第34話 妖精会議
「よっと…」
俺達も腰を屈めて亀裂の中に入る。
「中から見ても凄いなぁ…」
地面にも、大木の内側にもビッシリと生え揃った苔。
「私達は何かあるとここに集まって話し合いをする事にしてるのよ。」
「会議場だな。」
「ちょっと待っててね!」
ヒフニーが羽をフワッと広げると虹色の
折れた大木の先端に辿り着くと、何かを手に取り、それを空に投げる。ボールの様に見えるが、それが空に放り出されるとポフッと弾けて真っ赤な粉を空に放つ。
赤い雲の様に空をふよふよと移動していき、大木の中からでは見えなくなる。会議の合図だろう。俺達のいる所まで降りてきたヒフニーが両手をパンパンと叩きながら着地する。
「これで皆来るからゆっくり待ってて!」
「皆…」
「こらこら抑えなさい。」
ヒフニーと共に大木の中に座って待っていると、大木の上部からヒフニーと同じくらいの大きさの女の子と男の子が降りてくる。
「ヒフニー!どうしたの?」
女の子は皆色違いのワンピースで男の子はズボンとノースリーブの服だ。
ヒフニーに声を掛けているのは肩まである白い髪に可愛らしい花の髪飾りを付けている女の子。
「ひ、人がいる…?!」
その後ろに隠れる様に立っているのは長い青髪の女の子。少し臆病な性格らしいが、物珍しそうな目を見る限り好奇心は旺盛らしい。
「そんな驚く様なもんか?俺は見飽きてるけどな!」
「あんたいつもビビってるじゃない。」
「ビ、ビビってねぇし!」
ヒフニーに突っ込まれて焦っているのは短い緑髪の男の子。お調子者って感じだな。
「僕もウッカーは…」
「な、なんだよ!?ジェミーまでそんな事言うのか?!」
「ジェミーに怒っても仕方ないでしょ?」
オドオドしながらも言う事はハッキリ言うタイプのジェミーは少し長めの茶髪。
「………」
そして最後の一人は胸まである黒髪を真ん中で分けた女の子。無口なのか一言も喋っていないし、後ろで軽く俯いているだけ。臆病で繊細な性格と言っていたし、多分俺達が怖いのだろう。
「まずは自己紹介からね!私はもう済ませたから…」
「私は光の妖精プラトンの代表!プラティー!よろしくね!」
「私は…水の妖精ハイド…の代表…ハイターです。」
「俺は木の妖精の代表!ウッカー!よろしくな!」
「僕は土の妖精ジェマの代表、ジェミーです。よ、よろしくお願いします。」
「……」
「ほら!ベイカー!あんたの番よ!」
「ベイク代表……ベイカー…」
「……あんたねぇ…」
「良いんですよ。気にしなくて。大丈夫ですから。」
「まぁあんた達がそう言うなら良いけど…」
「それで?ヒフニー。」
「うん。私達を捕まえようとする奴らの事を何とか出来ないかってこの人達と話してたの。」
「何とかって…私達で沢山話し合ったのに?」
「プラティーだってこのままじゃダメだって事くらい分かってるでしょ?」
「それはそうだけど…外の人に頼むなんて…」
「フィルリアが認めた人達なんだし、この際なんだから四の五の言ってられないでしょ?」
「……そうね。確かにヒフニーの言う通りだわ。このままじゃ皆捕まってしまうわ。」
「プラティー?良いの?」
「このまま放置してたら私達皆捕まってしまうわ。何もしないでただ捕まるのを待つだけなんて私は嫌。」
「良いねぇ!俺好みだぜ!」
「ウッカーは強くもないのに調子に乗るからなぁ。」
「うるせぇ!俺だってやる時はやるんだ!」
「はいはい。」
「話はまとまったかな?」
「えぇ。改めてお願いするわ。私達を助けて。」
「もちろんです!当然です!可愛いです!」
「ずっと喋るの堪えてたもんな。言いたかったんだな。」
「凛は置いておいて、その依頼引き受けよう。」
「ありがとうございます!」
「それで早速なんだが、その捕まえようとしてくる奴らに共通点とかが無いか知りたくてな。」
「共通点かぁ…狙われるのはあの子達だからあの子達に聞いたら?」
後ろを指差すヒフニー。指の直線上。つまり俺達の背後に目をやると…
「うわっ?!なんだっ?!」
毛玉達がワッサワッサと詰め寄せ、それが一つの塊になって、まるでそんな生き物かの様になっている。
「モコモコー!!」
「凛。落ち着け。ここに来てから凛はどうかしてしまったな。」
「駄目だな。最早手遅れだ。」
「そうか…残念だが…ってんな事やってる場合じゃないの!ほら!凛も埋まってないで話をするぞ!」
