狼の虚しき咆哮より全てを知るべきものか

キイロイコトバ

第壱話 自責

──雨降りの夜

強く降る雨は痛々しく身体の痛点が敏感に反応する。そんな夜、街道から差す光を背に路地裏を駆ける少年が一人。

「待て!この餓鬼がき!」

身体から屈強だという事が解る体格の男性三人から逃げている。だが、そんなこと男性三人から逃げられる程、少年は速くもなければ、持久力もない。五百米500メートルも走れば男性と少年の距離はもう無いようなもの。

「この野郎ぅ!」

少年は男性によって強制的に振り返させられる。少年は目を見開いて、怯えからか呼吸の間隔が縮まっていく。肺の単純作業の速度が上がっていく。

「やめろ…」

顔面蒼白とでも言えばいいだろうか。顔面の血の気が消えていく。まるで言うなら幽霊かのごとく。

「てめぇなんか死んじまえぇ!」

その後は殴る。唯々ただただ殴る。いずれ少年は身体を倒す。路地裏に地べたに仰向けに倒れる。それでも殴る。あざという名の内出血が発生しても。少年は腕を伸ばし拳を止めるがそんなものはただの物に過ぎない。彼らの攻撃を軽減することなど、出来やしない。少年は結局殴られた。とことんと。彼が意識を失なうまで。彼はとことん濡れて、気を失っていた。そんな少年を見つけたのは一人の女性。


私は結香ゆうか。今年で丁度二十歳はたちなの。嬉しいわ。それは家への帰路で起こったの。帰り道、路地裏の方に人の気配がしたから、ふと見ると、そこには、倒れてる男の子がいたの。驚いたわ。

「ちょっ…大丈夫?!」

身体に触れると異常な迄に身体が冷たくて、顔色も蒼白くなってたの。焦ったわ。しかも、痣だらけ。酷かったわ。服もボロボロで穴も空いてた。でも、彼の全身は毛で覆われていたの。まるで犬とかの毛を触れてるみたいだったわ。それが不幸中の幸い。体温が逃げにくいからね。取敢とりあえず、ぐにウチに連れて帰ったわ。それから、体温が少しでも暖かくなる様に、暖房もつけた。まだ脈はあったから、安堵したわ。


身体が暖かい?

ゆっくりと目を開ける。

「……ん…?」

まぶしい…何処どこだ、此処ここ

「あ、起きたの?」

……誰?

「良かった…目を覚ましてくれて。もう、死んじゃったのかと思っちゃったじゃない。」

「……誰?」

「ああ、私?私の名前は結香よ。よろしく。」

「ユウ…カ?」

「うん。あなたの名前は?」

名前…? 俺の…名前… そんなもの…あったか?

「…どうしたの?」

『あなたの名前は…』

何故なぜだ!この計画の何が可笑おかしい?!』

世界消滅計画プランザワールドエンド、か…』

被験者伍番5番はもう破棄だな、焼却しろ』

『どうして…私の子が…』

何かがフラッシュバックの様に思い出す。全くもって知らない記憶を。そして、激しい頭痛が始まった。痛すぎて、その場で倒れ込んだ。

「だ、大丈夫?!ちょっとぉ!」

視界がぼやける。段々と暗くなる。助けて…。


「ちょっと、目を開けて…」

やってしまった…きっと名前を聞いたからこんなことになってしまったんだ…自責が積る。私は彼が目を覚めることを待つ以外、何も出来ない。こういう時に何も出来ない自分を自責する。御免ごめんなさい。唯々そう思うしかない。そうやって自分を責めながら、私は夜中の二時頃に寝た。


「そっか、君は彼を路地裏で見つけて救い出した後に彼を残念な方法で眠らせて、君は二時に寝た。そんな感じでいい?」

「ええ。」

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