第4話

 玉楼は、吉原の中でも5本の指に入る大見世だ。格子ごしに見える、美しく着飾った遊女達が所狭しと居並ぶ景色は眩いばかりに艶やかで、通りがかった男達は思わず足を止める。

 だがその裏で、遊女達は女としての価値を残酷なまでに吟味され、客がつかなければ、遊郭での居場所を失っていく。


 見世に金をおとす馴染みの客が、どれだけいるかが遊女の価値を決めると言っても過言ではない吉原で、玉楼には、見世の売り上げの大半を担う遊女が3人いた。


 妖艶で気が強く、どこか危なげな色気を纏う座敷持ちの胡蝶。正統派の美女で、おっとりとした女性らしさが、男の庇護欲を唆る紫。

 そして、知的な美貌と手練手管で上り詰め、今や玉楼を一身で背負う花魁となった佳乃。

 中でも佳乃は、遊女達があまた咲き乱れる玉楼で、番付け一を常に誇る唯一無二の花魁だ。長く見世にいれば、最高位の花魁ですら売り上げが厳しい日もあるものだが、佳乃に限っては、一日たりとも客足が途絶えたことはなかった。


「全く、今日の客は見る目がないね、若いのばかりに群がって、本当の女の魅力ってもんがわかってやしない」

「まあ仕方ないさ、いつ追い出されるかわからないが、私ら年増はまだ玉楼にいれるだけ有り難いってもんよ。ああほら、また佳乃の客だよ、さすが花魁、羨ましい限りだ」

「佳乃は私たちとは格が違うのさ、小さい頃からみっちり仕込まれてきたからね、あの子は玉楼の売れっ子の中でも頭一つ抜けてるよ。それはそうと、あんたさっき見世の前にいた若い男見たかい?」

「ああ、あの、江戸の蘭学者のなんとか先生と前に一度一緒に来た貧乏くさい塾生だろ。金もないのに佳乃に夢中になって毎日見世の前に来てるが、相手になんてされるわけないのに」「あんた馬鹿だね、知らなかったのかい?ありゃ佳乃の間夫だよ」

「え?嘘だろ?」

「本当さ、佳乃の客っていったらそれこそ大物ばかりで、身請けしたいって客もいるのに、なんだかんだうまいこと言って逸らしちまうのは全部あの男のためだってんだからね、健気な話じゃないか」

「それ本当かい?あの佳乃がなんだってまたあんな金のなさそうな男を?」

「それが男と女の神秘ってもんよ。まあ、見世としてもまだまだ佳乃を手放すつもりはないから、今のところ目をつぶってるんだろうね」




「梅、梅!」

「へい」

「へいじゃなくてはいだろ、悪いけど、またあの人のところに文を届けてくれないかい」

「はい」

「いつも悪いね、ほら、これを持っておいき」


 梅は佳乃から渡された菓子と文を持って、見世の前に毎日のようにやってくる男の人の元へと向かう。その人は、えらく男前で物腰柔らかい優しそうな人で、文を渡しに来る梅のことを覚えてくれたらしく、いつもありがとうと梅に声をかけてくれた。

 姉女郎達が、花魁のマフだとか、金にならない客だとか色々言っていたが、梅にはなんのことだかよくわからない。


「お凛ちゃん、佳乃姉さんからお菓子もらったから一緒に食べよう」

「うん!」


 梅がお菓子を手渡すと、お凛は満面の笑顔で受け取り、あっという間に全て平らげる。いまやすっかりいつも通りの二人だが、実はほんの数日前、梅とお凛は初めての大きな喧嘩をしたばかりだった。


 花魁になりたいだなんて、梅ちゃんは何もわかっていないと言われ、梅も負けじと、佳乃姉さんを妖怪だなんてお凛ちゃんの目は節穴だと、お互い言いたい放題言い合ったのだ。 

 いつも仲の良い二人の喧嘩に、他の禿や新造達は、めずらしいことだと面白がったが、気がつけばまた仲良く一緒にお菓子を食べている二人に、子供は単純でいいねなどと嫌味を言う。