なんとか凛を正気に戻して、話を聞く為に座って落ち着かせる。
「取り乱しました。申し訳ございません。」
「ここに来てから取り乱しっぱなしだがな。」
「こほん…」
「それじゃ話を始めるぞ。取り敢えずどんな奴に追われたかを細かく教えてくれ。」
「僕から話す!」
「僕だよ僕ー!」
「私だよー!」
「はいはい!順番順番!一気に聞いても分からないでしょ!並んで並んで!」
「「「はーい!」」」
幼稚園みたいだな。ヒフニー達は保母さんって所か。
「あのねー!こーんなおっきい人だった!」
「ふむふむ。可愛いと。」
「なんの採点してんだよ。」
「凛はもう放っておこう。気にしたら負けだ。」
「それじゃ分からないでしょ?男の人?女の人?」
「男の人ー!」
「どんな男の人だった?」
「うーんとねー。でっかい剣持った人とー。杖持った人!」
「冒険者でしょうか?」
「どうかな。決め付けは良くないからな。」
「種族はどうだった?」
「人種の人達だったよ!」
「他に何か特徴みたいな物とかはあったか?」
「うーん……わかんない!」
「そうか。ありがとう。」
「うん!」
「はい次ー。」
「私はねー!」
と言った感じに続々と集まってくる毛玉達は、それぞれの体験を話してくれた。その数はかなりのもので終わった時には完全に真っ暗。光る鉱石が無ければ何も見えない程に暗い。
「ふぁー…」
「ハイター。眠かったら寝てても良いわよ?」
「ううん。皆の為の会議だからちゃんと起きてる。」
眠そうな目を擦りながらもフラフラしているハイター。ちなみにウッカーは既に爆睡している。
「真琴様!!!」
「どうした凛?!」
「どうしましょう!皆可愛さが最高値で甲乙付けられません!」
「よし。そうか。皆一番で良いんじゃないないか?」
「なるほど!!流石真琴様です!」
もう凛は駄目になってしまったらしい。
「それにしても本当にバラバラだな…特に一致する物が無い。もう少し共通点があると思っていたんだが…」
「何か心当たりでもあるの?」
「心当たりという程でもないんだが、今この世界はある程度の均衡を保ってるだろ?」
「戦争が起きていないって事?」
「そうだ。どこかがどこかを攻撃したとか、戦争が起きたって話は最近じゃ無い。内紛はあったが…二つとも俺達が関与しているという悲しい事実はあるが…」
「あ!漆黒の悪魔!」
「その名前で呼ぶな…」
「それで?悪魔さん?」
「泣きたくなってくる…まぁいい。
そんな世界で一つの場所に力が集まるとしたらどうなると思う?」
「皆阻止しようとするでしょうね。」
「そうだ。そうするといくら力を手に入れたとしても、自国対世界の構図になる。そんなのどこの国でも御免だろ?」
「そうですね…」
「となると秘密裏にその力を得る…という可能性が高い。だが、ここまで広い範囲で種族もバラバラとなると、どこかの国の関与はあってもそれだけとは考えにくいな。」
「なんでそんな事するの?」
「力を欲してる奴らは沢山いるさ。ただ、国では無いのに、そこまで大規模な行動範囲、人種となると大体決まってくる。」
「ネフリテスですか?」
「もしくは教会、あとは吸血鬼も入るかもしれないな。」
「グラウンドデッドでドラゴンの素材を探していた事ですか?」
「何に使うか分からないが力を手に入れようとしている事は確かだろう。」
「でも吸血鬼なら牙で、教会なら服で分かるんじゃないのか?」
「アニメじゃないんだからそんなに簡単に分かるような服装や特徴は消してるだろ。どちらも普通に溶け込んでいる勢力だからお手の物だと思うぞ。」
「そりゃそうか…」
「どの勢力だと思うのよ?」
「……ネフリテスか教会のどちらかだろうと考えている。」
「吸血鬼は無いの?」
「多分な…吸血鬼は身体能力も高いからサクッと捕まえられる気がするんだ。」
「素早いわよ?あの子達。」
「分かってるよ。でも、健くらいか?」
「反復横跳び!!」
「速っ?!三人に見える!!」
「さ、流石にそこまでは速くないわ。」
「だとしたらもっと捕まっている奴らがいてもおかしくないはずなんだ。だから除外…かな。」
「ネフリテスだとしたら厄介だな…」
「さっきから言ってるネフリテスって何?」
「禁術を研究して使いまくる連中だ。」
「なにその怖い人達…」
「世界中どこにでも潜んでる奴らでな…とにかく禁術を使う為になんでもやる奴らだ。」
