家庭の事情

男気

第1話 

優太に頭をポンポンと叩かれ、目をこすりながらスマホを開いた。

「11時39分」となっている。

はあっ・・・と、ため息をつき、ゆっくりと布団から出た。

テーブルに置いてある、小瓶の中から錠剤を2錠手に取り出し、

口に放り込み、水道水で流し込む。

また、ため息をつくと、離乳食を作り始めた。

作ると言っても出来合いのものをあっためるだけのものだ。

優太の口に向かって、その離乳食を運ぶ。

優太は満足そうな顔で、その離乳食を食べてくれた。

今日は、大丈夫だった・・・と心の中で思った。

食べさせた後に食器を洗い。

テレビをつけ、壁にもたれ、体育座りの姿勢で、

何も考えず画面を眺めていた。

誰かの話している声を聞くとなぜか落ち着く。

優太は敷きっぱなしの布団の上で、ゴロゴロしながら遊んでいる。

「はは・・・、何やってんの・・・。」

と疲れ切った顔のままちょっとだけ笑った。

そのまま何もせず、ひたすらテレビの画面と優太を眺めながら

日が暮れるまでずっといた。


ガチャと鍵が開く音がする。

「ただいまー。」

夫の正志が帰ってきた。

正志は散らかった部屋を見て、はあっとため息をつくと、

何も言わずに片付け始める。

「飯はもう食ったのか?」

正志は片付けながら、私の顔を見ずに聞いた。

声を出すのも疲れるので、何も言わずに首を横に振った。

「そうか、弁当あるけど食うか?」

と正志は帰り道の途中にある弁当屋さんで買ってきた

唐揚げ弁当の1つをビニール袋から取り出した。

「ありがとう・・・。」

と小さな声で言うと、

「冷蔵庫に入れとくから後で食べな。」

と正志はいい、もう一つの弁当をレンジに入れた。

優太は疲れているのか布団の中でくるまったまんま寝ている。

何もできない、頑張れない自分を情けなく思った。

こんな私に夫は特に何も言わなかった。

それが余計に辛かった。


正志は、部屋を片付け終わると買ってきた弁当を台所のテーブルで一人で食べた。テレビを見ながら、ビールで流し込む、この画角だけ切り取ると

ほとんど独身男性の夕食のようだ。

部屋の中には三人いるはずのにずっと孤独な気分だ・・・。

弁当の容器をゴミ箱に入れると、正志は風呂に入った。

正志が風呂に入るのを確認すると、買ってきてくれた弁当を温め、

ほとんど飲み込むような形で急いで食べると言うよりも口に流し込んだ。

一緒に食べればいいのに、なんでそんなことをするのか自分でもよく分からなかった。

正志は風呂から上がると、テーブルの上の残った缶ビールを飲み干し布団に入る。私と正志の間にはほとんど会話はない。

正志が布団に入ってから1時間か2時間すると、ガー、ガーと正志のいびきで、優太が目を覚ましてしまった。

「やっぱり、起きちゃったか。」

同居し始めてから正志のこれにはずっと悩まされてきた。

これのせいで、この2、3年はまともに寝れたことがない。

子供の夜泣きと、夫のいびきで不眠が続き。

夫が出勤してからやっと寝られるような状態がずっと続いてる。

何度か、いびきのことを言ったけど一向に治る気配がないので、

もう諦めている。

もう夜中の10時を回っている。そう言えば、今日優太1度しかご飯食べてない。

「優太、お腹すいた?」

と聞く。分かりきっていたが返事はない。でも、ハイハイしながら私の元に近寄って来た。私は、本日2回目の優太のご飯を作り。

それを優太の口に運ぶと、今度はイヤっと私の手を跳ね除けた。

優太にスプーンを手渡すと、自分で食べ始めた。

「えらいね、えらいね」と言いながら、

口周りについた、ご飯を拭ってあげた。

なぜか、涙が出てきた。

辛いのか、悲しいのか、悔しいのかよく分からないけどなんだか涙が出てくる。

優太はそんな私をじっと見ている。

「こんなお母さんでごめんね・・・。」

正志は、いびきをかきながら寝ている。

涙を拭って、小瓶の中から錠剤を2錠手に取り出し、口に放り込み、水道水で流し込んだ。

危ない・・・、また死にたくなりそうになった。

半年前に、無理心中を図ったときは運良く正志が止めてくれたけど、

このままだと、詩織だけじゃなく優太とも一緒に暮らせなくなりそうな気がした。

できることなら、二人の子供と一緒に家族4人で幸せに暮らしていけたら良いと思うけど、こんな不安定で危なっかしい私よりも、もっとちゃんとした人たちに育ててもらった方が良いのではとも思っている。

少しでも負担を減らすために、生まれたばかりの詩織は施設に預かってもらっているけど、でもいつまで?

私の病気が治るまで?

はあっと、またため息をつく。

正志は、いびきをかきながら寝ている。

「うるさいな・・・。」

と呟くが、本人には実際には言わない。

ご飯を食べ終わり、優太と一緒に布団に入り。

いびきの中、悠太を寝かしつけた。





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