第111話 戦後

「………」


ドンチャン騒ぎも終わりに近付いた頃。俺はベランダに出て外を眺めていた。

俺の宣言があったからなのか、深夜だと言うのに街中は祭りかのように騒がしい。魔道具による光があちこちに見えてとても綺麗だ。


トン……


風が止んだと思ったら、後ろから足音がする。


「……いつの間に、あんな細工をしたんだ?」


「分かるだろう?」


違う未来の俺が時を止めて現れた。


「いつでも出来る…か。これで、見たかった未来を見せられたか?」


「あぁ。」


「これからどうするんだ?」


「俺は自分の世界に戻るさ。ここに居て良い人間では無いからな……ゴホッゴホッ!」


「……」


「本当ならもっと先まで見てみたいが……俺にそんな時間は無さそうだ。」


「……助かった。」


「自分で自分に礼を言うとは…おかしな話だな。」


「自分で自分を助けるのもな。」


「ははは……それじゃあ。行くよ。」


「あぁ。」


時間の流れが戻り、頬に風が当たる。いつの間にか目の前から俺が消えていた。


「真琴様…?どうかされましたか?」


俺がベランダに一人で居るのを見て、凛が不思議そうに声を掛けてくる。


「少し酔い覚ましに風に当たっていただけだよ。」


「……そうですか。」


「…凛は良かったのか?」


「何がでしょうか?」


「俺がこの国の王になる事だよ。色々と思う所があるだろう?」


「確かに、私達を苦しめてきた者達の殆どはこの国の人間です。ですが……それも真琴様が変えて下さるのでしょう?」


「出来るかなんて分からないだろ。また同じ様な事になるかもしれない。」


「出来ないわけがありません。真琴様ですから。」


「はは。その言葉も聞き慣れてきたな。

期待に応える為にも頑張らないとな。」


「…はい!」


その日から、怒涛の毎日が始まる事になった。


国を変えるために毎日走り回り、エルフ、ドワーフ、妖精、悪魔、獣人、龍人、そしてドラゴン。あらゆる種族との同盟を結んだ。

ジゼトルス内部に、ナーラを受け入れ、妖精が住む場所を作り、デリフニーカやイルラーの様な特殊な力を持つ者たちを率先して受け入れる。


自薦、他薦に関わらず王城に訪れる多数の者達を精査し、要職に取り立てていく。

その頭はテスカト。そこだけは変わらなかったが、他は殆ど全て入れ替わった。


貴族位に就く者達からは猛反発があったが、シェア達の自警団と連携出来た事で、殆ど被害も無く鎮圧。今までしてきた行いを悔いる事になっただろう。


「だからこうしてだな…」


「それだとこっちはこうしないとダメだな。」


ここはジゼトルスに新しく設営した工房。

テイキビと連携して新しい技術を生み出し、それを慎重に世に出していく研究機関。そこに入り浸っているギャンボと話をしているところだった。


「こりゃ面白い事になるぞ!ぶっはっは!」


「それよりギャンボ。国には戻らなくて良いのか?この前テイキビ王が嘆いていたぞ。我が国の国宝が盗まれたとか言い出して。」


「俺は根っからの職人だ。こんな面白い所を離れるわけがねぇ!もう家族もこっちに呼んだからな!ぶっはっはっは!」


「いやいや…そんな勝手なこと…」


「真琴様。」


「お!王妃様じゃねぇか!」


「凛。」


「またここにいらしていたのですか?」


「マコトも好き者だからな!ぶっはっは!

ん?今は王様だからマコトはまずいのか?」


「ギャンボは仲間だろ。そんなむず痒い呼び方やめてくれ。」


「そうかそうか!ならマコトだな!」


「それで。どうしたんだ?」


「正式にこの工房でギャンボさんを雇ってはどうでしょうか?今のままではろくに身入りも無いでしょうし。この際…」


「テイキビ王にまた泣きつかれる事になりそうだな…でも、確かにその方が良さそうだ。どちらにしてもここの技術は全世界に流れていくものだ。正式に雇えばテイキビにも流しやすくなる。その話を進めよう。」


「はい。」


「このシンボルマークも見慣れた物になったな!」


「…そうだな。」


MWの文字の入った魔道具。それが今では全世界に流れ出ていっている。


「よし。後のことは頼んだぞ。」


「任せとけ!」


ギャンボと別れ、俺は凛と王城に戻る。


「マコト!また出てたのか?!」


「シェア。」


「私達警備隊の事も少しは考えてくれ!」


「す、すまん…」


シェアは自警団から引き抜き、警備隊隊長として働いてもらっている。自警団は自警団としてしっかりと残してある。自警団の団長はギャレット。上手くやってくれている。

自警団と警備隊は密に連絡を取っており、今ではこの国の武力の二柱となっている。


「マコトを襲うバカはいないと思うが、用心は大切だぞ。」


「はい…」


「お、真琴様。帰ったのか。」


健は親衛隊の隊長。


「ケン!またマコトを放って訓練か?!」


「そう怒るなよシェア…」


「怒るに決まっているだろ!」


これが今の俺の毎日だった。

まだまだ詰められていない事も多いが、概ね順調に進んでいる。

テスカトが大きく貢献してくれた事で、当初予定していた事の殆どが達成されようとしていた。


大きく変わった事はもう一つある。


「マコト様ー!」


「っ?!」


「マコト。王妃様が来たぞ。私は逃げる。」


「真琴様も大変だよなー…じゃあな!」


「待て!裏切り者!」


「真琴様。行きますよ。」


「助けてくれー!」


王様なのに、王妃が一人では締まらないとの事で……後は想像に任せるとする。


因みに、健はフェルと先日正式に結婚した。あの人形の意味をフェル自身が伝えたらしい。あの戦争に行った事でフェルの肝が座ったのだろう。当然両手を上げて祝ってやった。健の恥ずかしそうな顔は絵にして残してある。一生いじり倒す良い材料だ。


この国は徐々に、そして大きく変わっている。今では国の中に奴隷はおらず、多種族が入り乱れている。未だに馴染めない種族も居るが、それも少しずつ変わっていく事だろう。


ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー



もう一つ。ずっと探し続けていた課題の答えを、数年後、やっと見付けることが出来た。


「父上ー!母上ー!」


「そんなに急いで走ると転びますよ、」


黒い髪に黒い瞳。小さな手足を一生懸命動かして走ってくる男の子。

俺と凛の息子だ。


「父上!またあれやって!ビューンって!」


「よーし!行くぞー!」


「あはははは!」


「ふふ。お父様に似てやんちゃですね。」


「俺はそんなにやんちゃだったか?」


「それはもう。」


「そうだったかな…?」


「あははは!父上ー!母上ー!」


弾けるような笑顔を見て幸せを感じる。


「……やっと見付けたな。」


「??」


「これが、俺の探し続けていた幸せの魔法。」


「ふふふ。そうですね。誰にとっても、子供は幸せの魔法ですからね。」


「あぁ。」


「あっ!狡い!私もやって父上!」


「僕もやってよ!」


「父上ー!」


ゾロゾロと現れる子供達。


「ふふふ。今日も一日疲れそうですね?」


「よーし!皆まとめて掛かってこい!」


「あはははは!」


「きゃー!あはは!」


子供達の笑い声が、晴天の空に響いていく。


俺達の世界は、酷く醜い。それでも、確かに輝くものがある。この子供達の笑顔の様に。

これから先何があろうと、俺はそれを守っていく。


幸せの魔法を。

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