グレゴリオ暦殺害事件

雷炎

グレゴリオ暦が死んだ

【2100年2月29日】


グレゴリオ暦が殺された。何を言ってるのか分からないと思うが私だって何を言っているのか分からない。だがどうしたことか今日は2月29日なのだ。


そもグレゴリオ暦と何ぞやという人もいるかも知れないので軽く説明しておこう。


グレゴリオ暦とはグレゴリオ13世がが制定した暦の事で要は閏年のある暦の事だ。閏年とは4年に一度暦のずれを修正する為に1年が366日になることはご存知の通りだろうが実はこれにはちょっとだけ間違いがある。1年が正確には365日では無い為、この閏年を入れても多少の誤差が出る。これを極限まで減らす為に閏年にはもう一つルールがあるのだ。


即ち、【400で割り切れない100の倍数年を平年とする】という物だ。


つまり2000年や2400に閏年はあっても2100年、2200年、2300年は閏年では無く365日の平年なのだ。


ここで今日の日付を思い出して欲しい。そう、【2100229】だ。


一体何がどうなってこうなっているのか皆目見当がつかないがどうやらグレゴリオ暦から前述のルールが消失したらしい。何故私だけがそんなことを認識できているのか皆目見当がつかないが、そんな考えても答えの無い問に明け暮れるよりもっと大事なことがあるだろう。


そう、暦のズレだ。

もし仮に西暦の始まった時からの100の倍数年が全て閏年になってしまっているのであれば今現在の時点で暦は恐らく16日ずれている。これがどれ程までに影響を及ぼすのか定かではないが積もり積もれば大変なことになるのは想像に難くない。


だが一体全体どうしろと言うのだ。この状況下で可笑しいのは寧ろ私ではないだろうか。誰も彼もが現在の狂ったグレゴリオ暦を信じているのであればそれが正しかろうが間違っていようが関係なくそれが正解なのだ。


では私の知るこのグレゴリオ暦の【400で割り切れない100の倍数年を平年とする】というルール事態が空想なのか?いや実際昨日までカレンダーに【2100年2月29日】は存在せず、昨日の明日今日は【2100年3月1日】だった。


ここまでくると私が【2100年2月29日】のある平行世界パラレルワールドに来たと思った方が納得出来るレベルである。


現実は小説より奇なりと言うが平行世界パラレルワールドなど空想はしても到底信じられるものではない。仮に事実でも確かめる術など無いのだから同じことだ。


これで実はこれが私に対するドッキリだ何だと言われれば納得するところであるが、かの日本放送協会すら巻き込んで私一人に対してドッキリを仕掛けられる程優れた人間で無い事は私自身がよく知っている。


インターネット上のサイトを幾つか見て回っても閏年に因んだイベントが行われているだけで何処を見てもこれを可笑しいという人間は居なかった。


いや、一つだけ今年で84周年というやたらと半端な周年を迎える某書く読むなサイトの閏年イベントにて【グレゴリオ暦が死んだ】などという今の私の状況ピッタリの小説があったので読んでみれば地球の公転が変わって閏年が消えたなどという話で、肩透かしを喰らった気分であった。星の公転周期など早々変わってたまるものかと言う話である。


ここに来て私は完全に手詰まりとなった。あらゆる可能性を模索するも、どれも荒唐無稽で確かめようが無い事ばかりである。


ことここに至っては、矢張り私自身が可笑しいのだという考えが正解である様にしか見えず、だが自身が狂った事など到底認めたく無い為、ここで私は一途の望みに掛け20年来の友人に連絡を取ってみることとした。


“プルルルル”


“プルルルル”


“プルルルル”


“ガチャ”


『もしもし』


「もしもし。私だ」


『私私詐欺ですね切ります』


「お前は電話帳に私の名前を登録していないのか!?」


『悪い悪い。で、急にどうしたんだよ黒幕高笑い』


「おい、それはまさかお前の電話帳に登録された私の名前では無いだろうな? まあ、いい。電話したのは他でもない。一つ尋ねたい事がある」


『連帯保証人にはならねえぞ』


「違う! …一つおかしなことを尋ねてもいいだろうか?」


『お前はいつだって可笑しな奴だろ』


「わかった。報復がお望みとあれば例の件をお前の奥さんに…」


『ごめんなさい。私が悪かったです。何なりとお聞きください』


「よろしい。…それで、お前に聞きたいこと。それは」


『それは?』


31?」


聞いた、聞いた、聞いてしまった。こんなおかしなこと腐れ縁の悪友たるこいつ以外に聞ける筈もない。


『はあ? 何言ってんだお前』


果たして狂っているのは私だろうか世界であろうか。この鬱々とした疑問に決着が付く時が遂に来たのだ。鳴りやまぬ心臓の鼓動で頭が可笑しくなりそうになりながらも、私はこいつが次に発する言葉を聞き逃すまいと耳を澄まし次の言葉を待った。



























『おいおい何言ってんだよ。昨日地球の公転が変わって一年が丁度366日になったんだろうが』


「………………………」




現実は、現実は、あまりにも小説より奇であった

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