「その集団危険すぎないかしら?」
「危険すぎるな。ただ、それだけいるとどうする事も出来無いんだよな。」
「そいつらの可能性もあるって事?」
「禁術ってのはどれも魔力を沢山使うからな。純度の高い魔石があればかなり役に立つ。」
「そんな事の為に私達を?」
「まだネフリテスの仕業と決まったわけじゃないが、あいつらの仕業ならそうなるな。」
「私達をなんだと思ってるの!腹立つ腹立つ腹立つー!」
「よしよし。私の膝の上に…」
「乗らんわ!!」
「プラトンだけで我慢しとけ?」
「はい……」
「どうすればそのネフリテスなのか、教会の連中なのか分かるの?」
「ネフリテスの連中は黒の契約という禁術を使って自分達を強化している奴らが多い。体のどこかに黒い模様が入っているはずだ。」
「黒い模様…」
「どうしたの?プラティー。」
「ある子から聞いた話にそんな模様の入っている人から追われたって聞いたわ。」
「なんでさっき聞いてた時に言ってくれなかったんだ?」
「私達にとって外見の特徴というのはそれ程大切なものじゃないから…」
「なるほどな…確かに皆一緒の姿なんだから外見は重要視しないわな。」
「明日また聞いてみましょう。」
「マコト達に寝る場所教えてあげるわ!」
「頼むよ。」
「着いてきて!」
ヒフニーの後に着いて外に出る。妖精達はキノコの上だったり下だったり、木の根の間だったりと思い思いの場所で眠っているらしい。凛じゃないが、眠っている姿は可愛らしい。
「ここよ!」
「でっかいキノコだなぁ…」
ヒフニーが案内してくれた場所には他と比べても一層大きなキノコが生えている。真っ赤な地色、青い斑点のあるキノコで毒々しい気はするが…
「大きいでしょ!」
「凄いな。全員が下で寝ても全然スペースが余るな。」
「この辺りで一番大きなキノコだもの!フィルリアもここで寝てたわよ!」
「ありがとう。」
「これくらいどうって事無いわ!じゃあ明日ね!」
ヒフニーはそう言って羽を広げるとどこかに飛んで行った。
「なんか凄い場所に来てしまったな。」
「まるで童話の世界だぜ。」
「妖精は皆素直だから可愛い。」
「私は満足です。」
「だろうな。」
「だからこそ、そんな妖精さん達を虐めようとする輩は許せません。」
「解決出来るかは分からないけど、なんとかしてやりたいよな。」
キノコの傘の下で横になりながら妖精達の事を話していると段々と眠くなる。口数が減っていき、意識が遠のく。
ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー・ーー
翌日、早朝からまた大木に集まり詳しい話を聞く。
結論から言えば、捕まえようとしてきた連中はネフリテスの可能性が高い。何人か黒い模様が入っていた事が判明したからだ。
「ネフリテスか…」
「相手が分かったのは良いけど、どうするの?」
「それを今から話し合うんだろ?」
「ウッカー。たまにはまともな事言うのね。」
「たまにじゃねぇ!いつもだ!いつも!」
「相手が分かったのは良いとして…まず、世界の偏りを無くす役割だったか。その役割はそもそも妖精がやる必要があるのか?」
「妖精が、ではなくて、妖精にしか出来ないのよ。」
「この世界で、同じ事を出来る生物は存在しないのです。」
「…それは絶対にやらないといけないのか?」
「はい。」
「僕達が役割を果たせないと、この世界が終わります。」
「終わる?」
「文字通りよ。偏りを世界に作り過ぎてしまうと、濃い部分と薄い部分の差にこの星が耐えられないのよ。」
「なんでそんなこと分かるんだ?」
「昔終わりそうになったからよ。」
「実体験かよ…」
「昔、ずっとずっと昔の事よ。まだこの世界に人種がいなかった時の話。」
「私達妖精は弱い存在だったから、他の種の牙から逃れる為に隠れて過ごしていたの。」
「ある時一人が言った。世界の偏りを無くす役割なんて関係ない。」
「ある時一人が言った。世界の偏りを放置すればいい。」
「そうして私達妖精はその役割を果たさなかった。」
「すると、世界は地を
「天を
「世界は
「私達が生まれる前から伝えられてきたお話です。」
「伝承か…」
「その時は事なきを得たけれど、二度目は無いと言われているの。」
「小さな体で俺達なんかよりよっぽど凄いことをしているんだな。」
「そんなものじゃない。この世界に生きとし生けるもの全てを救ってくれている。」
