもしれない。



だけど


まだまだ若くて。


彼女の気持ちの全てを


汲み取ることができなくて。


一緒に仕事をしていくことが


二人にとって一番いいことだって


信じて疑わなかった。




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スカート


ちょっと短かったかな。


座るっていうのに。



ゆうこは服のチョイスを少し後悔した。



並んで歩く自分たちの姿がウインドウのガラスに映ると


普通に


カップルに見える。



なんて


考えるだけで


心がときめいた。




ホールに着くと人がいっぱいだった。


「こっち、」


真太郎はゆうこが人ごみにまぎれないように、自然に彼女の背中に手をやった。



え・・・。



もう


それだけで


体温が急上昇してくるように


体中が沸騰してきた。



入口でパンフレットを売っていたので、真太郎が2冊手に取るとゆうこは横から手を出して、



「これは、あたしが。」



とニッコリ笑ってさっと代金を支払った。



「え、でも、」



「たまには年上っぽいこともさせてください、」



年上・・。




そっか。


あんまり意識したことはなかったけど。


彼女は少しだけ自分よりも先輩だ。



年よりもすごく若く幼く見えるゆうこを


少しだけ


『年上の女性』


として見てしまった。




「ハイ、」




ゆうこは笑顔で1冊を真太郎に手渡した。




「・・ありがとうございます、」




同じ笑顔が


思わずこぼれた。


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