第19話

 玉楼では、お凛と梅の新造だしがあと数日にせまり、着々と準備が進められていた。 

 道中で着る振袖や、縮緬、緞子の反物などが届けられ禿達がはしゃぐ中、お凛は相変わらず沈んだ表情を浮かべている。それは、千歳屋を嫌うお凛の通常通りの姿なので、佐知はあえて目を逸らしていた。だが…


「梅、聞いてるのかい?」

「あ…はい」


 元来、美しい物を見ると嬉しそうに目を輝かせる梅まで、何故か心ここにあらずの状態で、毎日のようにため息をついていることに気づいた佐知は、不審に思いながら梅を注視する。

 



「梅に間夫?」

「笑い事じゃありません!」


 一笑に付そうとする源一郎を咎めるように、佐知は言葉を続ける。


「私も昔経験があるからわかるんですよ。あれは男ができた女の顔です!」

「て言ったって、梅はまだ客をとったこともないんだぞ?どうやったらいきなり間夫ができるってんだ?」

「それは…」


 返答に窮し佐知は考え込んだ。確かに、今の梅が客に接する機会など、紫についての顔見せくらいだ。そこで誰かに一目惚れならあるかもしれないが、いきなり間夫ができたというのは、あまりにも話が飛びすぎにも思える。


「まあいい、梅の気がそぞろなのは確かだ、俺もなるべく気を配るようにしておくよ」


 納得できない気持ちを抱えながらも、源一郎に宥められるように肩を叩かれ、佐知は黙りこくるしかなかった。

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