03.12 「ありがと。幸せになるね」

 今日は両親の会社の社員旅行。明日はいつものようにディズニーリゾート。そしてとおるの誕生日で、七夕だ。今回も、とおると2人きりがいいので、ランドにしてる。

 七夕デイズの最終日という事で、とおるは浴衣で行きたいんだって。気合いれて下駄まで用意しちゃってさ。もう完全に女の子になっちゃってるんだけど、いいのかな、それで。


 「ねえ凜愛姫りあら、明日の朝なんだけど……」

 「着付けでしょ? やってあげるね」

 「ありがとう」


 でもいいのかなあ。とおるは女の子で私は……

 私も女の子だったのに。何でドキドキするんだろう。


 翌朝、想像してたのよりもっともっとドキドキしながらとおるの着替えを手伝う。


 「ちょっと、とおる

 「不慮の事故を装って抱きついてみたり?」

 「もう」

 「ごめん、怒らないでよ。凜愛姫りあら、いい香りがするんだもん」


 怒ってないけど……、ドキドキしてるの気づかれちゃうじゃない。それに、とおるだって桃みたいな甘い香りがして……、ああ、もう、早く着替えて出かけないと。変な気分になってきちゃう。


    ◇◇◇


 「そんなに大股で歩いたら肌蹴ちゃうよ」

 「あっ、うん。そうだね」

 「とおるって制服でも大股で歩いてるよね。それに歩くの早いし」

 「うーん、なんかね。のんびり歩いてると疲れちゃうんだよね」

 「でも、今日は仕方ないかな。その格好じゃアトラクションも限られちゃうから急いでもね」

 「そっか、ごめんね、凜愛姫りあら

 「いいよ、別に。可愛いとおるちゃんと歩いてるだけでも楽しいし♪」

 「もうー」


 だって、本当のことだもん。


 結局、何度注意しても大股で歩こうとするし、座る時も背もたれにもたれ掛かっちゃうしで、あっという間に着崩れしてしまった。


 「凜愛姫りあらー」

 「だから言ったでしょ? 仕方ないなー」


 とは言え、こんなだらしない格好で、しかも、下着も見えかけちゃってるから直してあげないと。


 「でも、一緒にトイレに行くわけにも行かないし……」

 「脱ぐわけじゃないから此処でいいよ」

 「いや、でも人に見られてると恥ずかしいし」

 「いいから」

 「うん……」


 大丈夫。私も女の子……だった。


 「いやん」

 「ごめんっ」

 「凜愛姫りあらが赤くなった」

 「とおるが変な声だすから」

 「だって、凜愛姫りあらがおっぱい触るんだもん」

 「うぐっ、じゃあ自分で――」

 「なーんてねっ。凜愛姫りあらにだったら触られても大丈夫かな」

 「……もう、じっとしてて」

 「はーい」


 ダメだ。今日は凄くドキドキする。プレゼント渡さなきゃって思ってるからかな。


 「あっ、トイレ行きたい。どうすればいい?」


 はぁ。とおるったら人の気も知らないで。でも、まあとおるらしいかな。洗濯バサミを渡して、注意しなきゃいけないことを教えてあげる。


 とおるとの時間はあっという間に過ぎていき、間もなく花火が上がる時間だ。これが終われば後は帰るだけか。


 「あのね、とおる。今日、誕生日でしょ?」

 「うん。とーっても楽しかったよ。ありがと、凜愛姫りあら

 「私も」


 花火が上がり始める。ここで渡さないと、あとは帰りの電車でって事に。最悪このまま渡せないかも。


 「これ、誕生日プレゼント。気に入ってもらえるといいんだけど」

 「なになに、開けてもいい?」

 「うん。でも大したものじゃないから」

 「凜愛姫りあらに貰ったものなら例え犬の糞でも宝物だよー」

 「いや、そんな物あげないしっ」

 「冗談だってば」


 丁寧に包み紙を開けていくとおる。こういうところも好きだなあー。


 「ネックレスだー、あっ、青いダイヤ……」

 「どうかな」

 「うん、ありがと。幸せになるね」


 とおるも覚えてたみたいだけど、その先は言ってなかったもんね、あの時は。


 『パートナーとの愛情を深め、永遠に変わらない愛を約束……』


 店員さんに言われた言葉を思い出したら顔が熱くなってきちゃった。


 「ねえ、着けて」

 「う、うん」


 なんか緊張するなあ。それに、今日は髪を上げてるから……。とおるの首って、細いんだな。

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