四年に一度

もえすとろ

平凡で特別な一日


今日は二月二十九日



僕こと、二月二十九日は

四年に一度だけ現れる、幻の様な存在だ


僕の事をある人はと言い

また他の人はだとも言う


そんな僕がこうして体を動かせるのは今日だけ

今日が終われば、僕はまた霞の様に掻き消えて人々の記憶から薄れていく


そして、また四年後に思い出すんだ

ああ、そういえば今年は閏年だったな

二月は二十九日まであるな


ってね


そんな僕を意識してるのは、同じ二月の二十八日君ともう一人


「やっと見つけたわよ!!二十九日!!」

この子、三月一日さんだ


「やあ、久しぶりだね」

四年ぶりの再会だ


「何呑気にしてんのよ!ほら!行くわよ!!」

毎回毎回、僕を遊びに誘ってくれるんだけど


「僕なんかと遊んでていいの?君は明日の為の準備とかあるでしょ?」

普通は、自身が翌日となるとギリギリまで入念に準備するものだって聞いたけど

もし、何か失敗したら次の日が遅れてしまうし

そしたら、皆が混乱してしまうからね


「そんなのもう終わってるわ!!」

終わってるんだ、凄いなぁ


「確認とかした?」

念には念を入れておかないと、いけないよ?


「勿論!」

へぇ、成長したね


「確認の確認は?」

ダブルチェックって大事だよ?


「したわ!だから早く行きましょ!!」

ダブルクリックも済ませてあるんだ


「そっか、なら……確認の確認の確認は?」

何度でもチェックは必要だよ?


「そ、そこまでしなくても平気よ⁉」

そうかな?


「もし、僕に構ってるせいで明日が混乱したらイヤだなぁ」

僕と遊ぶために、三月の始まりが混乱するなんて

あってはならない事だよ


「大丈夫よ!それとも、私と遊ぶのがそんなにイヤなの?」

別にイヤってわけじゃないんだけどさ


「そんな事はないよ。でも、心配なんだ。明日がちゃんと来るのかって」

僕にとっては四年ぶりなんだから

明日や、昨日って気分を味わう事ができるのはさ


「何の問題もないわ!この私がミスするわけないじゃない!」

それは、ミスしないようになってから言ってほしいな


「四年前は準備し忘れた事があって、大変だったじゃないか。僕が手伝ってギリギリ間に合ったけどさ」

もし間に合わなかったら大混乱だよ?


「ゔ……大丈夫よ!今年はちゃんと確認したし!ほら、時間がもったいないわ!行きましょ!」

僕の手を握って歩き出す君は、どこの向かってるのかも言わずただ目を輝かせて突き進む


「それで、今年はどこに行くのかな?」


「そうね……クイズです!」

クイズ?


「まどろっこしいなぁ」

四年前までの君とはまるで別人みたいだ


「そんな事言うなら教えてあげなーい!」

クスッ……ちょっと四年前に戻ったみたい


「なら、到着してからの楽しみにするよ」


「そう。なら、走るよ!」

急に走り出す君の歩幅は、随分と広くなったね


「ちょっと待って!そんな速くは走れないよ!」

もう、君は大人っぽい見た目だけど

僕はまだまだ子供と変わらないんだから


「あ、ごめん」

そう言って走るのをやめてくれはしたけど、なんで手は握ったままなのかな?


「そんなに急がないと間に合わない場所まで行くの?」

それなら諦めた方がいいよ

僕の足じゃ、きっとたどり着けないから


「そんな遠くじゃないの。でも、少しでも早く着きたくて」

そっか


「なら、僕はできるだけ頑張って走るからさ。君は僕の横を走って案内してよ」

それなら少しくらいは早く着くんじゃないかな?


「大丈夫?」


「そこまでひ弱じゃないから大丈夫だよ。それに、君が僕をそんなに連れて行きたい場所ってのも興味があるんだ」

きっと、そこはイイ所なんだろうから

前回も、そのまた前回も、ずっとずっと前から

君は僕を喜ばせようと色々してくれたから


「わかったわ。それじゃ行きましょ」

うん。行こう



それからバテない程度の緩いランニングで目的地へ向かって走り出した




僕の息があがってきた頃


「もうすぐだよ!」

嬉しそうに笑いながら、そう言った君は汗を一筋流していた


「はぁはぁ、そっか……それは良かった……」

まだまだ遠いなら、タクシー呼ぶところだったよ


「ここからは歩いて行こっか」


「そう、だね」

ほんと、羨ましいよ……君みたいに体力があればなぁ


「見えてきたよ!」

君が嬉々として指さしたのは、山の頂上まで続く石階段


「えっと……?」

もしかして、コレ登るの?


「ここの頂上にね、願いが叶うって噂の神社があるの!」

神社があるのは、見れば分かるけど


「なんで神社?」

前回はテーマパークだったし、その前はゲームセンターだったし

その時その時、流行りの場所に連れてってくれてたのに

神社が流行ってるの?


「えっと……君、人込みとか苦手そうだし。それならいっそのこと人の少ない場所はどうかなって」

まぁ、人込みは苦手だけどさ


「大丈夫!もし登り切れそうにないなら、私が背負ってあげるから!」

そんな事を心配してるんじゃないよ


「その心配はしてないよ。ただ、観光地でもない神社なんかじゃ君が退屈なんじゃないかなって」

僕は好きだけど、それじゃ君が退屈だろう?


