4年目の正直

@ie_kaze

4年に一度と言わず

 卒業式が終わり、クラスメイトの連中が企画したお別れ会も終わり、俺の高校生活は終わりを迎えた気がした。

 いまは家が同じ方向だからとクラスメイトの咲と一緒に帰っている。

「終わっちゃったね」

 彼女がそういうとしみじみとした気分になってくる、高校生活いろんなことがあったなと、つい先日の出来事だったかのように楽しい思い出が蘇ってくる。

 彼女と出会ったのは高校に入ってからで、ずっと同じクラスで、仲のいい友達くらいの感覚だった。

 たまたま隣の席で、そりが良く合って、お互い夢があって、なんだかんだ似た者だってわかって意気投合して。

 学校以外でもよく相談したり、話をしたり、笑いあったり、だけど好きというよりは友情のような、気のいい友達のような、そんな関係だと思っている。

 高校生活が楽しく終わったのは咲のおかげだと思っている、隣の席のやつが他の人間だったら、こうも楽しいことが続くことはなかっただろうと、そう確信もしている。


 俺は県の大学に行く、そこでやりたいことがあるからだ。

 彼女はやりたい仕事の為に専門学校に行く。

 共に同じ県内だが、いままでのように会ったりはできなくなりそうな、そんな微妙な距離。

 進む未来が違う俺たちはこの高校3年で出会い別れていこうとしている。

「今年って、そういやオリンピックらしいよ、勉強大変で忘れてたよ」

 そんな時期だったのか、だけど俺も咲に言われるまで気づきもしなかった。

 毎日勉強勉強、もう暫くは参考書も読みたくないくらい勉強した甲斐もあってか、俺も咲も第一希望の大学に行けた。

 だけどそれが意味していることは、俺たちの4年目はもうないという事でもあった。

 気軽に会うには遠く、だけど少し背伸びをすれば届きそうなもどかしい距離。

 そう思うと心にぽかりと穴が開いたような気がした、ただの女友達だったはずなのに、もう会えなくなるかもと思うだけで、強烈に寂しく感じてしまった。

 今生の別れというわけではない、どこか遠くの海外に行くというわけでもない、だけど今までのようにはいかないかもしれない。

 メールやアプリで連絡も取れる、だけどそれで埋まらない何かが俺の中に居座っていることに、その時になって初めて気づいた。

「大学行ってもさ、たまには遊びに行かない、一年に一回くらいでもいいからさ」

 高校の延長はなく4年目はない、だけどはその一回を咲は提案してきた。

 そう言われて初めて気づいた、その言葉はまさに俺が言いたかった言葉なんだと、だからでこそ咲に言わせてしまった自分が不甲斐ないとさえ思えてきた。

 彼女は俺が諦めようとした、その少し頑張れば詰められる距離を詰めてきたのだ。

「一年に一回なんて言わなくてさ」

 だから負けじと口を開いたのだが、勢いそのままに出てきた言葉は違った、俺が言いたいことはそういう事じゃないのだと思った。

 かぶりを振って、自分の中にある本当の気持ちに整理を付けようとする。

 俺が本当に言いたいことは何なのか、この寂しさはただの友達に向ける感情なのかを。

「ど。どうしたの」

 そんな様子に咲は驚いていた、自分でもらしくないことをしていると思う。

 だけどこのタイミングを逃したら、もう次はないような気がしていた。

「あ、あの」

 勢いよく出た自分の言葉に自分で驚きつつ

「は、はい」

 咲もそんな大声で何かを言おうとする俺に驚き

「付き合ってください」

「は、はい、喜んで」

 辺りを沈黙が包む、人気が無かったのが幸いだったが、辺り構わず大声で告白をしていたことに気付くと、途端に顔が熱くなってきた。

 そして暫く頭の中が真っ白だった。

 返事が来たはずだが、あまりにも即答過ぎて、その返事の内容さえも頭から吹っ飛ぶような衝撃で、冷静になるまで時間がかかった。

「え、いまなんて」

「もう、酷いなあ、お付き合いしますってことだよ」

 今まで、いつも近くに感じた咲に何も思わなかったわけではなかった、だけどその親し気に接する様子が、loveよりlikeに思わせられていた。

 そしてそれがloveだったのだと今気づかされた。

「あれだけアプローチしてたのに、遅すぎるんだっての」

「え、いつから」

 まったく気づかなかった、確かに他の女子よりも距離が近いような気はしていたが、それだけだと思っていた。

「いつからって、最初っからだよ、高校一年の時から、一目ぼれってやつ、だけど今は中身が好き」

 好きという言葉を聞くだけで心の中が満たされていくような気がしていく、ああ、俺は彼女に惚れていたんだなと再確認させられるかのように、その言葉が染みてくる。

「にぶちんすぎるんだよ、こんなに待たせてさ」

「ご、ごめん」

「でも許す、4年目になったら流石にあきらめるべきかもって思ってたけど、最後の最後にちゃんと気づいてくれたから、だから許す」

 満面の笑みを浮かべる咲は、記憶のどの咲よりもかわいく見える。

 そして咲はおもむろに手を取り、俺を引っ張って走り出した。

「まだ大学行くまで時間あるでしょ、だったらそれまでデートしようよ、一年に一回と言わずにさ」

 抱えていた不満が二人とも同じものだったと気づくと、俺は咲とつくづく似たものだったのだなと思った。

 高校は終わったが、俺たちの4年目は、いま始まった。

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