 そんな声などお構いなしに、二人はヒソヒソト内緒話をしていた。お凛と梅は、この日とある計画を立てていたのだ。


「それじゃあ、今日こそは寝ずに、夜八つまで起きてようね」

「梅ちゃんほんとうに大丈夫?前もぐっすり眠っちゃって全然起きなかったじゃない」

「大丈夫!今度こそ絶対起きていられるもん」


 玉楼には、開かずの間と言われる部屋がある。昔からその部屋の引き戸にだけ外側から心張り棒が付いており、なぜが誰も開けてそこに入ろうとはしない。

 姉女郎から聞いた噂によると、昔その部屋で、一人の遊女が首をつって自殺し、それ以来夜になると女の幽霊が現れ、あの世に連れて行かれるというのだが、お凛達が興味を持ったのは、座敷持ちの胡蝶から聞いた話しだ。


 胡蝶はお凛と梅がここへ来る前、すぐに捕まり連れ戻されたものの、一度足抜けし吉原の外に出たことがある唯一の遊女だ。

 その話を姉女郎から聞いたお凛は、どこか近寄りがたい雰囲気を持つ胡蝶に、勇気を出して、どうやってここから外へ逃げだしたのか尋ねた。すると胡蝶が、実はあの開かずの間に、吉原の外に出れる秘密の抜け穴があるんだよと、実しやかにお凛に語ったのだ。


 もちろんそんなものあるはずもなく、胡蝶はお凛を揶揄かっただけなのだが、お凛は子どもらしい素直な好奇心からその話に夢中になり、梅に伝え二人で話すうちに、すっかり信じこむようになってしまっていた。


「昼間開けようとしてるの見つかったら、源一郎や佐知に何されるかわからないからね、みんなが寝静まった時しか機会はないよ」

「でももし抜け穴はなくて、幽霊にあの世に連れてかれちゃったらどうしよう」

「大丈夫!その時は私が絶対に梅ちゃんのこと守るから!」

「ほんとうに?ありがとうお凛ちゃん!」


 夜八つ、客が帰った遊女達はやっと床につける時間。梅とお凛は、気づけばスヤスヤと眠りこけ、お凛が目を覚ました時には、もうすでに廓はシンと静まりかえっていた。

 お凛は慌てて起き上がり、隣に寝ている梅を起こしにかかると、梅は今日の約束などすっかり忘れてしまっていたのか「どうしたのお凛ちゃん?」などと言って目をこする。


「梅ちゃん覚えてないの?今日は開かずの間に行って、抜け穴があるかどうか探しに行くって約束したでしょ」

「そうだった!忘れてた!」


 梅が思わず大きな声をあげると、お凛は慌ててしーっと唇に指をあてる。


「しずかに!とりあえず今から行ってみよう」「うん」


 二人は暗がりの中、周りで雑魚寝している姉女郎達を起こさないよう部屋を出ると、開かずの間に向かって、抜き足差し足で走り出した。


「これ、外れるかな?」

「外れるよ、梅ちゃんそこちゃんと持ってて」「うん」


 開かずの間の前にたどり着いたお凛と梅は、力を合わせて注意深く心張り棒を外しにかかる。その作業ができただけで、二人の心は手鞠のように楽しげに弾んだ。


「外れたよ!外れたよ!」

「シー!シー!まだまだこれからだよ、危ないから梅ちゃんは私の背中につかまって」

「うん!うん!」


 お凛は引き戸に手を置き、恐る恐るゆっくりと、開かずの間の扉を開けていく。


「…」

「お凛ちゃん、どう?」


 扉の奥にあったのは、なんの変哲もない、四畳ほどの広さのただの物置だった。蜘蛛の巣のかかった小さな窓からの月明かりで、古びた調度品や、何が入ってるのかよくわからない大きな箱、無造作につまれたボロボロの帳簿などが置いてあるのがわかるが、さして珍しいところはない。期待が大きすぎた分、二人はその光景に落胆した。


