四年に一度の嘘話

星 太一

四年に一度の嘘話

 Q,


 どんな話にも始まりがある。


 うるう年にだって始まりがある。今回はその話をしようかね。


 しこくのとある山の中にね、366人の人が住んでた。その内の一人がこりゃまた絶世の美女!


 てんし、女神、アプロディテ! 彼女を形容する言葉はそれでも足りない位だった。


 うれいを帯びればまた絶品! 悲しむ彼女の涙は泉の雫だった。すると……まあ必然だよね。


 ルームメート達は最終的にこんな結論に辿り着く。


 うみの向こうの孤島に閉じ込めてほんの偶にこちらへ帰してやれば、彼女は憂いっぱなしでは? と。――うん、馬鹿である。


 年に一度はちょいと多すぎ。四年に一度でどうだい?


 はなしはすぐに決まった。


 悲しむ彼女が見たいだけで彼らは彼女に苦痛を与えた。


 しまでひとりぼっち……これは人間には意外と苦痛。


 いく日も経たない内に彼女は孤島をクロールで脱出してしまった。


 話が見えてきたかい?


 ばかみたいだろ。途中でとある漁船に拾われてさ。そこに乗ってた漁師とゴールイン。


 かなしんだのは寧ろ残り365人。彼らは四年に一度とかいう長すぎる期間を設けちまったから美女を失ってしまった。


 りんり感の欠如からなってしまった行為だと、忘れないように彼らは四年に一度、閏年とか言う年を設けて毎年反省してるんだって。


 A,


 日本人はまあ、真面目なんだか馬鹿なんだか。この話は、一体本当かい? ――え? 嘘? ったく、マジかよ。あの感想を言った時間を返せこの野郎。


 本当、キレやすいこったな。いつも通りだ。


 人を馬鹿にするなよ!? なんかそれっぽくて本当にそういう神話とかあるのかと思って聞き入っちまったじゃねえか!


 がはは、フェイクニュース程信じるとか言う論があるけれど、まさしくこれだね。……なあ、そうなんだろ? 君もそういうフェイクニュースとか好きなんだろ。面白いもんね。わはは。


 好き、とかそう言う問題じゃないだろ。だって、本当っぽいし、大きな事案を取り扱ってるし。――一大事って感じで怖いんだよ。……まあ、そういう危機管理能力もお前は欠如してるんだろうけど。


 きみ、本当っぽいって……じゃあ、本当は何っぽいんだよ? 本当の事には全く興味を持たない癖に、そういう神話めいた話にばかり興味を持ちたがる。……ここで扱った閏年だって、本当に必要かどうか分からないのに、あると信じて疑わない。これってフェイクニュースなんじゃないの?


 だめだなぁ! そういう捻くれた考え! 科学的にも言われてるし、実際365日でずっと数えていたらおかしな事になったじゃねえか。


 かりにそうだとして、じゃあ、何でわざんざ閏年を作った? 時間の調整で充分いけそうだがな? 君の言うその少しのズレも加味して時計を一気に変えれば何とかなるはずだ。……太陰暦から太陽暦に変えられたんだから僕らだって出来るはず。


 られつしたところで変わんねえよ? もうそれで決まっちまったんだからし、それは実際問題難しいんだからよ。それに、そういう独特のテーマにそそられる人物だっていっぱいいる。特に日本人はそうだな。――ほら、そこの画面の外にいる人だって、それにそそられて書いた人々だ。どうだ、ほとんど日本人だろ? ってか全員日本人だろ。大体は似通った悲しい話になりがちだが、そういう流れを生み出す源泉となったのがこの「閏年」の制定。他はありえんだろう。……捻くれてみたところでもう変えられないんだよ。



 それじゃあさ……

 ↑なの?


 そりゃあ

 ↑だから。


「……結局はロマン? 単純というか、なんというか」

「まあ、そういうこったな。……それに、書いてりゃ分かるよ。俺らはそういう話しか書けんようになっとる」

「ふーん」


 ま、嘘だけど。

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四年に一度の嘘話 星 太一 @dehim-fake

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