第22話 才能(3)

こんなことを自分の口から言うのは


おこがましすぎる。



ゆうこはわかっていても


どうしても真太郎を助けてやりたかった。



「真太郎さんが考えるプランの中には・・もう真尋さんのピアノがあるんです。 真尋さんと契約できないと・・それも、」



ゆうこはこんなことを言う自分が恥ずかしく、北都から目を逸らした。



すると



「・・それは・・できないな。」



北都は優しく言った。



「社長、」



「真太郎もそれは望んでいない。 あいつの力で解決したいだろう。 時間がかかったとしても。 あいつも春には社会人になる。 正式にここの社員となる。 そのために必要な試練、だ。」



北都はいつもの厳しい顔ではなく


おっとりとした目でゆうこを見た。



「・・すみません、」


ゆうこは彼の答えはわかっていたので、すぐにその言葉を口に出してしまったことを恥じて、詫びた。



「きみは・・真太郎のために本当によくやってくれているね、」



「え、」



「まあ・・きみも半人前だったけど、真太郎だって学生で。 半人前の二人がここまで懸命にやってきた。 失敗もたくさんあったけどそれは無駄なことではないから。 これからも、よろしく頼む。」




社長からこんな言葉を掛けられて


ゆうこは胸がいっぱいになった。


南の存在を知っても


真太郎への想いは


全く変わることはなかった。




社長は気づいていないだろうが、


『よろしく頼む』


だなんて言われると。



やっぱり真太郎さんの側にいる女性は


自分だって


勘違いをしてしまいそうになる。





「遅くなりそうなんですか? わかりました。 こちらのことはあたしがやっておきますので、」


ゆうこは真太郎から電話を受けた。



今日もまた仕事で遅くなりそうで、真尋の説得には行かれそうもなかった。



ゆうこはひとつため息をつき、決心をしたようにもうひとつ息をついた。





真尋の宿泊するホテルのロビーにやって来た。



「え? 留守、ですか?」



「ええ。 まだお戻りでないようです。 電話にはお出になりませんし・・」


ゆうこは仕方なくロビーで彼が帰ってくるのを待った。




小1時間ほど待った後


真尋が例の怪しすぎるいでたちで戻ってきたので、すぐにわかった。



「真尋さん!」



ゆうこは思わず大きな声をかけた。



「あ?」


真尋はサングラスを取って彼女の姿を確認した。




「え、なに?」


もう、メイワクそうな顔をされた。



「・・お話が。 少しお時間をいただけますか、」



コワモテの彼の顔が


本当に怖くて。


小さな声でそう言った。



「話?」



真尋はもうその内容はわかりきっていたので、ロコツに嫌な顔をした。



そして、うつむく彼女の顔をいきなり身体を屈めて覗き込む。



「なっ・・なんですか??」




焦って後ずさりをした。



真尋はにまーっと笑って、




「んじゃ。 おれの部屋。 来てくれる?」



と言い出した。



「はっ!?」



ゆうこは驚いて目をぱちくりさせた。



「部屋まで来てくれたら・・話聞いてあげる。」


ニヤっと笑うその顔に。





これは・・


行くべき???




ってゆーか。


キケンじゃない?


キケン、そう。


どっ、どうしよう・・。




もう膝が震えてきてしまった。



「あ、ダメ? んじゃあ、さいなら。」


真尋があっさりと行こうとしたので、



「まっ・・待ってください!!」



ゆうこは反射的に大声を出した。


「あ?」




「行きます・・」



ゴクっとツバを飲み込んだ。

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