03.15 「あら、お赤飯炊かなきゃかしら?」

 元町で“大切な人の幸せを願うっていう”って聞いた時から気になってたブルーダイヤのネックレス。つまり、凜愛姫りあらは僕のことを“大切な人”だと思ってくれてるってことでいいんだよね。店員さんが言ってた『夫婦の絆』とかいう話は知らないんだろうからね。

 でも嬉しくて、凜愛姫りあらにつけてもらってから一度も外してないんだ。


 問題は、僕が凜愛姫りあらにプレゼントしようと思って用意しておいたのと同じって事なんだよね。どうしようかな、誕生日プレゼント。同じ物ってのもな……


 「とおる、何か焦げてない?」

 「うわあ、やっちゃったぁ」

 「どうしたの? 料理失敗するなんて珍しいね」

 「うーん、何かお腹に違和感があってさぁ」


 まさか、誕生日プレゼントどうしようか悩んでるとか言えないしね。

 お腹に違和感があるのも嘘じゃないんだよね。


 「調子悪いなら無理しなくてもいいよ。お昼、私がつくろうか?」


 今は夏休みで、今日は生憎の土砂降りだから自宅で凜愛姫りあらと二人きりだ。僕が作れないということは、そういう事になるわけだ。


 「カップラーメン?」

 「むうう、これでもお母さんに教えてもらって少しは作れるようになったんだから」

 「そうだったね。じゃあ任せていいかな」

 「もちろん!」


 僕が教えてあげる約束してたんだけど、いきなりだと恥ずかしいから少し出来るようになってから、なんだって。

 張り切って調理を始める凜愛姫りあらを背に、なんとなくトイレに向かう。別に下痢してるわけじゃないんだけどな。何なんだろ、これ。


 うそっ……


 「り、凜愛姫りあら……、どう、しよう」

 「どうしたの、とおる


 大声で叫んだつもりはないんだけど、僕の声を聞いて凜愛姫りあらが来てくれた。でも、どうしよう、これって……アレだよね。


 「ねえ、とおる、大丈夫?」

 「……」

 「返事してよっ」

 「……」


 軽度の人は元に戻ったって言うから僕もいつか戻るんだろうなー、なんて軽い気持ちで女子高生を楽しんでたのに。それに、ここ最近の話で、重度の人でも自然治癒する人が現れ始めたって言ってたのに。これって、病状進んじゃってるんじゃない?


 「あけるよ、とおる

 「凜愛姫りあら、血が……血が……。これって……」

 「うん、そうかな……。なんか、ごめん」


 背を向けてそう告げる凜愛姫りあら

 やっぱそうなのか。でも、態々背中向けて言わなくても……、あっ、まあ凜愛姫りあらになら見られてもいいか。元々女の子なんだし。

 鍵は閉めてたんだよ? でも、トイレのドアなんて外から簡単に鍵開けられるもんね。

 そんな些細なことより、僕の体だよ。


 「取り敢えずは、お母さんの借りとこうか」

 「借りる?」

 「そのままトイレに立てこもる気? お昼もここで食べるの?」


 そうか、これで終わりじゃないのか。こんなのが何日か続くんだっけ。うー、気持ちが沈むー。もう元に戻れないのかなぁ、僕。


    ◇◇◇


 「で、ツナマヨなんだ」

 「だって、これはとおるが……」


 そうだね、いろいろあったからしょうがないか。


 そして日没後。


 「あら、お赤飯炊かなきゃかしら?」

 「「ふえ?」」


 帰宅して、凜愛姫りあらから僕の体に起こった変化を聞いた義母かあさんの言葉なんだけど、二人して意味不明の声をあげてしまう。赤飯なんてやだよう。恥ずかしいだけだし、お祝いするようなことでもないんだから。


 「悩んでたってなるようにしかならないでしょ? いいじゃない。凜愛姫りあらだって女の子に戻る気配もないし、今のままでもラブラブなんだから」

 「何いってるの、お母さん。ラブラブなんかじゃ……」

 「そうかしら? でも孫の顔は見てみたいわよね。凜愛姫りあらが産めないならとおるちゃんに産んでもらうしかないじゃないの」

 「そんなことしたら僕死んじゃうんじゃ」

 「あら、実際に出産したことの在る男性なんていないんだから、単なる想像でしょ、男は耐えられないっていうの。それに、無痛分娩だって、帝王切開だって選べるんだから心配しなくても大丈夫よ、とおるちゃん」

 「そうなの?」


 いや、ダメだろ納得しちゃ。


 その夜、酔っ払った父さんが僕の部屋に駆け込んできた。


 「とおる、お前……どうするんだ」


 親の反応としてはこれが正しいと思う。どうするんだと言われても、どうすることもできないんだけどね。


 そんな訳で、腹部の違和感については解決した。いや、まだ違和感は残ってるし、実際には何も解決してないけどどうにもならないから考えないことにしたんだ。

 残るは誕生日プレゼントなんだけど、うーん。

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