菜の花が咲く頃に

雨中若菜

第1話 菜の花が咲く頃に

 哲の待つ場所はもうすぐそこであった。

 だが、それは反政府軍も数多くいるのと同じ意味を持つ。

 もはや、将と菜穂は二人で軍の人間から逃げることは不可能であった。

 できる方法はただ一つ、どちらかを犠牲にすること。

 ふと、兵器搬入路に続くドアの前で、菜緒は立ち止まった。


「......テツを止められるのは、同じ超能力者のショウだけなのです。ですから、ショウは先に行ってください」

「ナオ、そんなこと言うんじゃない。まだ、諦めるときじゃないだろ。二人生き残る方法はまだゼロじゃないんだ。また三人で一緒に......」

「全く君はいつも」


 菜穂は将の背中を押して、扉の向こうへ行かせる。


「私はもう、生きているのだか、死んでいるのだかよくわからない、こんな機械の体なのですよ。そうそうに死ぬことはないです。だから、菜の花が咲く頃に」

「菜の花が咲く頃に......?」

「また会おうなのです」


 そして菜緒は防護壁のレバーを引き、扉を閉じた。

 軍の人間がここに来るまで、あと数分しか残っていない。 

 菜穂は将の足音を聞きながら、流れることのない涙を拭う。


「空は綺麗な程に青くて、涙が出てくる程にこの世界が愛おしくて、胸が苦しくなる程に君の隣に立っていたくて、でもそれは叶うことがない願いで」


 菜穂は剣を引き抜く。


「もう、これくらいしかないのですよ」


 無数の足音がどんどん大きくなってくる。足音からするに、ざっと100人以上はいるだろう。到底、一人で勝てる数ではない。


「いたぞ!殺せ!殺せ!」


 無数の銃口が菜穂に向けられる。


「全く、私は仕方がないほどに大馬鹿者ですね」


 そして、引き金が引かれると同時に菜穂は走り出した。

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