「…抜け穴はなさそうだね」

「うん」

「ちょっと探してみる?」

(あ…)


 が、その時、突然部屋から女の声が聞こえたような気がして、二人は急にもう一つの噂を思い出し、一目散にその場から逃げ去る。


「はあ、はあ、梅ちゃんさっきさ、声聞こえた?」

「き、聞こえたけど、気のせいだよきっと」


 なんとか大声を出さずに開かずの間から離れることができた二人は、もう今日は部屋に帰っておとなしく寝ようと話し合ったが、お凛はふと大変なことに気がついた。


「どうしよう、引き戸開けっぱなしで来ちゃった」


 この玉楼で開かずの間を開けてしまうような人間と言ったら、真っ先にお凛と梅が疑われるだろう。


「どうしよう、私たちだってわかったら、佐知さんに折檻されるかな…」


 梅の不安げな声に、お凛は自分が折檻されるだけならまだしも、梅まで自分のせいで折檻されるのは耐えられない。最初に開かずの間に入ってみようと梅を誘ったのは、他ならぬお凛なのだ。


「梅ちゃん、先に部屋に帰ってて、私もう一度戻ってちゃんとしめてくる」


 だが、梅はお凛の言葉に首を振る。


「いやだ、お凛ちゃん戻るなら私も一緒に行くよ」

「でも…」

「いいから、早くいこう!」


 梅は時々、お凛もビックリするような度胸を見せることがある。二人はしっかりと手を繋ぎ、再び暗闇の中、開かずの間へと向かった。

 行きは、抜け穴を見つけるという冒険心が勝り気づかなかったが、夜見世の喧騒が嘘のように静まり返った郭はなんともいえず不気味で、二人の心は今更のように恐怖でいっぱいになる。 


「…お凛ちゃん、私思ったんだけど、幽霊の話が本当だとしたら、私達が開けたことで外出てきちゃってたりしないかな」

「そ、そんなことないよ、きっと大丈夫」


 なんとか開かずの間の前にたどり着いた二人が、襖を閉めて心張り棒を元に戻そうとしたその時、小さくはあるが再び声と物音が聞こえた。しかし二人はそれが開かずの間からではなく、真上の部屋からであることに気づく。


「もしかして泥棒?」


 梅とお凛は顔を見合わせ、怖れよりも好奇心に駆られた二人は、なるべく足音がしないように2階に上がり、物音が聞こえた場所へと近づいていく。辿り着いたのは花魁佳乃の座敷だった。


「お前が他の男の相手をしているのを、ただこうして黙って見ていることしかできない自分が情けない」  


 襖の奥からする聞き覚えのある声。梅はそれが、いつも佳乃からの文を渡しに行く男の人の声だとわかった。


「馬鹿なことを言わないでください。何人の客がいようとも、まことの心はあなただけ…」


 男に応える佳乃の声は、梅やお凛がいつも聞く声とは違って聞こえた。二人はそっと襖を開けて中の様子を伺う。

 そこには、着物の肌けた佳乃と男が、もつれるように激しく抱き合う姿があった。男は佳乃の上に覆いかぶさりながら、佳乃の首や胸に口付けをし、そのたびに佳乃は身体を震わせ切なげに声をあげている。 

 梅とお凛は思わず目が釘付けになったが、男と佳乃は、お互いのことに夢中で、二人が覗いていることに気づきもしない。


 梅とお凛が、しばらく無言でただただその様子に見入っていたその時、男の下半身が行灯の灯りに照らされ露わになり、二人は同時に息を呑む。梅もお凛も、父親のものを見た時はあったが、天に向かっていきり立つ男のまらをしかと見たのは、この時が生まれて初めてだったのだ。幼い二人に、それはまるで、何か別の奇妙な生き物のように見えたが、二人はさらに信じられない光景を目にする。

