催眠アプリで気になるあの大統領を思い通りに❤︎〜闇のサイボーグ大統領と強制ラブラブ生活〜

東山ききん☆

序章

第1話 飯富虎、夏侯惇に意見を具申すること

 私の名前は飯富虎昌子。どこにでもいるごく普通の女子高生。


 一つだけみんなと違うことと言えば、右目の視力が1.5あることかな。これはスマホに支配された現代日本人ではかなり優秀な部類だと思う。


 趣味は茶道。

 そういえばこないだ、師範代が新作の玉露と称して、赤色の液体を振舞ってきたので「この玉露はフルボディですね」と冗談を言ったら無言で頷かれてしまった。アレから税務署の職員が部室に出入りしてたけど、私たちはどうなるんだろう?


 部室に入ると師範代は無言で涙を流していた。何かあったのかな。

 今日はスーツを着た専門官が部室の茶道会館の地下から沢山の樽を運び出していた。


 しかし、師範代はスーツの人たちに詰問されるのに忙しいようで、私は部員のいる茶の間へと赴いた。

 茶の間には部員が一人佇んでいた。


「先輩、おはよう御座います」


「ブヒヒィ、おは、おはよ、ブヒィ、おはよ、ようですなぁ」


 この息の荒い小太りの先輩の名前は座頭市道満先輩。典型的なオタクというタイプの御仁で、その手の知識について右に出る者はいない。体重は軽く100kgを超えているらしい。

 悪い人ではないが、いつも何かに怯えたような喋り方をして、視線をキョロキョロさせているので、正直言って苦手なタイプだ。


「先輩、今日はスーツを着た専門官が出入りしてますね。何かあったんですか」


「ブヒィ、それは私が税務署に通報したんですなぁ。流石に恩義ある師範代と雖も、今回の件は看過できぬ所業にござる」


 座頭市先輩は正座し、両眼を静かに閉じたまま、優しい口調で話した。全てを覚悟し、落ち着いた大人の佇まいだ。あと近付くと藤の花の香りがする。

 先輩は脇差を腰に下げたまま、やおら立ち上がると、抜刀して何もない空間を切り裂いた。


「先輩、師範代はどうなるんでしょうか?」


「師範代殿は最早どうにもならんでしょうなぁ。この両眼は涙を流すこともあるまいが、せめて行く末を聞き届けることはさせていただきやす」


 先輩は相変わらずオタクっぽい口調で刀を鞘に収めた。悪い人ではないんだけど。


 そのとき、先輩の眼の前で小型のドローンが真っ二つになって床に落ちた。


 このドローンは私たちの様子を偵察するために仕向けられたスパイロボットに違いない。

 馬鹿な。先輩はこのドローンがいることに気が付いていたのか。そして瞬時に切り裂くとは。


「グァァァ」


 遠くから悲鳴が聞こえた。窓を見ると、グラウンドの方でドローンを操作していたと思しき税務署の専門官が真っ二つに裂けて倒れた。


「フッ…本体とのシンクロ型ドローンでやしたか。そいつぁちと悪いことをしてしまいやしたね…しかし、純情な乙女の私生活を覗き見しようなんざ、それこそ袈裟斬りにされても文句は言えんでやんしょう?」


 あのドローンは操作者本体とのシンクロ型だったのだ。だからドローンのダメージが本体に跳ね返って死亡したのである。

 先輩は税務署の専門官を斬り伏せてしまったのだ。


「そんな、先輩、どうして」


「気にするこたぁねえ…アンタは何も関係ねぇよ。自然の成り行きってヤツだ。それにこれは峰打ちだ」


「なんだ、そうだったんですね」


 そのとき、部室の中にスーツ姿の一団が乗り込んできた。スーツ姿の男たちは全員が機械化されたサイボーグだった。そして顔面の半分がスマホになっていた。


「おっとお、やってしまいましたなあ、座頭市さん」


「へえ、何のことでやんしょう?」


 スーツのサイボーグ達を掻き分けて前に躍り出たのは、金髪のイケメンサイボーグだった。しかも全身が機械化されており、人間の奴隷に首輪を繋げて散歩させていた。


 彼の名前は夏侯惇。税務署の専門官の若きホープでありながら、この自治区の行政官も務めている、我が校の生徒会長だ。惇会長は今日も元気だった。


「ギギギ、俺は見たゼェ。座頭市さん、アンタが俺の可愛い可愛い部下を斬り伏せるところをなぁ?これは見逃しては置けねえなぁ〜?」


「待ってください、惇会長。先輩は師範代が連れて行かれるから、気が立っているだけなんです。先輩は師範代に大きな恩があるから。今回の件についても義を優先するがゆえに、一見矛盾した行動をとってしまっただけなんです。果たして支配者が義を貫く者を軽んじて、良い政治が成せるでしょうや?」


「この俺に意見するとは。フン、おもしれー女だ。王たる儂に義を以て意見を具申したのはお主が初めてよ。良いだろう、貴公の覚悟に免じようぞ。今回は奴隷八人で勘弁してやろう」


 惇会長は右手の十三本の指のうち、八本を立てました。


 そんな。八人の奴隷なんて。我が家の奴隷を八人も連れて行かれて、このまま冬を越せるはずがありません。

 惇会長はきっと金銭感覚がないんでしょう。機械の体だから。


「どうした?余に意見したのだ。命の代価としては破格の条件と思うが?」


「お待ちなせぇ、行政官殿。これはあっしとそちらさんの問題。お嬢さんは関係ねえよ」


 座頭市先輩が意見すると、惇先輩の側近が部室に火を放ちました。


「愚かなオタクくんよ。どうなるかわかっておった上で、この儂に意見するとはな。残念ながら儂は寛容ではない。交渉が成り立たぬなら、略奪と暴力でそちらをねじ伏せるのみよ」