「そんなことないよ!」

趣味嗜好って、そんな簡単に変わるものなのかね


「君が神社好きだとは知らなかったよ」


「え?神社は別に好きじゃないよ?」

好きじゃない場所にわざわざ忙しい時に行くってのも、おかしな話だ


「ちょっと君の事が分からなくなったよ」

何がしたいんだろうか


「君は、ずっと前から私の事を理解できてないよーだ!」

付き合いは長いし、そんな事はないつもりだけど……


「そういう事にしておこうか」

四年もあれば、人は変わる事もあるか


「その言い方……ま、いっか!それじゃ登るよ!」


階段の前まで来て、改めてその先を見上げる

「これ、何段あるんだ……?」


「ここはね、三六六段あるんだよ」

うへぇ……


「これ、登らないとダメ?」

もう、ここまでで満足な気がしてきたな


「ダメ!ちゃんと上まで行くよ!あ、おんぶしようか?」

そんな恥ずかしい事頼めるわけないだろ?


「いや、いい。それじゃ、登ろうか」

言い出したら聞かないトコは変わってないな


「うん!」


二人揃って、階段を上り続ける


「五十八、五十九、六十!!」

と君は六十段目で一度立ち止まる


「どうしたの?」

まだ1/6までしか登れてないんだよ?


「ううん。ただ、ここからの景色っていいなって」

そうかな?

景色なら頂上からの方がいいんじゃないかな?


「まぁ、好みは人それぞれか」

さて、まだまだ先は長いんだ

頑張って登っちゃおう


「うん?」


「さぁ、登ろう」

なんでこの階段には踊り場が無いのかなぁ

黙々と登るしかないじゃないか


やっとの思いで三六六段を登り切った!


「ふぅー……きっつ」

なんでこんな高い山の上に建てたんだ


「ふぅ、思ったよりきつかったね!」

君がきつかったなら、僕がどれだけ大変な思いしたか想像できる?


「よくこんな所来ようと思ったね……」

僕だったら、来ようなんて微塵も思わないよ


「君と来たかったからね」

僕を巻き込むこと前提なんだね


「それで、ここはどんな御利益がある神社なの?」

奉られてる神様とかによっては、豊作とか勉強とか金運とか色々あるけど


「えーっと……」

もしかして、知らないのか?


「知らずに登ってきたのか……」

願いが叶うって言ってたし、心願成就とかか?


「そんな事よりっ!見て、街があんなに小さく見えるよ!」

話逸らしたね


「うん。ここ標高高そうだし、良い眺めだね」

眺望良好だ


「景色も楽しんだし。それじゃ、神様にお願いしに行こ!」

何の神様か知らないけど、変な事お願いされるだろうし大変だな



二礼、二拍手、一礼

僕の願いは……特にないので誰か別の人の願いを叶えてあげてください



よし、お願い完了!

隣で真剣に祈ってる君は、一体何を願っているのかな……?


祈る時間の長い君を隣で待つこと数分……やっとお願いをし終わったのか、顔を上げた


「ずいぶんと必死に祈ってたけど、何お願いしてたの?」

そんなに叶えたい願いがあるの?


「うん、実はね……告白が成功しますようにって」

ほう、そっかそっか……

君も年頃の女の子だもんね

そして、ここは恋愛成就の御利益のある神社だったんだね


「きっと成功するよ」

成長した君は、とてもキレイになったから


「だといいなー」


「自信を持つといい」

美しく成長した君なら、きっとうまくいくさ


「うん、頑張ってみる!」

ああ、四年後が楽しみだ

大切な誰かと笑い合ってる君が見れるなら、四年くらい短いくらいだ


「頑張れ」

きっとうまくいくから

でも、四年後からは一人か……


少しだけ、寂しいな




「よーしっ!」

突然気合を入れるなんて、らしいと言えばらしいけど……


「どうしたの?」

真っ直ぐに僕を見つめる君の目は、いつになく真剣だった


「私、三月一日は……二月二十九日君の事が大好きです!」

……は?


「え?何言って」

だって僕は


「君が好き、ずっと前から好きだったの!」


「なんで?」


「わかんない!でも、君といる時が一番幸せなの!」


「四年に一度しか会えないのに?」


「うん!」


「後悔するよ?」


「しないよ!」


「僕は……」


「いいの。君が私の事をどう思ってようと、私は君に告白するって決めてたから」


「本当に僕のこと?」


「うん」


「四年に一度しか会えないんだよ?」


「もう慣れたよ」


「そっか……そこまで……なら僕もちゃんと応えないとね。僕二月二十九日は、三月一日さんを愛しています」

やっと言えた……


「あ……愛⁉」


「うん。僕を気に掛けてくれる君が、愛おしいと。ずっと思ってたんだ」


「え?うそ?なんで?」


「色々あるけど、一つ挙げるなら……君は僕にとって希望だから」


「希望?」


「そう。僕と言う幻を知ってくれてる、明日という希望だから」


「そっか……じゃあ、私達両想いだったんだ」


「そのようだね」


「「ぷっ、ははははははっ」」












「僕が消えるまで、一緒に居てくれる?」


「もちろん。だって、次会えるの四年後だよ?」


「確かに」





日付か変わるその瞬間まで、僕たちは語り合った


また四年後


そう約束して、僕はまた消え逝く


虚しさを感じる事なく、四年後へ想いを馳せて……

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四年に一度 もえすとろ @moestro

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