 その別の生き物のような男のまらが、そのままゆっくり飲み込まれるように、佳乃の尻の中へ入っていったのだ。それを見た瞬間、梅とお凛は、二人同時に大声で叫んでいた。


「イヤーーーーーーーーーーーーーーーーー」





「おめーら、あそこで何をやってたんだ?」


 二人の叫び声に、いち早く駆けつけた源一郎が見たものは、佳乃の座敷の前で固まっている、梅とお凛の姿だった。泥棒でも出たのかと源一郎が中を覗きこむと、そこには佳乃と間夫の柿崎がおり、源一郎はすぐに状況を察する。


「何があったんだい」と起きてくるお吉や見世の者達に適当な理由をつけ、騒ぎになりそうな状態をなんとか収めると、戸惑う柿崎を帰し、佳乃の部屋で、お凛と梅に対する源一郎の厳しい尋問が始まる。いつもは温厚な佳乃も、今回ばかりは本当に腹が立ったらしく、お凛と梅を見ようともしない。


「開かずの間が開いてたが、あれもおまえらの仕業だよな!二人でコソコソと一体何やってたんだって聞いてんだよ!」


 源一郎の剣幕に、梅はとうとう下を向いて泣き出したが、お凛は黙りこんだまま何も言おうとしない。


「おめーらが覗きしてたのはハッキリわかってるんだよ、花魁の部屋覗くなんていやらしい真似しやがって! 覗くだけならまだしも、大声で叫ぶってのは一体どうゆう了見なんだ!」


 すると、さっきまで何も言おうとしなかったお凛が、源一郎を睨みながら反論する。


「いやらしいのはどっちだよ!男のあんなもん入れられて平気な顔してるんだから、花魁ってのはやっぱり化け物だったんだ」

「はあ?」


 源一郎は一瞬、お凛が何を言っているのか分からなかったが、しばし考え二人がなぜ叫んだのか納得する。お凛も梅も、ここは男女が乳繰り合うところだということは、なんとなく理解しているようだが、具体的にどういう行為をするのかまでは、まだはっきりとわかっていない。おそらく、佳乃と柿崎の逢引を見て初めて知り、衝撃を受けたのだろう。確かに、大人になってしまえばどうってことないが、まだ子どものお凛達には信じられない光景だったのかもしれない。


「あのなあ、お凛…」


 源一郎がお凛に向かって諭そうとすると、ただただ泣いていた梅が、突然口をはさんでくる。


「違うよお凛ちゃん、花魁は化け物じゃないよ」

「梅ちゃんてなんでいつもそうやって佳乃の味方するの?」

「ちがうの、そうゆんじゃないの、おいらの父ちゃんと母ちゃんもああゆうことしてたの」


 梅の言葉に、お凛はびっくりしたように「エ-ッ」と叫ぶ。


「だって梅ちゃんも、あの時いやーって叫んでたじゃない」

「私も、あんなに全部はっきり見たのは初めてだったんだよ。いつも向こうにいってなさいって言われてたから、ちゃんと見たことはなかったんだ。でも、確かに佳乃姉さん達がしてたような事してたし、母ちゃんも苦しそうに声出したりしてた。父ちゃんが病気になってからは、そうゆうことしてるの見なくなったけど…」

「フフ…」


 と、先ほどまで一言も言葉を発しようとしなかった佳乃が、突然口元を抑えて笑い始めた。


「花魁、どうかしたんですか?」


 源一郎は、突然笑い出した佳乃に、気でもふれてしまったのかと恐る恐る尋ねる。


「ごめんなさい、なんか腹を立ててるのがあほらしくなってしまって」


 佳乃はお凛と梅の方へ近づき、二人の目線に合わせてスッと屈むと、真剣な表情で二人の顔を覗き込む。


「まったく、お前達は本当に馬鹿な子達だね。お凛、おまえは、あんなことをする私は化け物だと言ったが、今梅が言った通り、好きあった者同士なら誰でもすることなんだよ」

「じゃあ花魁は好きな者が沢山いるってことなのか?あっちは他の男が来た時も、花魁がああゆう声をあげてるの聞いたことあるんだ」


 お凛の言葉に、佳乃は顔色を変えると突然お凛の頬をひっぱたいた。源一郎も梅も、禿や新造達に手をあげることなど今までに一度もなかった佳乃が初めてお凛をひっぱたいたことに驚愕し、息を飲んで二人の様子を見つめる。


