腹黒ガールまりんちゃん
桐生夏樹
第1話 ツトムの場合(前編)
彼女は貧乳だ。
だがしかし、あえて自分の適性サイズより1カップ上のブラを身につけている。念のために断っておくが、見栄を張っている訳ではない。たぶん。
Cカップブラの中で、Aカップの胸がぷるんぷるん楽しそうに泳いでいる。それはもう鯉のぼりもビックリだ。面白そうに泳いでいるのだ。まあ、揺れる胸があるのかは、彼女の幸せのために触れないでおこう。
彼女の服装は秋葉原に居るメイドさんのような服装である。しかも胸元が大きく開いている。
道歩く人たちが、次々と振り返る。
『なんだあの痛い女は……!』
まあ、そうでしょう、そうだろう。大多数の男が思う感想だ。
彼女の活動範囲は、神奈川県の藤沢駅周辺。
だがしかし、彼女は陰口なんて気にしない。彼女の
――さて、本題に入ろう。
駅の改札前で、キョロキョロと辺りを見回している挙動不審の男が居た。
その男は、赤いチェック柄シャツの前ボタンを全開にして、萌えTシャツを見せつける絵にかいたような
だけれど、彼女はヲタクに動じることなく大きく手を振り、ちょこまかと細かく足を動かしてヲタクに駆け寄った。
「ツトムきゅーんっ! おまたせにゃん。もしかして待ったにゃん……?」
「ま、まままりんちゃん。い、いや、今来たところ……だよ。」
……そんな訳はない。
待ち合わせ時間は13時、今は15時だ。もし彼が本当に来たばかりなのだったら、彼も大遅刻していると言うことだ。誰が聞いてもわかる嘘をついてしまう男の悲しい
「よかったにゃん。まりんー……ツトムくんとデートできるなんて幸せにゃん!」
彼女の名は、
彼が何時間でも待つだろうことを見越して、ワザと遅れて登場する。自分が良ければそれで良い。どころか、待たせてナンボだと思っている、まさに痛い女なのだ。
「う、うん……僕も、まりんちゃんと二人きりなんて夢のようだよ。」
「えへっ! まりん、うーれーしーいー、、、にゃん!」
「え、えへへへへ。」
キモい、そして怖い。色んな意味で怖い。彼らの周囲に不自然な空間が作られているのも仕方のないことだろう。
「あ、いっけなーい!」
何やらポケットからハンカチが落ちたらしい。と言うか、明らかに行動がワザとらしいと言うか、不自然な感じがした。
「ど、どうしたの?」
「ハンカチ落ちちゃったーあ。まりんったらドジだなあ。拾わなきゃ。」
落としたんだったら、とっとと
――よいしょ、よいしょ
まりんは萌え声で呟きながら前屈みになり、ハンカチを拾う姿勢を取った。
だがしかし、何故か膝を曲げずにハンカチを拾おうとしていて、体が固いのか中々拾えないようだった。ドンくさいな、膝を曲げろよ。膝を。
「!!!!!!」
何故かツトムが反応している。
視線は斜め下、まりんの胸元にロックオンだ。
そう、皆さんお気づきの通り、まりんの胸の谷間が、見え隠れしている。
そして、この話の最初に紹介した通り、ブラジャーの中身はガバガバなのだ。彼の位置から丁度ブラの空間、嬉し恥ずかし魅惑の
――ご、ごくり。
思わず条件反射で唾を飲み込むツトムだった。
「ハァ、ハァ……」
ツトムの息遣いが荒くなってきている。二次元の女子しか知らないDTの彼には刺激が強すぎるようだ。
それも無理はない。生まれてからこの方、女子の秘密の扉を開けたことが無いのだから。本来ならハンカチを拾ってあげるのが、男ってものだ。
だがしかし悲しいことに、彼の脳内に『ハンカチを自ら拾って渡す』、その選択肢は無かった。
前屈みになったまりんの胸の谷間が、ピンクの髪によって見え隠れしている。そう、見えそうで見えない、これがチラリズムだ。
谷間が見えたその瞬間、ブラの隙間から魅惑の小さな膨らみが彼の視界に現れる。もう少し、もう少しで頂上が……! と思ったのも束の間、まりんのピンクの髪が希望の魅惑ゾーンを隠してしまう。
――ああっ!
思わずツトムは溜息をつく。でもチャンスはまだある。次だ、次をくれ!
額に薄っすら汗を掻きゴクリと唾を飲み込む。そして、自分の全神経をまりんの胸元に集中した。
うむ。普通にキモい。
「よいしょっと。」
ツトムの努力も虚しく呆気ないほどに……まりんは何事も無かったかのように、一瞬にしてハンカチを拾いあげた。
――ああっ!
2回目の「ああっ!」と共に、ツトムは目を逸らした。そう、まりんは起き上がってすぐに、ツトムのことをジッと睨みつけたのである。
まりんが何を考えているのか全くわからなかった。ひたすら三白眼でツトムのことを見つめている。
そして、ツトムの期待の汗は、一瞬にして
ツトムは思った。
――胸元見てたの気付かれてないよね。まりんちゃんハンカチを拾うことに必死だったし。
ツトムの脳内は、思考がグルグルと駆け巡り錯乱状態になっている。だがしかし、ようやく一つの答えを導きだしたのだ。そうだ、まりんへの気づかいだ。
「ま、ままままりんちゃん、大丈夫……?」
遅すぎると言って良い。今更ながらの気づかいだ。わかりやすいほど、どもっている。
だがしかし、まりんはニッコリと微笑んだ。
「うん大丈夫、ありがとう! つとむくんは優しいね!」
「い、いやあ……そんなことな……」
照れると共に、安堵の表情を受かべるツトム。うん、良かった。本当に良かった。めでたしめでたしだ。ここで「完」と打ってもよいくらいだ。
だが、そうは問屋が卸さないのだった。ツトムの謙遜の言葉は、別の声でかき消されたのだった。
「……と、言うとでも思ったのかクソオタク!!」
「えっ、えっ?!」
まりんの顔が般若の顔に変貌し、ツトムへの恫喝が始まった。
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