私を見て。

碧木 蓮

大食い大会

「サキちゃんー」

「がんばれー」

「サキちゃん優勝だー」

「がんばれ、がんばれ、サキちゃーん」


 待ちに待った四年に一度の大会、「全国大食い大会」が始まろうとしている。

 私はこの為にどれだけ努力してきたか、ここにいる人達は知らない。


「サキさん、準備は良いですか?」

「はい」


 控え室にいた私をスタッフさんが呼びに来てくれた。

 いよいよ始まる。

 控え室を出て、ゆっくりとステージに上がる。

 さぁ、私を見なさい。


「うぉー、美しい」

「綺麗ー」

「今年も眩しい」

「美しいサキ様ー」


 皆が私を見てくれる。

 私を美しいと崇めてくれる。

 この声が、今の私になるきっかけをくれた……。


 私は四年に一度生まれ変わる。

 ここにいるすべての皆が、美女と呼んでくれるようになった。

 これが忘れられなくて、何度でもこの大会に出てしまうの。

 しかし、ここまでくるには努力というレベルではなく、死をも見えてしまう忍耐力を必要としていた。


 まずは、イメージトレーニング。

 大会でどんな方法で食べ始めるか、どの順番で消費させていくかのシミュレーション。

 次に、フォーム。

 どんな姿で食べれば美しく見えるか、目の前に姿鏡を置いて練習する。

 これを何度も繰り返し、日々食べる量は徐々に減らしていかなくてはならない。

 それも健康的に減らすのがコツ。

 でも、これが計算通りにはいかない。

 それは、大食いで鍛えた胃袋が空腹を訴え続けるから。

 何度も何度も繰り返される、精神力と忍耐力との戦い。

 おやつを抜き、その代わりにエアーで食べたり、我慢できなくなったら運動して気分を変えたり、色々な方法で試練を乗り越える。

 最後は、美しいプロポーションになる為に、ストレッチや程よいレベルの筋トレにヨガ、そしてウォーキング。

 それと同時に食事も栄養バランスの良いものに変えて、お肌や髪の調子も整えていく。

 これらをこなすことが出来れば、この大会出場へのテンションが上がり、勝算も見えてくる。



 この努力が必要となる原因は、私がとても太りやすい体質だから。


 家族皆、まるで人間が豚に変えられてしまった映画の登場人物のよう。

 家族は気にしていない。

 健康的に楽しく食べられれば、それが一番だと。


 私もそう思っていた。

 最初の大会に出るまでは。


「何あれ、豚が大会に出ていいのか?」

「共食いだろ?」

「おいおい、それ言い過ぎだって」


 この酷い言葉で、私は食欲が失せてしまった。

 勿論、この時の結果は最下位。

 とても悲しく、辛い思い出……。



「では良いですか……始めっ」


 ……今年もあっという間に終わってしまった。

 勿論、私の名前が優勝者として掲示された。


 そしてこの日を境に、私はまた元の姿に戻っていく。


 「リバウンド」という形によって……。


「さっきの女、見た?俺の二倍はあるよな」

「そうか?俺の三倍はあったぞ」

「だな。道の半分は占拠してたもんな」

「あんなのにはなりたくないよな」


「…………」


 そしてまた、私は四年に一度生まれ変わる為に、日々努力し続ける……。

 美しい蝶になる為に。

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私を見て。 碧木 蓮 @ren-aoki

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