第28話 兄弟(3)

何しに


来たんだろ。



ゆうこは応接室に真尋を通して、コーヒーを淹れて来た。



「どうぞ、」



「あ、サンキュー! いい匂い、」


笑顔でそう言われて。



なんだか


ゆうべと違う人みたい。



それにしても


真太郎さんと社長はお出かけなのに。




「あのっ、」



そのことを彼に伝えようとすると、真尋はいきなり


「白川・・ゆうこっていうの?」



また話があさってのほうから飛んできた。



「は??」



「書いてあるから、」


と、ゆうこがぶる下げていた社員証を指差した。



「は・・はあ・・」



「え? ゆうこって・・ひらがななの?」



「・・そう、ですけど。」



いったい


何を言い出すんだろうか・・




彼の会話についていけない、と思っていると




「え~~! すっげー! 幼稚園児みたい~~!」



いきなり大声で言われた。



「は・・はあ???」



「すっげー、」



真尋はよくわからないが


『すっげー』



連発した。



「え? 誰がつけたの? お父さん?」



「・・両親が。 最初はちゃんと画数もみてもらって、漢字もあったんですけど・・。 柚という字に羽に子供の子で、『柚羽子』だったんですけど。 区役所に届けを出しに行った父が。 漢字を忘れてしまって。 めんどうくさいからひらがなで提出してしまったって・・母が、」



なんでここで自分の名前の由来を説明しないとならないのかわからなかったが、


ゆうこは一生懸命に説明してしまった。



すると



「え~~!! マジ~~? すっげー!!」



真尋はまたも


『すっげー』を


ことさら大きな声で言って、テーブルをバシバシ叩いて笑った。



「おもろいお父さんだね~~! いや~~、いいなァ、」



いったい。


何を喜んでいるんだろーか・・。


この人は。



ゆうこはもう


ぽかんと口が開いてしまった。



とりあえず落ち着いた真尋は


「『ゆうこちゃん』、昨日はごめんね。」


といきなり言い出した。



「は・・」


「別にさあ。 オヤジんとこの秘書に、手え出すとか? めんどーなことおれヤだし。 なんか、必死に頼みに来てるから・・ちょっとからかっちゃおうかなって思って、部屋に誘っただけだし。」



なに・・それ・・。



ゆうこは一気に脱力した。



「それで。 あんまりにもね。 真太郎のことに夢中だから。 イジワルしたくなっちゃって。 あんなこと言っちゃったし。 まさか泣くと思わなかったし、」



体中の血が逆流しそうだった。



ゆうこはカーっと赤面し、



「なっ・・なにを・・言ってるんですかっ!」



動揺丸出しで、真尋に食って掛かった。



「ん。 でも。 あ~~、切ないって思って。 ゆうこちゃんがあんまりかわいかったから。 抱きしめちゃった。 ハグだよ、ハグ!」




あまりにも


軽くあしらわれ。




こっ・・


この人より


4つも年上なんですけど!?




もう


腹が立つやら


恥ずかしいやらで、ゆうこはわなわなと震えた。


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