「なめた口叩くんじゃないよ!遊女ってのはね、金をもらって男を楽しませるのが仕事なんだ、高い金払ってくれる客にはそれ相応の奉仕はするさ。だけどね、あの人と寝る時は一銭だって金をとったことはないよ!あの人といる時だけ、私は遊女じゃない、ただの女になれるんだ」


 引っ叩かれた頬を抑え、呆然と佳乃を見上げるお凛に言い聞かせるように、佳乃は言葉を続ける。


「お凛、おまえは花魁になどなりたくないと言っていたが、ここへ売られた以上、遊女になるしか道はない。だが、花魁てのは、なろうと思ってそう簡単になれるものじゃないんだ。私には沢山の客がいるが、私が今、おまえの言うあんなことを本気でする相手はあの人だけだ。それでも客達は高い金を出して私に会いにやってくる、なぜかわかるか?」


 首を振るお凛に、佳乃は強い口調で告げた。


「私がただの遊女ではなく、花魁だからだよ。いいかい?もしあんたが、沢山の男とあんなことをするのが嫌だってんなら、滅多にせずとも男が会いにきたくなるような花魁になってみな。それから、おまえが今着ている着物も、食事も、何もかも全部、おまえが馬鹿にしている花魁や遊女達の稼ぎで得ることができるんだってことを忘れるんじゃないよ」


 佳乃の言葉には、三人を圧倒するだけの力があり、源一郎と梅はもちろん、あんなに反抗していたお凛でさえも、佳乃の迫力に、何も言い返すことはできなかった。




「源一郎、彼を逃がしてくれてありがとうね」


 しゅんと落ち込むお凛と梅を部屋に帰した後、源一郎は佳乃に少し話がしたいと言われ、二人はしばらく談笑をしていた。見世のこと、客のこと、柿崎のこと、そして話題は自然と、いつもなにかしらやらかす二人の禿のことになる。


「女将さんは、お凛を夕霧姉さんのような花魁にするといきまいているが、私は難しいと思ってる」

「どうしてですか?確かにあいつは気が強くはねっかえりだが、花魁になるにはあれぐらいの気概があってもいいと思うんですがね」


 源一郎が不思議そうに聞くと、佳乃は目を伏せて源一郎の問いに答える。


「確かに、器量は申し分ないし、芯もしっかりしてる。でも、純粋すぎる」

「え?」

「もし本気で好きな男ができたら、あの子は他の客の相手なんかできなくなるくらい溺れると思うよ。梅に対する態度を見ててもそうだが、あの子は気に入らない相手にはずっと警戒心まるだしで中々心を開こうとしないのに、一度心を許したら、自分より相手を一生懸命大切に守ろうとするでしょう。

あの子には、他の客に気を持たせながら一人の男だけを思うなんて器用なこと、多分できない。ここはあの子にとって生きにくい場所なんだよ。だからどんなに折檻されても、本能的に逃げることを止められなかったんだろうね…」


 佳乃がめずらしく饒舌にお凛のことを語るのを聞いて、源一郎は意外に思いながら佳乃を見やる。そんな源一郎の訝しげな目線に気がついたのか、佳乃は少しきまり悪そうに微笑み、源一郎を見つめて言った。


「まあそうは言っても、お凛もそのうち、器用に生きる術を身につけるかもしれないしね。お凛と梅の関係も、ずっとあのままではいられないだろう…悲しいことだがね…」


 佳乃の言葉は、その笑顔とはうらはらに、ひどく感傷的なものに聞こえ、源一郎はただ、神妙な顔をして頷くことしかできなかった。


 

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