「確かにシャルの言う通りだな。そうなるとここから出ないって選択肢は無くなる。必然的に相手をどうにかするしか無いって事だな。」
「どうにかするって言っても…」
「ネフリテスは至る所に居るぜ?」
「………根源を叩き潰すしかない…か。」
「根源って…本体を叩くってことか?」
「それしかないだろ?」
「確かに頭を失えばここまで大胆な事は出来なくなるとは思うが…本体が何処にあるか分からないだろ?」
「
「ならどうしようも無い…だろ?」
「どうにかする方法を考えるんだ。それしか道は無いからな。」
「くぁー!頭使うのは苦手だぁー!」
「別に筋肉バカに期待はしていないので大丈夫ですよ。」
「なんかいつもの凛が帰ってきた気がする…でも何か切ない気持ちになるのはなんでだろう…」
「それよりどうするの?」
「ネフリテスの連中に聞けるならそれが一番なんだがな…」
「下手な事を喋らせると頭が吹き飛びますからね。」
「怖っ!なにそれっ?!」
「徹底した奴らだからな。」
「喋らせる必要…無い……」
「ベイカー?」
「私なら…分かる……」
「そうか!いやいや。でもベイカーは怖がりだから無理だよ!」
「どういう事だ?」
「ベイカーには他人の心を読む力があるの。」
「心を読む力?」
「正確には…読めない……感じ取るだけ…」
「簡単な…はい。か、いいえ。で答えられる様な質問ならどちらか答えなくても分かるのよ。」
「そりゃ便利な様で辛い能力だな。」
「え……?」
「だってそうだろ?誰かと話していてもそれが嘘だって分かっちゃう能力なんて。」
「……」
「俺なら疲れるかな……妖精は皆素直だからここに居れば疲れる事は無さそうだけどな。」
「兄ちゃんいい事言うな!」
「ウッカーのくせに偉そうなのよ。ウッカーのくせに。」
「二回も言うなよ!」
「ウッカーのくせに。」
「泣くぞ?!」
「どんな言い返し方よ。」
「………私…」
「なに?ベイカー?」
「私…頑張るから!」
「え?いきなりどうしたの?」
「マコト!私頑張る!」
「え?!俺?!お、おう!
って…怖がりだから無理だとか言われてなかったか?」
「そうよ。ベイカー怖がりだから上手く読めない時もあるでしょ?」
「頑張る!」
「す、凄い気迫ね…初めて見たわ、こんなベイカー…」
「やる気になってくれているのは嬉しいが…本当に大丈夫なのか?無理するくらいなら他の手を考えるぞ?」
「大丈夫!頑張るので!」
「そ、そうか…」
「はい!!」
怖がりで臆病で繊細な性格……だったのでは…?
よく分からないが、ベイカーがやる気になってくれたのは嬉しい限り。突破口が開けそうだ。
「そうと決まればどこかでネフリテスの奴を捕まえてくるしかないよな?」
「それは簡単だろ。妖精達が捕まりそうになった場所に定期的に来ているはずだからな。」
「また捕まえられるかもー!ってか?」
「一度見付けた場所に来ますかね?私達も馬鹿じゃ無いので一度見付かった場所には行きませんよ?」
「それしか手掛かりが無いんだから、何度も足を運ぶのは当然の流れだ。間違いなく来る。」
「そんじゃ近い場所に行ってさっさと捕まえてきますか!」
「プラトン。お願い出来る?」
「まっかせてください!」
凛の腕の中という定位置に着いたプラトンが胸を張る。いや。そんな感じがした。胸どこか分からないし。
直ぐにでも行動を起こすと決め、俺達は一時プラトンと共に妖精の国カシャナを出る。
出る時も来る時と同様に扉を作ってもらい鍵で扉を開く。当然馬車も一緒に出ていく。
出た場所は俺達がプラトンに初めて会った場所。ジゼトルスの東だ。
「ここから更に東に小さな林があって、そこで襲われたって子が居たよ!」
「分かった。モンスターもいるから気を付けて行こう。」
「馬車は置いてきて良かったのですか?」
「これだけの為に持ってくるのも大変だからな。健が担ぐから大丈夫だ。」
「捕まる人に同情しますね。」
「なにそれどういう事?!誰でもいいから俺に同情して?!」
「いつもの感じに戻ってくれて何よりだ。」
「まず俺の心配をして欲しい。心からの思いだよ?」
「よし。行こう。」
「聞いてる?ねぇ?聞いてるの?」
凛が落ち着いてくれて良かった。うん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます