Islands of the dead

プラウダ・クレムニク

第1話 死の豪華客船

 死んだはずの人間が再び動きはじめた――いまどき、そんなことを信じる者は珍しい。しかし、中国共産党の最高指導者とその側近たちは動く死体の存在を疑うことはなかった。ゾンビ研究は彼らが命じていたことだったからである。

 中国科学院武漢病毒研究所はBSL4バイオセーフティーレベル4の実験室を使って後に「ゾンビウイルス」と呼ばれることになる病毒ウイルスの研究をしていた。

 ウイルス漏洩が発覚してすぐに、中国共産党は武漢へ続くトンネルを物理的に封鎖するなどウイルスの封じ込めに努めたが、試みは失敗した。ウイルスは単独で武漢から脱出したわけではなかった。体内にそれを抱えた人間が役人や警官、人民解放軍の士官や兵士に賄賂を渡し、封鎖を越えていったのだ。

 春節の大移動の時期にあわせてウイルス漏洩が起きたことから、中共の幹部たちはこの一件をテロではないかと疑っていた。しかし、犯行声明はなく、捜査をしても犯人らしきものは絞り込めなかった。そうこうしているうちにゾンビは中国全土で出現するようになっていく。

 大陸の奥地だけでなく、ゾンビは海をも越えて版図を拡げた。各国が渡航禁止措置をとるなか、事態を把握できていない日本は動く死体の侵入を許すことになった。豪華客船のなかで発生したゾンビは日本に着いた。脱出し、家に帰った者が夜半に死に翌朝各地でゾンビ化した。これが「死の豪華客船」事件である。

 この事件では船内で白いチャイナドレスを纏った美女が目撃されている。彼女は青龍偃月刀を軽々と振り回し、ゾンビを倒していったという。また、彼女が去った後には船内の腐臭をかき消すように芍薬の香りを微かに漂っていたとされる。

 チャイナドレスの美女を初めて目撃したのは「死の豪華客船」事件の唯一の生き残りであるSAT(警備部警備第一課の警官である。PTSDのため依願退職した彼は、チャイナドレスの美女と行動を共にしていると言われる。ゾンビが出没するところに美女あり。そしての男あり。

 これは日本を舞台にした二人の物語である。

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