天国で再び君に会う
まかろーん
第1話 プロローグ
──朝。
すっかり睡眠時間が短くなってしまった老爺は痩せこけた体をベットから起こす。
現在の時刻は5:00。
老爺はこうして早起きしたのち毎日ウォーキングへと向かう。
外へ出ると、肌寒くもポカポカと暖かい日差しがさし、満開に咲き誇る梅の花が最初に目に入る。
老体になってから遠出もできず、楽しみの減った老爺が毎日お世話を続けて立派になった、昔をよく思い出させてくれる1本の木。
梅の花言葉「不屈の精神」のように強く、美しく咲き乱れる花は満開の桜にも決して負けず、その姿はかつての彼女の姿を想像させる。
最期まで笑い続けた彼女の姿を。
感傷に浸っている場合じゃないと老爺は首を振りいつものウォーキングコースへと一歩踏み出す。
きっと自分もあの時の彼女のようにもう長くはないのだから、彼女のように余生を楽しく過ごさなければ。
※※※
帰宅した後、もうすっかり古くなっており軋む椅子に腰を掛け、朝食を食べ始める。
白米に、味噌汁、鮭の塩焼き。そして緑茶。
オーソドックスな和食のメニューだ。
いつも代わり映えのないこの食事だが、もうあまり味覚を感じなくなったこの口で食べても、いつも美味しいと感じる。
だが、いつもよりも深く彼女のことも思い浮かべてしまったからだろうか、今日は何も感じない。
彼女の文まで楽しく生きると決めたのに。
あるいはもう体の機能が限界に近づいているのかもしれないが。
自分の体のことを念頭に置いて半分ほど食べていたご飯をよく咀嚼して飲み込んでいく。
そうして残さず食べ終わった皿は水洗いをして一つ一つ吹いた後棚の中にしまう。
その後、趣味である読書をしてみたりソファに転がって少しテレビを見てみたり、たまにはご近所さんに顔を出してみたり。
そんな日常が老爺のささやかな幸せの日々であった。
そうして普段と同じ生活をして老爺の1日は終了する。
※※※
数ヶ月がたった朝。
時期は梅が実をつけだした頃。
老爺は重いまぶたを開けて体を起こす。
が、数ヶ月前までよく動いていた体は、今では思うように動いてはくれない。
体を起こすのもやっとで最近はまともに食事を食べることもできなくなっていた。
「俺もそろそろ逝く頃か…」
老爺はそうつぶやき、やっとのおもいで寝床の窓を覗き、外にある梅の木の様子を眺めてみる。
今年に入って実を見るのは初めてであり、老爺にとっては最後にその実を見ることができたのが、何故かとても嬉しかった。
彼女が、見てくれている気がしたから。
そうして老爺はまた寝床に寝そべる。
すうっと体から力が抜けていくような感覚が老爺へと訪れる。
「
病室で笑顔のまま息絶えた彼女の姿がフラッシュバックする。
「ああ……。
だから俺も笑顔で最期を迎えることにした。
享年86。
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