第53話

 イメージするのは炎の刃。

 いや、炎なんて生易しいものではない。炎の比じゃない温度の熱を持った何か。

 それを薄く硬く、刃の様に。なんでも切れる光の刃。

 近付くだけで危険だから、持つのではなく離れた空中に召喚する。

 とんでもない魔力を必要とする、人間には……おそらくリゼでも扱えない、最強の刃。

 周囲の空気を歪ませるため、実物を見る事は叶わない蜃気楼の刃。

 世界の魔力を代償に召喚したそれを、凍って動けないドラゴンの首元へ振り下ろす。

 手に触れていないため切った感触は伝わらないが、いとも容易くすり抜けていった様に見えた。

 そして、ズル、と滑ったかと思うと……ドラゴンの首が落ち、巨体が倒れ、地響きが轟いた。

 切断面は熱で焼け、血は出ていない。いや、流れ出る前に熱で血が蒸発している。蒸気が立ち込める。

 ……此方が殺されかけていたとはいえ、命を奪うのはやはり気持ちが良いものではないな。

 熱で引火した倒木が、パチパチと燃え出した。

 先ほどのドラゴンの火球で周囲もすでに燃えており、美しかった湖周辺は見るも無残な姿だ。

「ヘイン……」

「大丈夫だ、俺は大丈夫だよ。……それよりも」

 ドラゴン討伐には成功した。という事は、だ。一匹で国を滅ぼせるような魔物を倒したとなると、間違いなく英雄扱いされる。

 俺にはそんな称号は似合わない。黒ネクタイの英雄なんて居てはいけないんだ。

 それに……リゼも一緒だった。となると、世間は、普通の人は学年主席の天才と黒ネクタイ、どっちが討伐したと思うだろうか。

 間違いなくリゼが倒したと思うだろう。

「嫌な役、押しつけてしまうな。……悪い」

「大丈夫。人から色々言われるのは慣れてるから。それに、ありがとう。私一人じゃ間違いなく殺されてた」

「そうか、それならよかった」

 これから色々と大変だろうが、まぁ、今は……リゼを守れた、それで良しとするか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る