 なんて暴君でしょう。茶道会館には観光客も多いのに。このままでは観光客諸共に全員灰燼に帰ってしまいます。

 火は既に茶道会館全体を包み、焼け出された観光客達が火達磨になりながら運河に飛び込んでいきます。

 部室はまさに地獄絵図の様相を呈してしまいました。


「さて、どうするね?奴隷八人で手を打つか。今この場で処刑されるか。二つに一つよ」


 惇会長は巨大な薙刀を片手で操り、此方に向けてきました。

 圧倒的な暴力の前に、私は膝を屈しました。


「会長殿。おやめ下さい。この場には関係のない者も居るのです。どうか真の王ならば無辜の民たちに慈悲をお示しください」


「異なことよ。茶道会館はそちら茶道同好会と関係団体の所有物件。この場では儂はただの略奪者に相違ない。その儂に膝を屈し、民の命乞いすらするとは笑止千万。そちも王ならば我に立ち向かわんと思わぬのか?」


 惇会長が薙刀を振り下ろすと、私の右肩に僅かに触れ、そこから血が溢れ出ました。


 さらに、会長は薙刀を座頭市先輩に向けます。


「お主も馬鹿な奴よの。儂を自陣に引き入れ、刃傷沙汰が起こらぬとでも?それもお主の義とやらが招いた損失よの。異論があるならば申してみよ。斬り伏せてやろう」


「言うことも何もねえよ。これはあっしの見通しが間違ってた…!!アンタを信用しすぎてたみてえだ」


 そのとき、敵軍を蹴散らしながら、騎馬に跨った武者が乱入してきました。師範代です。


「ゴアアアアアアア」


 決死の師範代は鬼神の如き表情で、次々とスーツのサイボーグ達をバラバラにしていきます。

 師範代は既に切腹しており、脇腹から血を垂れながら、長槍を順応自在に振り回しておりまする。


「夏侯惇ッッッ」


「王ッッッ」


 師範代の長槍と、夏侯惇の薙刀がぶつかり合い、瞬間、一つの宇宙が生まれました。

 その衝撃は部室を包む炎すら吹き飛ばし、真空に切り裂かれて、二人の間に細かな裂傷が生じます。


「お前達、ここは俺に任せて逃げろ」


「しかし師範代ッッッ」


「馬鹿野郎ッ!お互い道を違えたとしても、俺はお前が間違っていたとは言わねえよ」


 師範代は両目から血の涙を流してました。座頭市先輩も心の中では涙を流してたでしょう。

 二人は義兄弟でした。


 座頭市先輩は私を小脇に抱え、窓をぶち破って運河へ突っ込んで行きます。


「逃すと思うか」


「会長殿、俺の相手をしてくんねぃ」


 私たちを追いかけようとする夏侯惇に背後から切り掛かる師範代。しかし、夏侯惇は眼帯を外し、両眼を開眼することで全ての動きを見切りました。


「面白い漢よ。この儂に両眼を使わせるとは」


 一瞬の交錯。薙刀に貫かれたのは師範代の方でした。


「ぐふぅぅぅ!!馬鹿め!お主が貫いたのは既に俺っちが切腹した脇腹よ!!」


「なにぃ」


 そう、師範代は伊達や酔狂で切腹したわけではありませんでした。

 脱税や道を違えた罪悪感から切腹したわけですらなかったのです。


 師範代の槍が真っ直ぐに夏侯惇の目を狙います。

 しかし、夏侯惇は圧倒的な体捌きで槍を噛み砕いてしまいました。


「愚か者め。王たる余に刃を向けるとは。その罪死に値する」


「……蓄えた財産で牛五頭を飼ってある。奴隷八人の代わりに連れて行け」


「ならぬ。彼奴等は儂自ら手打ちにする」


「牧羊犬も付けよう。ダックスフントだ。妊娠もしている」


「ならぬ」


「ならば俺の命もくれてやろう。」


「ならば牛十頭も用意せよ」


「心得たッッッ」


 師範代が胴着を脱ぐと、全身にダイナマイトを巻きつけてました。


「ウヌヌヌヌヌッッッ」


 その瞬間、茶道会館は大きな爆発に包まれました。数千人の人々が運河に投げ出され、命を落としました。


 爆発から三十分後、瓦礫の中から略奪者たる夏侯惇会長が師範代の生首を掴んだまま姿を現しました。無傷でした。


「気に入ったぞ。儂もお主と兄弟の契りを結んでやる。光栄と心得よ。さあそちの名を言うが良い」


 師範代の首から下はサイボーグのコードが伸びてました。


「……ふん、自分が既に機械の体と知らなかった口か。だがその切腹は見事。武勇伝は詩人に語り継がせよう」


 夏侯惇は師範代の生首を握りつぶすと、噛み砕いて天に向けて噴き出してしまいました。

 そして、瓦礫の山に師範代の血で墓碑銘を刻みます。


「お主の名を儂が付けてやろう。安心せよ。あの二人は生きて帰してやる。」


 取り巻きのサイボーグたちも全員無傷でした。


「夏侯高弟七機衆、あの二人を生きままとらえよ」


 黒いサイボーグ七機は馬に乗って走り出してしまいました。猛将夏侯惇も夏の夕焼けに去って行きます。


 その場にはただ、師範代の名前だけが残りました。


 その名は

 VAIO SX-12

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